ルイスから、クリス様が倒れたと聞き、オレは自分を悔いた。
クリス様の疲れきったコトに気付けなかったからだ。
何時も、貴女を見ていたのに。


『想い人』




オレ達は、クリス様が寝ているクリス様の寝室に集まっていた。横から、パーシヴァル、オレのコト、ボルス、そして、レオ殿に、ロラン殿。サロメ殿は、クリス様の代わりに、評議会の方に足を運んでいる。
みんな、クリス様が目を開けるのを、ただ静かに待っている。
それだけみんなは、クリス様を慕っているというコトが、よくわかる。当り前だが、オレもクリス様を、尊敬し、憧れている。
「鎧、重そうですね…」
オレの隣に立っているパーシヴァルが、口を開いた。オレも、そう思い頷ずいた。
「あぁ、そうだな…」
レオ殿も、ロラン殿もそう思ったのか、クリス様に視線を向けた。
「確かにな」
「…」
「しかし、それがどうかしたのか?パーシヴァル」
「ん?いえ…ちょっと…」
「ん?」
パーシヴァルは、オレと視線を合わしたが、すぐに逸らし、クスッと笑った。
オレは、そんな態度に少し、ムッとする。
「パーシヴァル、何か変なコトを考えていないだろうな?」
「いや、別に何も考えていないが…」
「本当か?」
怪しい。
パーシヴァルににらみをきかし、横目で見る。
つまらないコトを考えているんだろうな。
「強いて言うなら…」
「何だ?」
レオ殿も、ロラン殿もパーシヴァルを見た。
「クリス様の鎧をとった方が、良いんではないかと…」
カチ。
一瞬、みんなが固まった。そして口を開けていた。パーシヴァルは、余裕のある顔を何故かしている。
「…」
「…」
「…」
口をポカンっと、開けた状態が続く中、オレはやっと我に返った。
「バカかぁぁ!?」
「ボルス殿!」
ロラン殿に、口を塞がれた。
あまりのコトに、怒鳴り声をあげてしまった自分に、オレは情けなく思った。クリス様を、さっと見て、目を開けていないコトを確認する。
(良かったぁ…)
目は覚めていない様だ。
「ボルス殿、気を付けて下さい!」
ロラン殿が、何時もより険しい顔で言ってきた。
「す、すまなかった…」
顔を申し訳なさいっぱいで俯かせる。
「ボルス、気を付けないとな」
パーシヴァルの声が耳に届いた途端、オレは再び我を忘れ…


「オマエが変なコトを言うからだろう!?」


と怒鳴ってしまった。
ま、まずい…
また、やってしまった。
「ボルス殿、気を付けて下さい…」
よく見れば、回りがオレに冷ややかな視線を送っていた。何で、オレが…元はと、言えばパーシヴァルが!…何てコトを心の中で、叫びながらクリス様を見た。
「ん…」
「!!」
まさか、起こしてしまったか。
申し訳御ざいません、クリス様。
「ボルス殿…」
「ボルス…クリス様を起こしてしまったか…」
「ふぅ…ヤレヤレですね」
嫌味を一人、一人に言われ、オレは俯いた。


「あれ…ココは…?」


「クリス様!」
目を開かれたクリス様が、ゆっくりと起き上がる。まだ、疲れていらっしゃるかの様に見えた。現に、オレが起こさせてしまったのだが…
「大丈夫ですか?クリス様」
パーシヴァルが、クリス様に歩み寄る。自然にそんなコトが出来るパーシヴアルを羨ましく思うが…オレは、オレなりにのクリス様の接し方がある。
「ク、クリス様!身体の方は大丈夫ですか!?」
「ボルス…」
クリス様が、微笑む。カタカタと少し緊張しながら、言う。な、情け無い…が、クリス様の笑んだ顔を見るとほっとした。
「ボルス卿が、クリス様を起こされたんですよ」
と、そんな気持ちに浸る中、隣に立っていたパーシヴァルが、余計なコトを口に出す。
「パ、パーシヴァル!!」
「本当のコトではないですか」
オレは、顔を真っ赤にし、パーシヴァルをにらんだ。パーシヴァルは相変わらずの余裕の笑み。かなり、悔しかった。しかし、今はクリス様に謝まなければ、と思い、頭を深く下げた。
「クリス様、申し訳御ざいませんでした!疲れていらっしゃるのに、オレの怒鳴り声で、起こさせてしまい…」
深く、深く頭を下げる。しかし、クリス様は首を傾げ言ってきた。
「ボルス?一体、どうしたの?」
優しい笑顔で言ってきた。オレは、嬉しくなり、とにかく何度も頭を下げた。


