| 祈り \ |
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| 「・・・・・・」 シオンの視線が背後にいくのを見て、メイは振り返った。 「・・・レオニス・・・・・・・・」 その視線の先に立っていたのは、メイたちと同じように全身濡れそぼったレオニスだった。 軽く息を乱しているのは、駆けてきただからだろうか。 どうして? そう、メイはまず思った。 この時間は、彼は執務中のはずだ。それがこんな雨の中走り回っていたらしいのは普通ではなかった。 レオニスは真っすぐメイとシオンに近づいてくる。 レオニスと、シオンの視線がぶつかった。 互いに無言だったが、シオンは軽く息をつくとレオニスの肩を叩いてその場を去ろうとする。 「シオン!?」 呼び止めるメイを振り返り、いつもの軽い笑みを残してシオンは行ってしまう。 レオニスに災厄の原因のことを言われなかったことにほっとしながらも、メイは何も言わずに行ってしまったシオンの背中を半ば呆然と見送った。 ふいに、痛いほど叩いていた雨が無くなって、メイは目を上げる。 レオニスが自分の着ているコートの片側を広げ、彼女を雨から守るようにかざしていた。 メイはあわてたように笑う。 「いいよ、レオニス。あたし、ほら、レインコート・・・」 着てるから。 だが、メイのその言葉も笑顔も、レオニスの真剣な眼差しに凍りつく。 先ほどのシオンとの会話を聞かれたはずはなかった。 しかし、メイの笑顔は強ばる。 「・・・ど、どうしたの・・・・・?」 「・・・・・・・・・」 レオニスは、空いている手の方でメイの雨で冷えた頬に触れた。 「寒く、ないか」 「・・・・・・・レオニス・・・・・」 「・・・・・・気づいてやれなくて、すまなかった」 え? メイは、そう思ってレオニスを見上げる。 どうやってレオニスが、災厄の原因がメイであるとされているのに気づいたのかは分からない。 けれど、レオニスのメイを見つめる瞳は、全て知っていると語っていた。 「すまなかった」 「違、レオニス、あたしが・・・・・っ」 レオニスは悪くない。 そう言いたいのに、言葉にならない。 漏れる嗚咽が、抑えられなかった。 溢れ出す涙を、メイはもう止められなかった。 レオニスはメイを抱きしめた。 「・・・ごめんね。ごめん、ね、レオニス」 なぜ自分が災厄の原因なのだろう。 メイは泣いた。 望むのは、レオニスと一緒にいたいと、ただそれだけなのに。 「ごめんね・・・・っ」 「―お前のせいではない」 泣きじゃくる恋人に、レオニスはそう強く言った。 たしかに災厄の原因であることは、メイのせいではなかった。 それでも。 メイは唇を噛んだ。 世界の・・・・この国の苦しみは自分のせいなのだ。 すぐにこの世界を去るべきなのに。それが分かっているのに。 願ってしまう。 この人と、離れたくないと。 「レオニス・・・!」 メイはぎゅっと、レオニスの服をきつく掴んだ。 「・・・・・・・2度と、言わない。今だけ、今だけだから・・・!」 メイの胸に、ディアーナやシルフィスたち、この国に暮らす大切な人たちの笑顔が浮かんだ。 神様、皆、許して。 もう絶対に願わないから。 「―離れたくない・・・・・・・!!」 「離さない」 すぐに強く返された言葉に、メイは目を見開いた。 自分がこの世界にいるということは、世界を、この国を、滅ぼすということだ。 レオニスは、誰よりもこの国を愛しているはずなのに。 メイはレオニスの胸で泣いた。 気休めでも、嘘でもよかった。ただ、今だけでよかった。 「何も心配しなくていい」 強い、レオニスの声がすぐそばで響く。 「わたしがお前を守る」 「・・・・・・・」 あなたの、そばにいたい。 メイは胸が痛いほどに、そう思った。 激しい雨の音だけが、いつまでも響いていた。 |
END