GentlyU



       


重々しく扉が開き小柄な少女が中に入ると普段と変わらぬ表情で宮廷魔導士が佇んでいた。
「シオン」
思わず声に出してしまった呼び掛けに彼はニヤリと微笑むと目の前に居並ぶ長老達に向かって少女を紹介した。
「メイ=フジワラが参りました」
「うむ・・・ただ今よりメイ=フジワラの魔導士試験を実施する」
シオンに紹介されなくたって目の前に座っている長老達は彼女の事を誰もが知っているしかし、試験とは厳粛なものそれも上級魔導士試験ともなれば尚更である・・・
そんなお硬い事言わなく立って結局ただの試験には変わり無いじゃん!
と、芽衣は思うのだがそうもいかないのが、この国のしきたりであるらしい
「それでは、メイ=フジワラ始めなさい」
「はい」
長老達に促されて芽衣は力強く返事すると目を瞑って集中し始めた。
その姿を立会人のシオンが優しく見守り、長老達はあくまでも冷静に芽衣を見つめていた。



「そろそろ、試験の始まる時間ですね」
「あぁ・・・そうだな」
シルフィスから掛けられた声にレオニスは頷くと今までシルフィスが見たことのない余裕のほほ笑みを浮かべた
「隊長はメイの試験が心配じゃないんですか?」
「心配なんかはする必要がないからな」
訝しんで聞くシルフィスの質問にもレオニスはサラリと返事を返す。
「隊長はメイを信じてらっしゃるんですね」
笑って言うシルフィスにレオニスも笑いながら応える
「あぁ・・信じている。あいつは見事に合格するとな」
二人は静かに微笑みあうとどちらともなく研究院の方角を見つめた。



華奢な細い指先から赤い炎が燃え上がりその炎は少女の言葉通りに動き回ると静かに燃え尽きた。
「ふぅ〜」
短い吐息を吐き出した後メイは長老達の驚愕の視線を真正面から受け止めるとシオンに視線を移した。
「如何ですか?問題は無かったと思いますが?」
芽衣の視線を受け取ってシオンが長老達に言葉を掛ける
長老達は互いにボソボソと小声で話しあい、そしてお互いに頷き合うと一人の長老がシオンに向かって小さな平べったい箱を差し出した。
箱を受け取ったシオンは芽衣の側に近寄ると優しい瞳で彼女に笑い掛けると、真面目な口調で言葉を語り出した。
「メイ=フジワラ、これより上級魔導士としての証を差し渡す。」
目の前が真っ赤にそまったと思うと次はシオンのアップにビックリして芽衣は数歩後ずさる。
「嬢ちゃん、おめでとう。これでお前は最年少の合格者として何時までも語られるだろうぜ」
「え?!」
シオンの言葉が一瞬理解出来なくて芽衣は小首を傾げる。
「なんだよ?わからないのか・・・合格ってことさ、嬢ちゃんは研究院始まって依頼の最年少合格者だ。しかも最上級魔導士、緋色の肩かけを拝命するな」
「わ・・・私が?」
「あぁ」
芽衣は自分の肩に掛かっている緋色の肩かけをまじまじと見つめてシオンに向き直る
「だって・・・私が受けた試験は普通の一般上級魔導士試験じゃなかったの?」
「ん?そっかキールの奴お前さんにはそう言ったのか・・・お前さんが緊張しないようにとあいつなりに気を使ったんだな」
「???」
「普通の一般上級魔導士試験に研究院の長老方全員が立ち会うわけ無いじゃないか、おまけに宮廷魔導士のこのシオン様が立会人なんだぜ?」
ニヤリと笑うシオンに芽衣は目を丸くさせて見つめた後自分の緋色の肩かけに目線を移しそして長老達を見つめた。
「メイ=フジワラ、君の魔法能力は私達が思っていたよりも素晴らしい物だった。
これからはその能力をクラインの為に使って欲しい。そして、その肩かけに恥じないように振る舞って行って欲しいと私達は願っている」
「・・・・はい」
芽衣はそう応えるとシオンに向き直って微笑んだ
「シオン・・・ありがとう」
「どういたしまして、それより・・・報告しに行かなくて良いのか」
「行ってもいいの?」
「もう試験は終わったんだ、早く行ってくるといいさ」
「うん!」
力強く頷いて部屋を飛び出して行った芽衣の後ろ姿を見送るとシオンは自嘲気味に笑ってそっと呟やいた
「俺もキールも損な役回りだよな・・・」