クリス様が、目を覚ましてから、ルイスが部屋に入ってきて、クリス様が、ビネ・デル・ゼクセに行く途中で、ゼクセンの森で倒れたコトを話した。
その話を、聞いたクリス様は…下を俯いてしまった。オレは、そんなクリス様を見たくなくて…つい、視線を逸らしてしまう。
「すまない…私が、不甲斐ないばかりに…」
「そんな!!」
「クリス様、そんなコトは決して御ざいません」
クリス様の口から、出てきた言葉を聞いたオレは、必死に首を振った。オレの周りにいる皆も、首を振りながら、言う。
クリス様は、立派な方な方だ。不甲斐ないのは、オレの方だ。
クリス様が、倒れるまで、クリス様の身体の疲れに気付くコトが、出来なかったのだから。
「クリス様は、素晴らしい方です!クリス様が、倒れられたのは、オレがクリス様の身体の変化に気付かなかったのが、悪いんです!」
「ボルス…」
オレは、床に視線を移した。何となく。
「すまない…」
「クリス様?」
「心配をかけさせて…」
「…クリス様…」
「そして、皆にも…」
クリス様が、みんなに頭を下げた。それを見た、オレやパーシヴァル、レオ殿、ロラン殿、ルイスは、必死に首を横に振る。誰も、そんなコトは、思っていない。
「クリス様が、頭を下げるコトはないでしょう…クリス様は、働き過ぎに見えます。少しでも、ゆっくりとお休み下さい。私達は、クリス様の力になりたいのです」
「パーシヴァル…」
パーシヴァルが、オレの隣で言った。そんな、気の利ける言葉を、言えるパーシヴァルを羨ましく思ってしまった。
 

オレも言いたくて、仕方がなかった。
今からでも、言えるのだが、一番初めにクリス様に言いたくて…何だか、ムナシクなってくる。
「ボルス?」
「は、はい!」
オレが、俯いていた所に、クリス様が心配そうに、のぞき込んできて…視線が合った。オレは、一気に身体の先から先まで、緊張するのが、わかった。クリス様の瞳は、綺麗で、真っ直な視線だった。だから、目を合わせるコトが出来ない。でも、クリス様に、どうしても言いたくて…
「クリス様、何時でもオレが、傍に立っています!だから、無理をしないで下さい!」

バタン!

オレは、そう言いながら、クリス様の寝室から顔を真っ赤に染め出ていった。


「ボ、ボルス…?」
「どうしたんだ?ボルスは」
「さぁ?」
「…早かったですね」
「かなりな…」





オレは、クリス様の寝室から、一人で飛び出した後、すぐ下の階にある食堂へ走り込んだ。恥ずかしさのあまり、何処に行けば良いのかわからなくて…

『何時でも、傍に居ますから!』

後々から、考えると恥ずかしい台詞だと思う。パーシヴァルは、アイツなら、こんな台詞、簡単に言うんだろうな。でも、オレは口に出すだけで必死だった。情けない。
でも、クリス様に伝わったのなら、それで良い。



