| saikyo---?? |
| Answer the question. "Who is strongest? " |
| 「・・・・・んー」 眉をひそめるアキラに、遊佐は横から顔を寄せた。 「どうしたよ?」 「あいつ、強そうだよな」 そのアキラの言葉に、遊佐はアキラの視線の先を追う。 そこには、いかにも族関係の、数人の男がたむろしていた。 その中でも、目を引く体格の男がいた。 身長はもしかすると2メートルの大台に乗っているかもしれない。何かスポーツでもやっているのか身体は引き締まっていた。 「あー。あれって最近見かける『ストロング』ってチームだろ。鬼面党(俺ら)を差し置いて力を名乗るってのは笑えるけどな」 「でも・・・・俺だったらあいつには敵わない。きっと」 負けるのは嫌だったが、自惚れはアキラにはない。 冷静に相手の力量を測れるのも力の内だった。 「あん? 珍しーな。あいつが気に入らねーのか?」 「えッ!? ち、違うよ!」 アキラは驚いたように、遊佐を振り返った。 しかし、その顔は少し朱が上っている。 「アキラ?」 「―――ええっとさ。恥ずかしいんだけど」 そう言って、アキラはボソボソと話し出した。 来月、アキラの好きなオーストラリアの歌手が来日する。そのコンサートのチケットを、アキラは手に入れられなかった。ちょうど鬼面党が他のチームと小競り合いをしていた時で、チケットをとる余裕がなかったのだ。 「でね、本当は、違法で・・・いけないことなんだけどさ・・・・」 そう、アキラは言いにくそうに続けた。 アキラがコンサートに行きたがっていたのを偶然知ったケンタが、自分の友達のツテで、ダフ屋をアキラに紹介してくれたのだ。 「へえ」 チームをやっていて、今さらダフ屋からチケットを買うのに「いけないこと」も何もないだろう、と未成年ながら酒もタバコもそれ以上も経験ずみの遊佐などは思う。 それでも、そんな生真面目な所もあるアキラが可愛いと思うのも事実で。 そこは苦笑だけで流してしまう遊佐だった。 アキラはそんな遊佐の様子に気づかないで、説明を続けている。 「そしたら、会ってみたらそのダフ屋の客って俺だけじゃなくて」 『ストロング』のあの男も来ていたのだ。 ダフ屋が持っているチケットは4枚。ダフ屋は男に2枚、アキラに2枚のつもりだったらしい。 ところが、男が急に行くメンバーが増えたとかで、4枚全部横からとっていってしまったというのだ。 「そいつの方が高い金出したわけだ?」 「――違うんだ。俺が言ったのと同じ金額」 少し、むくれてアキラは応える。 「それなのに、あいつって口上手いっていうか押しが強いって言うか・・・」 そこまで聞いて、遊佐は吹き出した。 「お前、そういうの上手そうじゃないものな」 「うー」 「で、そんなに行きたったわけだ」 「いや、それがさ、そのダフ屋がもう2枚余計に手に入ったって連絡くれてさ」 「なら、よかったじゃないか」 「それが、よくないんだ」 ふう、とアキラは息をついた。 「――また、あいつも来るかもしれないんだってさ。・・・・いったい何枚手に入れる気なんだっての」 アキラは少し不機嫌な様子だ。 まあ、横から何枚も何枚もチケットを独り占めされたのではクサリたくもなるのだろう。 そう思って、遊佐は笑う。 「で、今度は腕で勝負しようと思ったわけ?」 「そんなワケないだろ」 アキラは、息をつく。 「万一そんなこと思ったって、今の俺じゃ、きっとあいつの方が強い」 「お前の方が強いよ」 さらりと言う遊佐に、アキラは驚く。 そんなアキラに、遊佐はくくッと笑った。 「なんたって鬼面でお前が最強だ」 「???」 アキラは首をかしげる。