「何だ?」
「え?」
「今、私を呼ばなかったか?」
「いえ・・・」
「そうか」
訝しい表情を残したままレオニスはシルフィスから視線を外すと再び窓の外を見つめた。
「何か聞こえたんですか?」
「あぁ・・誰かに呼ばれた気がしたんだが、どうやら気のせいだったらしいな」
「メイの試験もそろそろ終わった頃ですから、もしかしたら彼女の声が聞こえたのかもしれませんね」
微笑むシルフィスにレオニスは頷くと扉に向かって歩き出した。
「隊長、お気をつけて」
「あぁ・・・」
何を気をつけて良いのかも分からぬままにレオニスは軽く返事を返すと騎士団を後にした。
彼が向かう先はただ一つ自分が愛する少女の元



緋色の肩かけをなびかせて芽衣はレオニスに会う為に息をきらせて走っていた。
早くレオニスに会いたい、会って試験に合格したことを知らせたい
彼と約束した・・・
試験に合格したら、一緒に暮らそうと・・・・
レオニスと名前を呼ぶことが出来たのはつい最近のことだった。初めて彼の前で彼の名前を呼んだとき、彼は、レオニスは言ってくれた。
(お前と離れて暮らすのも限界だ、試験が合格したら一緒に暮らそうと)
嬉しかった。この世界に飛ばされてずっと一人だった自分・・・
友達と呼べる人は沢山できたけど、それでも、本当の自分をさらけ出せる人は居なかった。只でさえ自分は異世界人なのだから、と好きな人にも告白するのを躊躇ってしまった自分・・・そんな私に彼は言ってくれた、愛していると・・・
早く会いたい。会って彼に合格したことを伝えたい・・・・

町中を駆け抜けてもうすぐ騎士団が見えてくる頃、芽衣は通りの向こうに長身の人物を見つけた。
「レオニス!」
「!」
思わず叫んでしまった芽衣に気づいて彼は視線を彼女に向けた。
小柄な少女の首に巻かれた緋色の肩かけ・・・・
目にも眩しい鮮やかな赤は少女によく映える。そしてその緋色は彼女が魔導士になった証でもあった。
「何も緋色でなくても良かったんだがな・・・」
レオニスは口元に少し笑みを浮かべると少女に向かって駆け出した。

「レオニス〜!」
「メイ」
芽衣はレオニスの胸の中に飛び込んだ。彼は飛び込んできた芽衣に少し驚きながらも小柄な少女の体を簡単に抱き留めた。
レオニスの胸の中で荒い息をしながら、芽衣は嬉しそうに笑って試験に合格した旨を告げた。
肩で息を切らして喋る彼女の様子から、自分に一刻も早く合格の結果を知らせようと走って来たのが分かる。
レオニスは今まで芽衣にも見せたことのない笑顔で少女に笑いかけた。
芽衣はレオニスの笑顔に驚いて瞳を大きく見開くと、恥ずかしそうに頬を染めながら彼を見つめた。
「合格したんだな・・・良かった」
「うん!これでレオニスとずっと一緒に暮らせるよね?」
「あぁ」
「やった〜♪」
嬉しそうに大はしゃぎしながら芽衣はレオニスの腕の中から飛び出すとそのまま騎士団の方向に駆けて行く。
「レオニス、早く早く!シルフィス達にも教えるんだから〜!」
「・・・・」
既に十数メートル程も離れた場所で芽衣はこちらをみながら大きく手を振ってレオニスを呼んでいる。
「先行ってるからね〜♪」
何故か可笑しそうに笑って立ち止まっているレオニスに芽衣は痺れを切らしたのか、そう叫ぶと背中を向けて騎士団の方へ走り去ってしまった。
「まったく・・・・・落ち着かない奴だ」
レオニスは芽衣の消えた方向を見ながら小さく呟くと騎士団に向かってゆっくりと歩き出した。

そう、何も焦ることはないのだ。
これから少女は自分と共に長い時間を過ごすのだから・・・・



                                             −END−