旅立つ男は、神様に言いました。
「神様。どうかわたしの道をお照らし下さい」
『あなたが旅を終えるまで、光を照らそう』
 神様は男に、そう答えました。
 男は歩き続けます。神様が言ったとおり、地上はいつも太陽が輝いていて明るく暖かです。
 ところが何年もたった後、辺りが真っ暗になることがたびたびありました。
「神様も、きっとお忙しいのだ」
 男は自分にそう言い聞かせ、それでも我慢して歩きました。10年がたち、20年がたち、30年がたち、40年が過ぎ。長い長い時を、男は歩き続けました。その間に、何度も暗闇は襲ってきました。
 そして、男はついに耐えられなくなりました。
 なぜなら、安らかな時や楽しい時太陽は輝くのに、疲れた時や寂しい時、一番光が欲しい時に神様は光をくれないからです。
 男は泣きながら訴えました。
「神様。あなたは光を照らしてくれると約束してくださったのに、わたしが辛い時や嘆いている時にかぎって光を下さらない」
『光がないわけではない』
 神様は言いました。男は神様に訴えます。
「それならば、なぜこうも暗いのですか」
『それはわたしが、あなたを抱きしめているからだ』
 そこで男は、自分が神様の胸の中にいることに気づきました。神様がしっかりと抱きしめていてくれたので、外の光が見えなかったのです。
 男は泣きながら、また歩きはじめました。