苺のような恋は甘くて、酸っぱくて、
ちょっと私には難儀な恋です。
『やだぁっ!!!!!逝かないでよぅっ!!!お父さんっ!!』
――――っ!
――――ガバッ!
「はぁっはぁっ・・・良かった・・夢・・・」
ここんとこ、この夢よく見るなぁ・・・
この世界に来てからかな・・・・・・
だめよ、花梨・・少し頑張らなきゃ・・・
ここで、皆に迷惑掛けたらいけないわ・・・・
そうよ、今倒れてたら、あの時と同じじゃないっ・・
「ほんと・・命は儚いわ・・・」
駄目よ・・・まだ・・・出てこないで・・・・・
ITIGONOYOUNAKOI
苺のような恋
ITIGONOYOUNAKOI
「おはようございます、神子様。よくお休みになられましたか?」
紫は健気な笑顔と共に花梨の部屋に入って来た。
花梨は何時もと変わらない態度で答えた。
「うんっ、ねぇ、今日はイサト君と祇園社に行こうと思ってるんだけど、
イサト君・・呼んでもらえるかな?」
「判りましたわ。」
紫はいそいそと花梨の部屋を出、しばらくして、イサトだけが花梨の部屋を訪れた。
「よっ花梨、俺を呼んだんだろ、へへっ京の事なら任せろっ」
彼らしい言いぐさに花梨はくすくすと笑った。
「ねぇ、祇園社に行こうよ、私、急にお参りしたくなったの。」
花梨は手を合わせ、少し迷惑かな?と言う顔をした。
イサトは、そんな顔すんなっ言い、くくっと笑い手を口元においた。
「よーしっ行くぜッ!」
と、イサトと花梨は勢いよく紫の館を出た。
「はぁっ、イサト君っ・・早過ぎだよぉっ」
花梨は息を切らしながらも、イサトに話し掛けた。
イサトはケロッとした様子で花梨の背中を叩いた。
「これで、ばてんなよ。」
「う・・・うんっ」
その時、花梨達が行く方向の先が騒がしくなった。
「火事だ〜〜!!早くっ!み・・水をッ!」
よく向こうを見てみると、赤々と成っているのが見える。
―――――やだぁっ・・!燃やさないでよぉぉっ!!
―――――お父さんは土に帰るのよ
―――――お父さんを燃やした火なんて・・・人なんて・・・大嫌いっ!!!
(っ・・・駄目・・・何でこんなの思い出すんだろ・・・)
「お父っ!お父ッ!!わぁぁぁんっ!」
花梨ははっとした。
小さい男のこの声がした。
地面に手をつき、燃え上がっている方の所を目を曇らせ見ていた。
花梨はあの時の光景と重ねた。
(この子も、お父さんが燃えるのを嫌がって、泣いている。
お父さんの事好きだから泣いている・・・・。
命は儚いものだけど、繋ぐ事は誰にだって・・・
出来るのよ。)
「何ぼさっと突っ立ってんだい?!早く手伝いなっ!」
と、ちょっと太目のおばさんがイサトの腕を掴んだ。
イサトは、目を見開き額に汗を掻いていた。
「あっ・・あぁ。」
(イサト・・くん?)
「ごめん・・花梨・・、俺・・・」
「・・・・この子を・・・お願いね・・・」
「・・は?おいっちょっ!」
花梨は燃え上がっている方向へと走り出して行った。
「花梨ッ!!」
早く・・・早くっと、心の中で急かしている自分はいったい誰を助けようとしているのだろう?
