| 落下 |
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| 「まったく・・・・今度はどこへいったんだ?」 緋色の肩掛けをまとった青年・・・・薄茶色の髪に緑色の瞳、眼鏡を通して見えるその眼差しはいつにもまして厳しく、ちょっと怒っていた。 そして・・・・誰かを探していた。彼女がよくいる街中も広場もすべて探してとうとう郊外の森まできてしまったのだ。 「・・・・・・・・よしよし、もうちょっとだからね」 遠くからそんな声が聞こえてきてキールは視線を配りながら声のした方に向かった。 「メイ!!どこにいるんだ?」 「ぎゃっ・・・・・びっくりさせないでよ、キール」 突然いつもの元気な声がどこからともなくふってきた。しかし・・・・・・・・姿が見あたらない。 「どこだ?」 「こっちこっち・・・・・上だよ」 その声に誘われるようにして上を見ると、メイがいつものスカートのまま木の上にのぼっていた。 「お前は・・・・そんなところで何してるんだ?」 「雛が落っこちてたから巣に戻してあげようと思って・・・もうおりるよ」 「・・・・・気をつけろよ!」 「へーきへーき・・・・・・・・・・うわっ」 メイが足をかけた枝が突然ポキッと折れ、メイはバランスを崩した。 ードサっ 「いったー・・・・・・・・くない?」 「・・・・・・・気をつけろと言ったはずだが?」 「あ、キール・・・・・・・えへへ、大丈夫だった?」 落ちてきたメイを両腕で受け止めたキールだったがその衝撃を全部吸収することはできずにしりもちをついてしまっていた。あまり反省の色を見せないメイをちょっと非難の目で見る。 「大丈夫なようだな。お前は?」 「全然大丈夫・・・・あ、ごめん」 キールの足の上に座り込んだ形になっている自分に気がついてメイがあわてて立ち上がろうとする。キールはそんなメイの手をぐいっと引っ張ると背中から抱き締めた。 突然後ろから手が伸びてきたかと思うと抱き締められ、メイはついバタバタと反抗してしまう。しかし、キールはメイを抱き締めたままはなさない。 「ど、どーしたの?キール」 「・・・・頼むからあんまり心配させないでくれよ」 「うん、でも・・・・・・・・」 「でも、じゃない。お前に何かあったら俺は・・・・・・」 「・・・・なにかあったら?」 不思議そうな顔をしたメイがキールの顔を見ようとしてもがく。キールはメイの身体をさらにぎゅっと抱き締めるとその首筋に顔を埋めるようにしてささやくように言った。 「お前になんかあったら・・・・きっと俺は気が狂うな。お前がいない生活なんてぞっとする。」 「・・・・・・・・・・キール」 「愛してる・・・・・お前だけ、たとえ何を失っても欲しいと思ってしまう」 キールのささやきを聞いてメイは真っ赤になる。そして身体にまわされた腕をぽんぽんとたたきながら言った。 「私もね、キールのこと・・・・・その、あいしてる。キールと一緒にいたいからこっちに残ったんだもん」 「・・・・・・・・・そうか」 「どこにも行かない・・・・・」 ふっとキールの腕から力が抜けるとメイは素早く体勢を変えてキールをのぞき込んだ。 うつむき加減で少し不機嫌そうだがその顔が照れてるせいだというのは今までのつき合いで分かる。メイはちょっと笑っていった。 「・・・・ね?キール」 「なんだ?・・・・・・・・・っ!!」 キールが顔をあげると突然メイからキスを仕掛けられる。唇をあわせるだけだったが、今までメイからキスをされることのなかったキールはびっくりして固まっていた。 「・・・・・・こんなこと、キールにしかしないからね!」 ちょっと顔を赤くしてそういうメイにキールは我を取り戻し、笑う。その顔は・・・・・メイにしか見せることがない優しさが混じっていた。 メイは・・・何度か見たことがあるが、いつもとのギャップからか、その笑顔を見ると驚いてしまう。 「・・・・・・・・メイ」 「・・・・・・・・なーに?」 なるべく平気な顔でいつもの態度をとろうとするメイをもう一度優しく抱き締めて今度はキールから唇をあわせる。 何度も何度も・・・・次第に深く。 まわりはただ、風が木々をゆらし、葉のこすれあう音だけが響いていた。 おわり。 |