あてのない
        Love letter

  暑い日が続いていますね。
  お元気でお過ごしでしょうか?

  年老いた母が、転倒による大腿骨骨折で手術し、入院しています。
  
  怪我の痛み、環境の変化で、驚くほど急に、そして大きく
  見当識障害が始まりました。
  いわゆる、認知症の症状です。

  一日ベッドの上で拘束され、話す相手もいなくて
  痛みだけと戦う毎日。
  最初の頃は、
  なぜこんなことになってしまったのだろう
  なぜ、こんなふうに扱われるのだろう、と
  涙ながらに訴えることが多かったのが
  日を追うごとに、だんだんとうつろな表情になっていきます。

  きっと、考えることを止めた方が楽だからかもしれません。

  でも、私と話しているうちに
  私が持って行った好物を食べているうちに
  目に光が戻り、表情がしっかりとして、一時間もすると
  普通に会話ができるようになります。

  そして、病院を替え
  日中の大半をベッドではなく車いすで過ごすようになり
  リハビリの時間も増えたいま
  会いに行くと、笑顔で迎えてくれるようになりました。
  あの、うつろな表情がうそのようです。

  座ってテーブルで他の人と食事をすること
  人の間で過ごし、人の動きを見ていること
  会話をすること
  当たり前に思う日常が、ひとが「生きる」ということにとって
  いかに大切なことなのか、と改めて感じています。

  そこにいるだけで、一緒に食事をしたり会話をするだけで
  誰かの生きるエネルギーになれるのですね。
  特別なことができなくても。
  周りの人を風景にしてしまうのでなく
  人と関わろうとさえすれば。
  

   2012年 8月3日  
  
  人は人の間に暮らして
  人間になるという言葉を
  改めて思い返しながら…

   
    
   
   ランタナの花の蜜を吸うシジミチョウ  
  
   小指の先ほどの小さな花も
   小さな生命のエネルギーになっています。