『酷旭』
              
日が昇る少し前の臥室。
浅い眠りから覚めたことを知る。
そして、己が眠っていたことを知った。
何か、暖かく包み込まれている自分がいる。
ゆっくり目を開いた。
そこには、彼女を包みながら静かに寝息をたてる男がいた。
辺りはまだ暗い。
彼の眠る顔はよく見えない。

自分の肩にまわされた男の腕。
その腕を解く。
その手に頬をよせる。
暖かい。
彼女は目を強く閉じた。
涙が出そうだった。
この温もりがまた遠くなる。
今度は何時逢えるのか。
至高の座に就く二人なのにそれすらも分からない。
どちらにも守るべきものがある。
この想いを犠牲にしても、守らねばならない責がある。
それでも、この時が少しでも長く続いて欲しい。

頬を包む手が動く。
ゆっくりと彼女の髪を梳き、また頬に戻る。
その指が唇をなぞり、ゆるやかな曲線を描き喉元へ落ちる。
男の唇が彼女の唇に覆い被さり貪りはじめる。

許されるのはほんの一時。
だから、愛し合おう。
時が訪れるまで。
互いの温もりを、互いの想いを忘れぬように。

そんな二人を嘲笑うのか、
無慈悲な光が二人を包む闇をゆっくりと侵し始めていた。



                     

            

(了)