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連夜のアイスクリームづけにため息をつきつつ、クリスは食堂を通りががかった。 「………あれは………」 ジャックとアイラが、お揃いの色のソーダを飲んでいる。 微笑ましいな。 そんな暖かい気持ちで見ていたクリスだったが。 「ふふふ、見たわよ〜?」 振り返ると、一連の元凶の姿が。 「……リリィ……」 「早速敵情視察?」 「は?」 また、この娘は何を突拍子もないことを言い出すのだろう……。 いい加減怒鳴りつけたくなるのを押さえながら、クリスは言う。 「なんなの、もう……」 「だって、アイラが気になって見に来たんでしょ? 目下のライバルだものねえ」 何故そうなる。 クリスは頭が痛い。 しかし、彼女は学習というものを知っていた。 ここでただ否定しても、リリィは聞き入れないだろう。 それなら、もっと筋道を立てて説明したほうがいい。 「あのね、リリィ。アイラはたぶん可愛らしい女性だとは思うけど、なぜ私がアイラをライバルにしなくてはならないの? ここには他にも魅力的な女性はたくさんいるでしょう」 「だって、とりあえずクリスが足りないものって言ったら、可愛らしさと色気でしょう?」 グサ。 自分の女性的魅力の有無など考えたこともなかったし意識もなかったクリスだが、そうはっきり言われると何故か傷つく。 「で、色気はまあ、努力じゃどうしようもないかもしれないから、とりあえず可愛さを出すよう努力しようってことなんじゃないの」 「はぁ………」 クリスは頷いたのではない。ため息をついたのだ。 無理だ。 自分にリリィの思考を止めることなど、無理な相談だった。 「もう、いい。……疲れた」 言い置いて、リリィをそのままに部屋へ戻って行く。 リリィといえば、まだその場でクリスになぜ可愛さが足りないのかということを力説している。 しばらくして。 「リリィ……何一人でしゃべってるんだ?」 ヒュ―ゴが、素朴な疑問をぶつける。 リリィは、はっと見回しクリスがいないことに気づいた。 「ああ! クリス、逃げたわねッ」 「どーした、ヒュ―ゴ」 アヒルのダンディ、ジョルディがヒュ―ゴに声をかける。 ヒュ―ゴがさあ? とリリィを見るとリリィはその視線に気づいた。 「ふふふ……。教えてあげてもよくってよ」 「嫌、別にそこまでして教えてくれなくても……」 素で否定するヒュ―ゴを無視して、リリィは先日からの話をヒュ―ゴとジョルディにする。 「あの人が、ワガママね。何を言ったんだろ」 わだかまりは全てなくなるわけではないが、クリスを仲間だとも認めているヒュ―ゴは首を傾げた。 ジョルディが軽くヒュ―ゴを見上げる。 「わかるぞ」 「え!? どーしてだい? 軍曹」 「アイスクリームが食べたい。……ってとこだろうな。間違いない」 「なんでアンタにそんなことが分かるのよう?」 「ここしばらく、騎士たちが食堂でアイス買ってるのを見かけるからさ。どう考えても、甘党らしいレオ殿除いて、あいつらが毎日アイス用意するなんておかしいだろ」 「なるほど!」 リリィはポンと手を叩いた。 「さすがクリス、ちゃんと頑張ってるみたいじゃない。……これは、励ましてあげないとね!!」 そう一人頷くと、台風一過、リリィは食堂から駆け出て行った。 残されたのは、ヒュ―ゴとジョルディ。 「……なあ、軍曹。クリスさんがそういうこと気にして頑張ってるって本当かなあ」 「まさか。あのお嬢さんがまた一人突っ走ってるんだろう」 「でも、リリィ、なんであんなに夢中なんだろ」 「たぶん……」 ジョルディは自分の羽で顎を撫ぜた。 「……ヒマなんだろうな」 このところ、天候が悪いせいで、城に篭りきりになっている。 何も起こらないことはいいことかもしれないが、何もできないことに苦痛な者は多い。 「ヒマつぶしかぁ……」 彼女のヒマ潰しが自分たちに向かないことを願いつつ、ヒュ―ゴは頷いた。 「よく降る雨ですね」 窓から見える暗い空を見ながら、パーシヴァルは言う。 クリスの部屋には、ボルスとパーシヴァルが来ていた。 「うむ」 クリスは、頷く。 