笑っていることからして、からかっているのだろうとは思うが、それにしても無茶すぎた。 「それは、俺だって弱い方だとは思わないけど? 親衛隊のメンバーの中じゃ一番だって自負もあるし。連合の頭とはやってみないと分からない所もあるけど・・・・」 「連合の頭連中なんてメじゃねーよ」 「??? どう考えても伊沢よりは弱いよ」 「そう思うなら、一度やってみな。伊沢はお前には勝てねーよ」 「そんなわけないだろ。そうだ、遊佐だって俺より強いじゃないか」 「以前だったらな」 「?」 「今やったら、俺もお前には負けるな」 「何言って――」 アキラは言いかけて、遊佐がひどく優しい目で自分を見ていることに気づいて赤面してしまう。 「遊佐ッ」 「俺はお前を殴るなんてできないからな」 「ななななな、何!」 アキラは目をそらせる。 「な何、恥ずかしいこと言ってるんだよ・・・ッ」 そして、ハッと気づいてアキラは照れ隠しに大きくガッツポーズをした。 「そ、そーだよ! 高村さんだ! 高村さんが、最強だ!」 「高村、ねえ」 「そうだよ! 断然高村さんだ!」 「お前が本気なら、高村のヤツにだって勝てるぜ?」 「な! 何言ってんだッ」 アキラは、半分以上本気で怒り出す。 「俺なんかが高村さんに勝てるわけが――ッ」 「・・・俺だろ? それから伊沢のダンナだろ?」 「――は?」 「二人がかりで押さえるなりボコるなりするから、そこをお前がトドメをだなあ・・・」 「な、何の話をしてるんだよぉおおおーーー!」 「だから、誰が最強かって話をだろ?」 真っ赤になって怒鳴るアキラに対して、遊佐はのほほんと応える。 アキラは感情の昂ぶりに言葉をなくしていたが、しばらくしてハーっと深い息を吐いた。 がっくりと肩を落とす。 「・・・・もう、何言ってるんだか・・・・」 「――ま、あの男には勝てるって」 「もう、いいよ。その話は」 アキラは、疲れたように言う。 遊佐は、なんでもないことのように聞いた。 「それで、いつだって?」 「何?」 「チケット買うのは」 「ああ。明後日の夜」 「そっか・・・・」 遊佐はそう言って、タバコを吹かした。 次の日の午後。 ピーターバンを出た伊沢に、入り口で遊佐が声をかけた。 「よう。もう帰りか?」 「・・・・。ああ」 伊沢が無表情にそう応える。 遊佐は、吹かしていたタバコの火をもみ消した。 「なあ、お前知ってるか?」 「――なんだ」 「アキラがさあ、『ストロング』の頭に、この前の夜に大切なモン奪われたんだと」 「!」 伊沢は、バッっと遊佐を振り向いた。 「知ってた? ダンナ」 「・・・・。馬鹿なことを言うな。アキラの様子は普段と変わらなかった」 そう言いながらも、伊沢の声は微かに震えている。 遊佐は大げさに肩をすくめた。 「ふーん? 信じないならそれでもいいぜ? なんでも明日の夜にもまた奪われそうだってアキラ泣いてたけどなあ」 「―――遊佐ッ!!」 ちょうどピーターバンから出てきたアキラが、焦って遊佐の言葉を奪った。 「なななな、何勝手にしゃべってるんだよ! 泣いてなんかないだろッ」 アキラは遊佐にくってかかっていて、 「・・・・・・・・・・」 伊沢が激しく動揺しているのに気づかない。 遊佐は頭をかいた。 「悪ぃ。やっぱ伊沢には言っておこうかなと思ってさ」 「どーして伊沢に言うんだよ! 伊沢とは関係ないだろッ それに、そうやってあんまり他のヤツにしゃべるなよな!」 「なんで?」 「――なんでって・・・・。は、恥ずかしいだろ・・・」 コンサートのチケットで一生懸命になっているのも、チケットの取り合いで負けてしまったのも。 アキラは赤くなって顔を伏せた。 