過去の自分か、今のあの少年のお父さんか。
「・・・皆を助けるのよ・・」
・
お願い・・・・私・・・・。
花梨は何も考えず、振り向かず、火の中へと消えていった。
「花梨ッ!!!!!!!」
―――ザバァッ
花梨は頭から水を被り、近くの人の衣を借りた。
そして、勢いよく燃え上がっている家の中へと飛び込んで行った。
「・・誰かっ!誰か居ませんか?!」
花梨は声をあげて、走り廻った。
その時、花梨の居る部屋の隣からガタガタッという音が聞こえてきた。
花梨は迷わず、急いで音のする部屋へ向った。
そこには、下敷きになっている中年の男が居た。
「・・・・あっぁ・・・貴方様は・・・・?」
「秘密ですv」
花梨は急いで、下敷きになっている男を助け様とし、
男の背中に乗っている柱を持ち上げようとした。
しかし、とても、花梨の力で持ち上げるものではなかった。
「ゴメンなさい・・私の力じゃ・・・無理か・・・・も。」
花梨はふっと意識が遠くなり、その場に倒れこんでしまった。
(本当の気持ちを伝えないまま、私は死にたくないのに・・)
花梨は遠くなる意識の中、そんな事を考えていた。
「は・・離せッ!!あの中に・・あいつが・・・・花梨が居るんだッ!!!」
イサトは、燃えている家を目前に前へ行く為の足が動かない。
消していた記憶が、蘇る。
もう、二度と繰り返してはいけない記憶。
あの時・・・全て失った物。
今も・・・大事な物が無くなるかもしれないのに、イサトは足が竦んで前へ足が出なかった。
「イサト君っ・・・好きだよ////」
「ばぁっばかっ///知ってる・・・それくらい・・///」
あの時の気持ちは温かくて優しかった。
失いたくない・・・お前を。
ずっと、護ってやりたい・・・お前を。
だから、俺は強くなるんだ・・。
「待ってろ・・花梨・・」
何も考えず、振り向かず、イサトは花梨が待っている火の中へと走って行った。
「・・・・遅かったな。」
「・・・・か・・りん?」
いや、花梨ではない。
でも、顔、瞳、髪、手、全てが花梨のものだ。
しかし、笑顔が無い。
「お前の助けを待っていたら、きりが無いので私が代わりに、こいつと『花梨』を助けた。」
「は・・?何意味わからない事いってん・・」
「『花梨』から聞いてないのか?」
イサトは、喉を鳴らした。
(何言ってるんだよ・・・・花梨・・・)
「『花梨』は心を閉ざし、私が代わりに、この体を動かしているんだ
まぁ、最初は自分から逃げる為のものだったがな。」
何で・・とイサトは呟いた。
「父親が死んだからだ、判ったか?」
イサトは拳をつくり、ぎゅうっと握った。
小刻みに震える手を、『花梨』はじぃっと見ていた。
何も言わず、動かず、ただ時が流れるのを待っていた。
「俺はっ・・・・離れねぇーよ、ずっと傍に居るよ・・・お前が居なきゃ意味無いじゃん・・・」
イサトは赤い瞳から、少しの水が流れていた。
「好きだぜ・・俺もお前が好きだ・・・・だから、勝手にどっか行くな・・・
誰かに取られたくねぇーからさっ」
イサトは華奢な体つきの花梨を力一杯抱きしめた。
「好きだぜっ花梨っ!」
「・・・・/////い・・・痛い・・よ、イサト君//////」
「えっ?おわっ!『花梨』からいつから戻ってた?!/////」
「『お前が居なきゃ意味無いじゃん』・・・です////////」
「そっそっか・・・////」
苺のような赤々とした顔になった二人の表情は初々しかった。
(謀ったな・・・・)
小さい苺のような恋はどこか甘くて、酸っぱい・・
難儀の有る恋なのでした。
小さな苺のような恋は・・・・・・
「私好きだな」
「何が?」
「真っ赤な火のような瞳と髪の持ち主さんが・・だよ。」
「花梨」
ほぼ言葉と同じにイサトは天女のような花梨の顔に
苺のような甘いキスを花梨の苺のような甘い唇にキスをした。
「私、何も怖くないよ」
苺のような恋は終わる事を知らない。