hot ice cream 〜the knights version〜![]() |
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夕食を済ませた六騎士は、クリスの部屋で今のゼクセの状況を話していた。 報告があろうとなかろうと、一日の終わりにクリスの部屋に集まるのはこの城を本拠地にしてから日課となっている。 サロメの報告が終わり。 夜も更け、そろそろ彼らがクリスの部屋を退出しようかとしていた時。 「あ……」 クリスが、小さく声を上げた。 サロメをはじめ、騎士たちは立ちかけた席をつく。 ボルスやロランは姿勢を正した。 「クリス様、何か」 サロメが、そう問う。 「あ、嫌、あの……」 なぜか言葉に詰っているクリスに、彼らは内心首を傾げた。 何事もはっきりと物を言う方の彼女にしては、珍しい。 騎士団長然とした彼女の雰囲気と違うことに気づいたパーシヴァルは、仕事関係のことではないようだと少々好奇心を目に浮かべ。 ボルスは、これはよほど重大なことに違いない、と身体を乗り出さんばかりに身構える。 クリスは小さく唇を動かした。 「ア……」 「あ?」 パーシヴァルが、問い返す。 「ア………アイスが、食べたい」 「……………………」 おりる、沈黙。 騎士たちは、言葉の意味を一瞬反すうする。 彼らの前で、クリスは目を伏せ。そしてその頬がカーっと朱に染まった。 (……か、かわいい!!!!) ボルスは思わずテーブルに突っ伏し、パーシヴァルはぐっと拳を握り締め。ロランは口元に手をやると視線を外す。 サロメとレオは思わず見とれている。 充分に数秒間あいて、騎士たちは我に返った。 アイス……。アイスクリームか……。 こんな彼女の姿を見てしまっては、その希望を適えないわけにはいかない。 それに、彼女が個人的な希望を言うなど初めてのことだった。 アイスと言えば、食堂か? そう考えたのはロラン。 だが、この時間だ。 「………食堂は、しまってますな……」 「いや、食料庫の保冷室にあるのでは?」 戦争前と同じ真剣さで、ロランに答えるサロメ。 レオは、夕食後に食べた3つ(!)のアイスクリームのことを思った。 「一つクリス様に残してさしあげていればよかった……」 痛烈に悔やんでいるが、こんな時間まで置いておいたらとっくに溶けているだろうということは頭にはないらしい。 そんな彼らを横目に、ボルスはふっと勝利の笑みを浮かべた。 お坊ちゃんお坊ちゃんとからかわれた昔は嫌な思い出だが、こういう時は家の力が役に立つ。 彼の家はあちこちの小さな村や街までツテがあった。この時間でも、馬を駆ければアイスクリームの一つや二つ、買ってくることは不可能ではない。 (父上、母上、良い家に俺を生んでくれてありがとう!!) 初めてそのことに感謝しつつ、ボルスは可憐に頬を抑えるクリスに身を乗り出した。 「ク、クリス様! 俺買って来ます!!」 勝った! と思ったボルスであったが。 「少しお待ち頂けますか? 作ってまいりますよ」 パーシヴァルのその笑みを含んだ声に、ギッと振り返る。 (パ、パーシヴァル!! お前!!) パーシヴァルは、ボルスの視線に、クリスには分からないように唇の端を上げて笑って見せる。 こういう時、料理が得意だと便利だった。 ボルスとパーシヴァルの間に散る火花に気づかない様子で、クリスは首を振った。 「ち、違……。い、いいんだ、皆。すまん、忘れてくれ!」 言うと、彼らを部屋から追い出そうとする。 「しかし、クリス様」 ボルスが声をかけるが、クリスは誰とも目をあわせようとしない。 「ホントに、いいんだ……すまない」 彼らはクリスに押し出される。 が。 彼らの方がもちろん背が高いので、顔を伏せながら彼らを押す彼女のうなじが見え。 ほんのりと赤いそれに、抵抗する力が抜ける。 (……か……かわいすぎます、クリス様!!!) むしろ犯罪。 自分たちのその思考のほうが危ないことを棚に上げ、そんなことを思う騎士たちであった。 「気にしないでくれ」 そう言って、扉を閉められてから。 騎士たちはおもむろに、それぞれ行動を開始した。 ボルスは夜中にも関わらず馬を駆けさせ。 サロメとロランとレオは、食堂の主人に朝一番にアイスクリームを用意してくれるように頼み込み。 パーシヴァルは食堂のキッチンを借りて、下ごしらえを始める。 そして朝には、彼らの用意したアイスクリームが、彼女の寝起きを襲うことになる。 それ以後、いそいそとアイスを用意する騎士たちの姿が、しばらくの間城のあちこちで目撃されたとか。
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