ボルスは唸った。 「こう悪天候続きだと、兵たちの腕が鈍ってくる」 「だが、屋内で訓練できるほど広いところとなると……」 「クリスー! アイラに負けないように、可愛くなるよう頑張ってるんだって!?」 思わず茶を吹きそうになるクリス。 見れば、扉を開け放って叫びながら入り込んで来たのはリリィだった。 「…………」 そんなリリィを見て目が点になっているボルスとパーシヴァル。 そして。 その二人の視線はゆっくりクリスへ向かう。 リリリリリィ―――――!! バン、とクリスは立ち上がる。 「な、な………」 なんてことを叫びながら飛び込んで来るのよ!!(半泣き) リリィは、初めてボルスとパーシヴァルに気づいた。 「あら? 二人もいたの? ごっめーん」 「………なんです? そのアイラにどうとか」 ボルスが混乱しながら、リリィを見る。 リリィは、バレてしまったものはしょうがない、と開き直ったように胸を張る。←所詮自分のことではない。 「だからね、クリスが、アイラの可愛らしさに自分の魅力のなさを痛感してしまったみたいで」 しかも事実からして捻じ曲がってる。 さらに何気なく酷いことを言っているリリィである。 「私が、アイラに勝てるようにクリスに助言を」 「リ、リリィ!!」 全然違う!! クリスは山のように反論したいのだが、いったいどこから反論していいのかとっさに言葉がでない。 「アイラ……ですか」 パーシヴァルが腕を組む。 「誰です、それ」 傭兵たちとは交流をしていないため、仲間の名前と顔が――特に女性メンバーは――まだ理解できていないパーシヴァル。 「何を言うんですか! クリス様!! あんなガキ――いえ、娘、クリス様とは月と小石、いえそれ以下です!!」 ジャックが耳にしていたら影から狙撃されそうなことを叫ぶボルス。 「クリス様の方が、ずっとずっとずーっと、う…う……う、美し」 「どちらにしても我らが女神の方が、麗しいに決まっています」 「違、私は」 違うんだ〜!! 泣きたくなりながら、言葉にならないクリス。 リリィがにっこりと、さらに恐ろしいことを言う。 「よかったわね、クリス。ボルスとパーシヴァルが一途な人で」 「え?」 驚く、ボルスとパーシヴァル。 「何故です?」 「だって、クリスが貴方たちのこと」 「わーーッ!!」 クリスは嫌な予感がしてリリィに飛びついた。 口をふさごうとするのも遅く。 「とってもカッコよくって強くて頼りになるって言ってたもの」 降りる、沈黙。 バ、馬鹿―――――!!! そんなこと、いつ言ったぁ!! 余りな怒りに、言葉がでないまま目の前のリリィを涙目で睨むクリス。 しかし昔、クリスと舞踏会で大喧嘩した根性のあるリリィが怯むはずもなく。 「だって、そう言ってたじゃない」 たしかに、女性に人気があるのを知っているクリスは、カッコいいと言ったリリィの言葉を否定はしなかった。 腕も信頼できるし、有能だとも言った。 けれど、なぜそれがこう解釈されて、こうなるのか!! 「……クリス様…・…」 クリスは、その声に、はっとボルスとパーシヴァルを振り返る。 カーッと頬に血が上った。 「あ、わた、私は」 ああ、穴があったら入りたい〜〜!! 今すぐ消え去りたいクリスだったが、入り口にリリィが立っているため逃げ出すこともできず。 しかもリリィは。 「うーん、じゃあ、お邪魔するのもなんだから、私はここで」 「え!?」 クリスが焦るのも気づかず。 さっさと部屋を出て行ってしまう。 こ、こんな状態で私を置いていかないでくれ――ッ! クリスは手を伸ばすも、無常にも扉は閉められてしまう。 「…………」 クリスは、恐る恐る再びボルスとパーシヴァルの方に振り返る。 彼らはクリスをじっと見ていて。 ………誰か、タスケテ……(涙 クリスの悲鳴は誰にも届かず。 部屋には沈黙が下りていた。 その日の夜の、恒例になりつつあるクリスのデザートには。 どこから手に入れたのか大変珍しい果物を使ったアイスクリームと、やたらと手のこんだ手作りアイスクリ―ムが並んでいた。
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