「明日の夜はどうすんだよ、アキラ」 「・・・・大丈夫。あいつが絶対来るって決まったわけじゃないし・・・。もし来ても、今度はあんな、何もできないなんて情けないことにはならないから」 「・・・・そっか」 アキラと遊佐がそんな会話を交わしている横で、伊沢は黙っていた。 心なしか、曇ってきたような気がする。 アキラは空を見上げた。 「――夕立でもありそうだな」 「・・・・・アキラ。送っていこう」 伊沢が、表情を読ませない声で言う。 アキラは、頷いた。 「いいの? ありがとう! ――じゃあな、遊佐」 「おう。またな」 遊佐は、アキラと伊沢を見送る。 伊沢のGTRが見えなくなってから、遊佐は小さく笑った。 なんとなく、アキラは居心地が悪かった。 伊沢はあまり話す方ではないので、車内が静かなのは珍しくないのだが。 「あの・・・・さ、伊沢」 「・・・何だ?」 「何か・・・機嫌悪くない?」 「・・・・・いや」 「そう・・・・・」 しーん。 アキラは首をひねった。 やはり、何かおかしい。 その時、伊沢が口を開いた。 「アキラ」 「うん?」 「・・・・・・・」 「何?」 「・・・・・・・そ、の。さっきの話だが――」 「う」 アキラは顔を抑えた。 恥ずかしくて思い出すだけで赤面してしまう。遊佐に笑われるのはまだいいが、伊沢に呆れられるのはなんとなく嫌だった。 それなのに、遊佐のヤツーーー! アキラは胸の中で遊佐に文句を言う。 「あんまり話したくないんだ、それは」 「・・・・・・そう、だな。・・・すまない」 「ううん」 ・・・・すまない?? どうして伊沢が謝るのだろうと思いつつ、アキラはそれ以上その話を続けたくはなかったので言わなかった。 車内には再び沈黙が降りていた。 外は激しい嵐になっていた。 アキラは次の日の夜、無事にチケットを手に入れた。 なぜか『ストロング』の頭である男は現れなかったのだった。 「どうしてあいつ来なかったのかなあ」 数日後、首をひねるアキラに、遊佐は笑っていた。 「だから、言ったろ? お前の方が勝つって」 「??? 勝つも何も、来なかったんだ。どうしてだろうなー」 「ま、お前が最強だって事」 「は?」 アキラは分からない。 ピーターバンの入り口が開く音がして、伊沢が現れた。 伊沢はアキラの方へ近寄る。 「今日はまだ二人だけか?」 「うん。皆来てないみたいだ」 そう言ってから、アキラは思いついたように伊沢にチケットを取り出して見せた。 「これ! 伊沢は知ってるから言っとこうと思って」 「?」 「ちゃんと、チケットとれたんだ。心配してくれてありがとな」 「・・・・チケットとは?」 「? 遊佐から聞いてたろ? 『ストロング』の頭と、チケット手に入れるのに争ってたって。最初はあいつに全部買われちゃってさ」 「・・・・・・・・・」 「伊沢?」 「・・・・・・・・」 伊沢は、なぜか遊佐の方を見て(睨んで)いる。 「伊沢? どうかした?」 「・・・・いや」 十数秒間遊佐を睨んでから、伊沢はアキラに目を戻した。 その目は遊佐に向けていたものとは全く違う。 「・・・よかったな」 「うん! ありがと!」 アキラはにこっと笑う。 その時、ピーターバンにぞろぞろとケンタたちが話しながら入ってきた。 「『ストロング』が解散したって?」 「――数日前に、頭が誰かにボコボコにされたんだってよ」 「へえー。結構強そうだったのになあ」 そんな話声が聞こえてきて、アキラはチケットを見た。 「――それで、チケット買いに来るどころじゃなかったのか・・・・」 「そーみたいだなあ」 「・・・・・・・・・」 笑う、遊佐。 黙る伊沢。 それから1週間、なぜか誰も遊佐の姿を見る者はいなかった。 |
END