あの日見た雪の白さ 〜其の一〜 |
冬。
雁国、関弓・・・・・・・
尚隆が目覚めたのは早朝だった。
隣で気持ちよさそうに寝ている赤髪の少女の額に口付けると、窓の外の景色が目に入ってきた。
「・・・・・・・・寒いはずだ」
窓の外は銀色に輝く世界だった。辺りは静まり返っている。
「・・・・今年も積もったな・・・」
窓を開け、ふちに積もった雪を払う。
尚隆は急に、何を思ったのか、自分の荷物をとりに部屋の奥に引っ込んだ。
部屋の奥から戻ってきた尚隆の手には一対の耳飾が握られていた。
尚隆はもう一度外の雪を見て耳飾を硬く握り締める。
「・・・・・・・・・・・雪花・・・・・・・・」
銀の細工がほどこされた耳飾が、チリンと寂しげに音を響かせた。
・・・・・・・・・雪を見る度に
私のことを思い出して
尚隆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
約300年前 雁国・・・・・・・・・・・
彼女と出会ったのは関弓の妓楼だった。
尚隆はいつものように酒を飲んでいると、見知らぬ女がいることに気付いた。
透きとおるような白い肌
すらりと伸びた手足
知性的な顔立ち
男物のゆったりとした衣をまとった女は飾りと呼べるものをまったくつけていない
腰まである長い黒髪はうなじで結っただけ
唯一女を飾るものといえば、血の色よりも深い燃えるような赤い瞳と、銀細工の耳飾だけ
それでも、女は美しかった
「あの女は?」
顔見知りの妓女に聞くと、すぐに教えてくれた。
「数日前から店に雇われた旅の楽人」
妓女達はそう答えたが、尚隆はどうも信用できなかった。
女の腰に、楽人には不要な、一振りの刀が下げてあったからだ。
それも、安物ではなさそうで、柄に耳飾と同じような銀細工がほどこされている。
それを売ればこんなところで働く必要のないほどの金が手に入る。
けれど、女はそれを手放さない。
・・・・急に彼女のことをしりたくなった。
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<続く>