| The
knight's heart part4 |
| 「煉! やっぱり、煉だ!!」 メイの顔が、ぱあっと輝く。 そんなメイを、煉はただ言葉をなくして見ていた。 ずっと捜し続けていた姉が目の前にいることが、まだ信じられなかった。 3年前別れたきりだったのだ。 メイの知り合いと分かり、キールは肩の力を抜く。 シオンは「煉」という名で、すぐに彼が先ほど話に出ていたメイの弟だと分かる。 メイは煉に近づきながら、首をひねった。 「でも、あんた魔法なんて誰に習ったのよ」 「・・・・・・こいつらが、2回使うのを見た」 感情をどこかに忘れたような煉の声。 それには気づかず、内容のほうにメイは眉を寄せた。 この弟は見よう見まねでいきなりこんな凄い威力の魔法を使ったのだ。 「・・・あんたって相変わらずイヤな奴ねえ」 「・・・・・芽、衣」 ここにいるのは芽衣だ。 本物の、本当の、芽衣だ。 ゆっくりと、その事実が煉の胸に染み渡る。 メイは笑いながら、煉を見上げた。 「もう、どうしたのよ。まさかあたしを忘れたなんてふざけた事言・・・・・・」 メイの言葉は途切れた。煉の顔が、歪んだのだ。弟が泣いてしまうのかと思った時、メイは彼に強く抱きしめられていた。 「芽衣! 芽衣! 芽衣!!」 「れ・・・煉」 「捜したんだ! 捜して、捜して、捜してっ。俺は・・・・・・!」 メイがシオンに言っていた通り、煉の気質の真は紅蓮の炎そのものだ。どこまでも熱い。 しかし一方で―メイは笑ったが―、煉の周りの者に、彼が熱血だと言って納得する者はメイ以外一人もいないだろう。 その身の内の熱さに反して、彼の外側はどこまでもクールだった。時には近寄り難い雰囲気さえあるのは、その整った顔のせいだけではないだろう。 ただメイの前では、顔と頭と運動神経は別として、ごく普通の少年―すでに青年でも通るが―だった。しかしそれでも、普段ならメイ以外の目がある場所ではこれほどまでに感情を吐露する彼ではない。 メイは、胸がつまった。 自分は、こんなにもこの弟を苦しめていたのだ。弟が自分をとても大切に思ってくれていることを知っていながら、その事を思いやれなかったことを悔やんだ。 「ごめん。・・・ごめんね、煉・・・! ごめんね・・・・・・っ」 「芽衣!!」 煉は、姉を抱く腕に力をこめた。 それを眺めるシオンは不機嫌だった。 弟と分かっていても、他の男と抱き合うメイを見ているのは良い気分ではない。 だが、大きく咳払いしたのはキールだった。 「おい、お前。いったいこの状況をどうするつもりだ」 「ちょ、ちょっと待ってよ、キール」 メイは、煉から離れるとキールから煉を庇うように立った。 「煉だって悪気があったわけじゃ・・・・・・」 「ここまでされたら、そういう問題じゃすまないだろ」 キールの煉を見る目は冷たい。メイが煉を庇うので、キールはなおさら腹立たしかった。 シオンのように、煉がメイの弟だと知らないぶん苛立ちは大きい。 キールはシオンのようにメイを想っているわけではないが、彼女の保護者役であったせいかいきなり現れてメイと親密な雰囲気でいる男におもしろくない。 煉はそんなキールに目を向けた。 メイを抱きしめた時の激情は、すでに完璧に隠し去られている。煉のキールを見る目は冷たく、そして鋭かった。 目の前の男のメイへの想いが、まるで娘や妹に向けるような種類の愛情であることに煉が気づけるはずもなかった。 煉とキールの間に、険悪な空気が流れる。 困ったように、メイはシオンを向いた。 「ねえ、シオンも何とか言ってやってよ〜」 シオンはそれに、軽く笑って肩をすくめるだけだ。 メイは大きく息をついた。 「許してやってよ〜。どうしてもって言うなら、あたしが責任とるから」 その言葉に、さすがに煉は慌てる。 「待てよ芽衣。俺はそんなのは嫌だぜ?」 「あんたは黙ってなさい」 「黙ってられるか。俺は、芽衣の負担にだけはなりたくない」 姉弟は見つめ合う。 メイは呆れたように笑った。そっと煉の頬に手を伸ばす。 「馬鹿ね、何子どもみたいに我を張ってんのよ」 「それは、芽衣の方だろ?」 煉は笑って、芽衣の額に自分の額をそっとくっつけた。 愛しい想いが、胸を満たす。 こうしてお互いの前に立つのは、本当に久しぶりだった。 少女と少年の流れる時間は速い。三年の時間は、外見も大きく変化させている。煉の身長もさらに伸びたし、身体つきもメイが知っている時よりもっとがっしりしていた。近くで見る顔は、端正な中にもぐっと男らしさを増している。メイも煉の目に眩しいほど綺麗に映った。以前は可愛らしいばかりだったが、今では「美しい」という形容も許されるだろう。 けれど互いの目の奥に、流れた時間の中でも変わらないものを確かに感じて、姉弟は間近で見つめ合って、お互いに破顔した。 シオンに煉がメイの弟だと聞いて、キールは少し落ち着く。 額をくっつけあってから、笑って再び再会の喜びに抱き合う姉弟を見ながら、シオンは言った。 「異世界のキョーダイってのは、皆ああなのかね」 「さあ」 キールの声は、腹立たしいのを通り越してしまったのか疲れたようだった。 シオンは半分唸っている。彼の分からない世界だった。 「お前もアイシュとああいうことするのか?」 「―気色悪いこと言わないで下さい」 そんな外野の声が聞こえなかったのは、当人たちにしても言ったシオンとキールにしても幸運なことだったのかもしれない。 ともかく、とりあえず事態は収まっていた。 |
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