「はぁ…」



食堂で、オレは適当なモノをオーダーし、それを食べていた。
周りには、見習い騎士や、騎士達で盛り上がっている。
でも、オレはそんな気分にはなれなかった。やっぱり、クリス様の笑みを見て、安心したとは言え、クリス様が倒れられたコトには、間違いがなく。オレは、反省していた。
そんなオレが物思いにふけっているトキ。
「隣、良いか?」
と言う声が聞こえた。オレは、相手を見ずに、小さく、
「あぁ」
と言う。
しかし、何だか周りが、少しであったが騒がしく思えた。オレは、周りを見渡すために、食堂全体の部屋を見回したトキ、オレは、口に運んでいたフォークを、落としそうになった。
「ク、クリス様!?」
騒ぎ立てるのも、その筈。クリス様は、めったに食堂に足を踏み入れるコトがないはず。それに、今は疲れきった、身体を休めているはずだが…
「クリス様、休まれている筈では…」
そんな問いに、クリス様は笑った。
「もう、大丈夫だ。心配をかけて、すまなかったな」
「いえ!しかし、本当に休まれなくても…」
「大丈夫よ。よく、寝かせてもらったからな。身体も、大分楽になったしな」
「そうですか…良かった」
本当に。
そんなコトを、オレは言いたくなった。でも、何故クリス様はココへ来たのだろう…何となく、聞きたくなり、聞いてみた。
「それにしても、クリス様、どうしてこちらへ?」
そんな問いにクリス様は、また綺麗な瞳で、オレを見てきた。やっぱり、まっすぐに見られるのは何だか、慣れない。
「ん?まぁな…先ほどのボルスの行動が、心配になってボルスを、捜していたんだ」
「オレを?」
意外な答えに、オレは驚く。
「あぁ。ボルスが何処にいるかわかるか?と聞いたら、食堂前に立っている、騎士がボルスをココに入るのを見たと、聞いてな」
「す、すいませんでした」
クリス様が、何故オレを捜しているのかが、わからなかったが、迷惑をかけてしまったと思い、謝る。
それにしても、クリス様は、何の用なのだろう…そんなコトを思っているオレに、クリス様は口を開いた。
「いや、気にしなくて良い。私が、ただボルスと話をしたかったから、捜していただけさ」
「話、ですか…?」
「あぁ…今まで、ゆっくりと話す機会があんまりなかっただろう?」
「クリス様…」
クリス様の話を聞き、オレは妙に嬉しくなった。オレ自身、クリス様と話が出来るコトは、とても嬉しい。それに、本当に最近はクリス様は色々と評議会からの任務や、仕事で色々あったため、会話もそんなに交わすコトが出来なかった。
「あ、有難う御ざいます!」
何だか、照れくさくなりオレは頬が赤くなった。
「ふふ…」
そんなオレにクリス様は軽く笑った。
「ボルスは、最近調子はどうだ?」
「調子ですか?…ん〜…絶好調です!」
「そうか」
当り前だ。
何時でも、クリス様の傍にいて、何時でもクリス様を守るんだからな。
「頼もしいわね」
「い、いえ!」
クリス様の優しい笑顔が向けられる。やっぱり、照れくさい分、嬉しかった。
「でも…」
「?」


「無理はしないで欲しい…」


クリス様が、難しい表情をし、オレに視線を向ける。何だか、気になった。
「クリス様?」
オレは、首を傾げる。
「皆に心配をかけたら、駄目だ」
「…クリス様…」
「何か、あったら私に言って欲しい」
「…」
オレが、クリス様が倒れられたコトに関して、オレが悔いているコトに気付かれたのだろうか。オレを見るクリス様の視線が優しい。戦場に 立つクリス様の瞳に憧れてもいるが、こんなクリス様も尊敬する。誰に対しても、自分と同じ立場で接するコトが、出来るクリス様を…
「オレは…」
「ボルス?」
静かに握り拳を作った。
吐いてしまおうか。今の心境を。
「オレは…クリス様が…倒れられた、と聞いて…オレは…」
「…」
クリス様が、そっとオレを見つめる。次のオレの言葉を待っている様に…
「とても…悔しかったんです…とても…オレが傍にいたら…クリス様は…」
握り拳を、更に強く握る。
「クリス様が…クリス様だけが、辛い思いをされるのは嫌なんです…だから…」
「有難う…ボルス…」
「クリス様…」
クリス様が、微笑んだ。この笑顔に見たらほっとする。
それだけで、オレは胸いっぱいに嬉しかった。
「そして、嬉しかった」
「え?」
「ボルスの言葉が…私も、辛いトキがあったら、聞いてくれるか?」
「は、はい!クリス様の為なら、何時でも、時間を空けさせてもらいます!」
「有難う…」
「いえ!」
オレは、嬉しかった。クリス様がオレに胸の内のコトを話して、それで少しでも楽になられるのなら…オレは何時だって聞く。
「何時でも、傍にいます!」
傍に。
います。






「…心配で、後をついていってみたら…一体…どうなってるんだ?」
「さぁ…でも、ボルス殿に良い思いをさせるのは何だか、納得出来ませんね…」
「同じく…」



何だか、冷ややかな視線を感じたが、オレは気にしなかった。今、こうやってクリス様との話が出来たコトがとても。
「クリス様、頑張ります!」
「期待しているよ」
「はい!」
どんなトキも、貴女の傍にいたいと誓います。







〜終わり