Love me?
I love you.
loving,loving you!




love me?


「ブス」
「ブスじゃないもん!」
「ブスブスブスブス、ドブス!!」
「―っ!」
 またやってやがる、と思いつつ橙次はため息をついた。
 ギャンギャンとやりあっている里穂子と藍眺を、のんびりと風助は見やる。
「―ほんと、仲いいなぁおめえら」
「どこがだ!!」
 はじかれたように風助を睨んだのは藍眺。
「本当!?」
 喜色に声を弾ませたのは里穂子だった。
「うーん、やっぱり私と藍眺さんって周りから見てもベリーナイスカップルなのね」
 両手を組んでうっとりと言う里穂子に、傍らの藍眺はふんと顔を背ける。
「んなわけねーだろ」
「んもう、藍眺さんたら照れちゃって〜!」
 とことん前向きな妹に笑いながら、橙次が言った。
「ところで、今度は原因は何なんだ?」
「そうなの!」
 思い出したように言って、里穂子は兄に訴えた。
「お兄ちゃ〜ん! 藍眺さんたらひどいのよ〜」
「そりゃ酷いよ藍眺君」
 橙次はうんうんと頷きながら、藍眺を見る。
 藍眺のこめかみ辺りで、血管がぴくぴくと動いている。
「・・・・・・まだ何も聞いてないだろーが」
 話は今日の朝にさかのぼる。
 まだ野営を片づけないうちに、ふらりと藍眺はどこかへ行ってしまったのだ。少なくとも里穂子が目を覚ました時には、まだ藍眺の姿はなかった。そして昼前に戻ってきた。
 どこへ行っていたのか聞いても、何も答えない。
 里穂子に言わせれば、「ちょっと行きたいとこがあったから」の答えで納得してしまう兄や風助の神経のほうが理解できない。
 話を聞いた橙次は、頭をかいた。
「なんだ、まだその事を言っていたのか妹よ」
「なんだって事ないでしょ!?」
「テメーには関係ないだろ、ブス」
 藍眺が突き放したように言う。
 そのとたん。
 橙次はあちゃーと額を覆った。
 目の前の妹の目にぶわっと盛り上がる涙。
「り、里穂子ぉ・・・」
「な、何よ! そんな言い方しなくたって・・・!」
 里穂子はバッと藍眺を振り返り、
「藍眺さんの大バカ〜!!」
 そう叫んで、駆けていってしまう。揺れる木々の向こうに、その姿はすぐに見えなくなった。
「『大』バカだぁ?」
「里穂子! ・・・・・・おい、藍眺〜」
「んだよ」
「あんまり僕の妹いじめないでくれる?」
「なーにが『僕の妹』だっ。ったく馬鹿馬鹿しい」
 藍眺は言って、樹の根元にどかりと座った。
「どーせすぐ戻って来るさ!」
「だが藍眺よ〜。アレでも俺の大事な妹だぞ? あんまり泣かしてくれるなよ」
「ああ!? オレのせいかよ!? あいつが泣くのなんて今に始まったことじゃねーだろ。あいつはいつだって泣いてるか怒ってるか、わめいてるかだ」
「お前だって、怒鳴ってるか戦ってるかだろ?」
「・・・・・・。う、うっせい」
「・・・まあ、そういう冗談はおいといて」
 橙次は藍眺の前にしゃがむと、意味深に笑って見せる。
「笑顔が可愛いとか思ってるくせに」
「! な、何言って、おま、お前っ」
「惚れた女いじめるなんて、子どもっぽいぜ?」
「ほほほ惚れた女なんてお前っ」
「藍眺君。結婚式はいつがいいかい?」
 橙次は、ふふんと目を閉じて胸をはった。
「お義兄さんと呼んでくれてもかまわないよ」
「・・・・・・。―兄妹そろってざけてんじゃねぇ!!」
 からかわれていただけだと気づいた藍眺は、橙次をぶん殴る。
 橙次はそれをさらりと避けるが、続けざまに来た蹴りに後方に吹っ飛ばされた。
 普通の人間なら確実に死んでいるそれに、橙次はあはは、と笑いながら立ち上がる。
「本気で蹴ることないだろ〜」
「うるせー」
「腹へったな〜」
 そんな二人を気にすることなく、風助は先ほど食べたばかりだというのにペンギンのヒロユキにそう言っていた。



ねくすと