お引っ越し




 レオニスとシルフィスと想いを通いあわせてから二週間、真実と嘘の入り交じったさまざまな噂が王都を飛び交い、それもようやく一段落した頃。

シルフィスが騎士団をやめて引っ越しの支度をしているところに、すでに親友ともなった二人が遊びに来ていた。

「ねえねえ、シルフィスー。教えてよー」
「・・・そんな話すようなことは何もありませんよ」
「そんなこといっちゃってー、ねぇディアーナだって気になるよね?」
「ええ、そうですわ。まさか私生活でもあーんなむっつりしてる訳ではないんでしょう?」
「そんな・・・厳しい顔の時はありますけど。別にいつもなんてしてませんし・・・・」

 メイとディアーナの期待に満ちた目に押されるようについついしゃべってしまう。しまったと思った時にはさらにつっこんだ質問が飛ぶ。

「えー、きっとそれはシルフィスの前だからだよ。で、どんな顔してんの?隊長さんは。」
「レオニスのあの融通の利かない顔以外なんて思い浮かびませんわ」
「・・・・普通ですよ。別に。先週だって郊外の湖で・・・・」

 ついつい否定したくなって口をちょっとだけすべらす。細かいところまで説明するまでもなくシルフィスの言葉に、二人はすぐ色めき立つ

「郊外の湖って・・・デートぉ?」
「普通ってまさかレオニスが笑ったりしますの?」
「・・・・ええ、まあ。」
「「・・・・・・・・」」

 どうも二人はレオニスの笑った顔を想像しようと頑張っているみたいだがどうしても想像できないらしい。 メイはさっさと想像するのをあきらめたらしく、新たに質問をくり出した。

「で、キスくらいはした?」
「・・・・・・(赤面)」
「「えー・・・・本当にー」」

 さらに真っ赤になった頬を押さえるシルフィスを本当に驚いた顔で二人がみつめている。

 コンコン・・・・・扉がたたかれる。
「・・・・は、はい」
「入るぞ」

 そういって入ってきたのはまさに噂の当事者、レオニスであった。
「あ、レオ・・・・・・いえ、隊長」
「準備はできたのか?・・・・・・・メイに姫様!何をなさっているのですか。」
「あら、お友達の引っ越しのお手伝いにきてはいけませんの?」
「姫様がなさるようなことでは・・・・・それに殿下が心配なさいます」
「う・・・・痛いところをつきますわね」
「・・・・それにメイ、さっき王宮でキール殿がさがしてたぞ」
「あちゃー、やばいなぁ。・・・・それはそうと隊長さーん♪」
「?なんだ」

 メイのたくらんだような笑みに怪訝な表情をしてレオニスが答える。

「今いろいろシルフィスから聞いてたんだけどー郊外の湖で・・もごもご」

 シルフィスがあわててメイの口を押さえこむ。

「??シルフィス?」
「な、何でもありません。あとちょっとで用意ができます」
「・・・・そうか、わかった。馬車の準備をしておく。・・・・・姫様、あとで近衛の兵に送らせますので」

 ーーーパタン。扉が閉まってようやくメイの口からシルフィスが手を離す。

「メイ!そんなことレオニスに聞かないでください。」
「だってー、反応をみてみたかったんだもん」


「・・・シルフィス、あなたいつの間にレオニスって呼ぶようになったんですの?」
「!!これは・・・・その、もう騎士団には在籍しませんし。その・・・隊長が。」
「隊長さんがレオニスって呼べっていった?」
「・・・・・そうです」
「ふーん、あの隊長さんがねぇ」
「あのレオニスが・・・・・」

 湖でのやりとりを思い出し、やっぱり赤面してるシルフィスを横目に二人はなにやら納得している。

「それはそうと、レオニスの館に引っ越すのはわかりましたけど、今までどうりお友達ですわよね。」
「・・・・ええ。」

 ちょっと恐縮したような感じでシルフィスが答える。

「じゃあ、今度絶対お話しにいきますわ」
「そうそう、ぜーったいに遊びに行く!」
「・・・・はい。」

 シルフィスは困ったようなうれしいような複雑な表情でそう返事をするしかなかった。

 そうして、翌日にはまた新たにいろいろな噂が王都中に乱れ飛ぶことになる・・・


                                       END