傍に居て…ずっと。
君の傍に居たいんだ。
君をずっと抱きしめたいんだ。
君を…愛したいんだ。
 
 
 
殺風景でもないが、物もあんまり置いていない。
 
只、置いてあるのは…
 
寝るためのベット・写真・洋服・時計・無造作に置いてある電話…あと、MD・CDラジカセも。
 
その、MD・CDラジカセからは、静かな曲が流れているだけで、
 
他は何も聞こえない。
 
でも、そこには二人の男女が、女はベット、男は床で寝そべっていた。
 
小さく寝息をたてながら寝ている、その姿を窓から、
 
覗いている、小さな鳥がチチチッと声を弾ませる。
 
「ん…」
 
柔かな桃色の髪が揺れる。
 
起きたのか、右手で目を擦っている。
 
「今…何時…?」
 
あかねは、時計が置いている方に目を向けた。
 
いつもと、時計が置いている場所が違う・・と思いながら、あかねは、
 
今は七時だと確認する。
 
「…ん…ここ何処…?」
 
何時もと違う風景にキョロキョロとあたりを見渡す。
 
そして、昨日の記憶があかねの脳裏に焼きつく。
 
(あ・・ここ、天真くんの部屋…なんで…ああ、そうか…)
 
昨日、私は天真くんの家に遊びに行って、久しぶりの現代の空気を噛締めたんだっけ…と、
 
うろ覚えの記憶を振り返っていた。
 
自分が居る、ベットの下には、まだ、寝息をたてて寝ている、天真の姿があった。
 
「天真くん…」
 
あかねは、天真の髪を撫でながら言った。
 
一昨日までは、違う世界に居たのに今はこうやって、元の世界に居る…
 
それが不思議で堪らなかった。
 
別に、向こうに未練を残したわけでもない。
 
でも、少し寂しい気がするのだ。
 
また、普通通りの日常がやってきて、定められた、時間を過す…
 
また、こんな毎日を過すのか…と思うと、向こうの暮らしも悪くは無かったと思ってしまうのだ。
 
向こうでは、毎日、違う世界が見えたり、
 
毎日毎日、違う事があったり、
 
毎日毎日が充実していたのに、また、定められた時間を過して行くと思うと、
 
胸が、苦しくなって行く…本当は昨日、それを天真に伝えたくて、
 
あかねは、森村家に足を運んだのだ。
 
でも、やっぱり、久しぶりとなって、
 
違う気持ちになったのだ。
 
それはとても、ふわふわして、気持ちが良かったのだが、
 
それと同時に、不安が襲ってきたのだ。
 
何時までも、こんな関係が続くのだろうかと…心の何処かで思ってしまうのだ。
 
「ふぅ。そろそろ、帰らなきゃ。」
 
お母さんも、心配しているだろうし、別に、友達の家に泊まらせてもらったとでも言えば、
 
また、泊まらせていただいたのとその程度だ。
 
今日は日曜日、明日になれば、学校がある。
 
天真と詩紋とまた、あの桜の並木通りを歩いて行くのだ。
 
それが無性に気持ちが、むずむずしていたのだ。
 
本当にまた、三人…天真とずっと居られるのかと…。
 
「あかね…?起きていたのか…」
 
のそりと、天真は起き、あかねの方を見た。
 
「ねぇ、天真くん…私さ、不安なんだ。」
 
「はぁ?何だよ、いきなり…。」
 
「ゴメンね、いきなりじゃなくて、昨日言おうと思っていたんだけど…結局言えなくて…」
 
あかねは、きゅっと白色の膝まであるスカートを握った。
 
「あのね…、私…すっごく不安なの…。あっちの世界では、私の傍に皆が居てくれた。
でも、こっちに帰ってきて、あっちの人達と別れたし、こっちはこっちで、ずっとこれから、まだ、天真くんや詩紋くんと居られるのかな〜って思っちゃうの。何でか、判らないけど…すっごく不安になちゃうの。それと同時に、天真くんの事・・考えると気持ちが浮ついて…自分を見失いそうになって…何もかもが…怖くて…不安なの、如何してかな…天真くん。」
 
こいつは…と天真は溜息を付いた。
 
きゅうっと小さくなっている目の前の女の子を、ずっと前から、
 
自分の腕の中に閉じ込めたいと思っていた。
 
だから、それなりの努力はした。
 
向こうで、あかねが苦しくなったりしている時はずっと傍に居た。
 
あかねが、笑っている時は、天真なりに見守っていた。
 
その、目の前に居る女の子が、ちゃんと、天真の気持ちに気付いていなかったのだ。
 
しかも、自分の気持ちが不安だと言った。
 
何時までも、一緒に居られないような気がして、と言った。
 
――――俺は何時までも、あかねの傍に居るのにな。
 
(ったく、こいつは鈍感過ぎるッ!!!)
 
天真は歯がゆい気持ちになった。
 
「ばぁか、そんなの悩むまでも無いぜ?俺はお前の傍に何時までも居るつもりだ。
まぁ、あいつらは何時か会おうと思ったら会えるんじゃねぇの?気楽に行こうぜ?なっ、あかね。」
 
こいつが、俺の気持ちに気付くまで…というか、
 
自分の気持ちに気付くまでは、最低でも居てやる。
 
そのあとは…
 
お前を、ずっと愛してやるよ。
 
二人のスタートは、
 
殺風景でもなければ、物もあんまり置いていない地点から始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「愛してるに決まってる。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
〈END〉