『酔華』



硬い、指。
少し節くれだった大きな手。
その手からさらりと零れ落ちる紅い髪、・・・私の、髪。
もう片方の手がついと伸ばされ、耳に触れる。
全身を甘い戦慄が走った。目の前のこの人は、そんな私の反応を苦笑未満で見守っている。
私の耳も顔も、この人にさらしている私の全ての部分が、きっとこれ以上はないくらい赤く染まっているだろう。

首筋に沿って手が降りてくる。ゆっくりと、何かを探るように。戸惑うでもなく、ただそっと触れていく。
焦らすように、からかうように。
それでいて・・・・・・ごく慎重に。
既に触れられていた部分は、そこだけが熱を持ったように熱い。
私がそう言うと彼は笑った。理由は教えてくれなかったけれど。

いつも余裕があるのは、彼。いつも驚かされるのは、私。
何故か悔しくて、思わず両手で彼の顔を挟んだ。
一瞬だけ、驚いた表情が現れた。精悍、という言葉がまさに当てはまる整った面差しに。
でもそれはほんの一瞬で、またいつもの余裕の笑み。
もっと驚かせたい、もっとハラハラさせたい、もっと・・・・・・私を見ていてほしい。
頬に添えたままの両手を滑らせ、上半身を彼に預けるように両腕を首にまわした。
「初めてだな、陽子から抱きついてくるのは」
・・・それも確かにそうだけど。もうひとつ、私からの「初めて」に彼は気づいただろうか。

頬に唇が触れたことに。

                                                      


 <終>