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…甘い毒・うるさい電波…
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夕方頃電話がかかってきて、慌てて病院に駆け付けた
「もしもし、紅病院ですが白森さんですか?」
「はい、白森ですけど。」
「あなたの妹さんがまた運ばれてきて。」
電話先でまだ話が続いていたが、私にはそんなの聞く余裕がなかった
見慣れた真っ白い廊下を早足で歩き、目的の場所を目指す
あちらこちらと、広くも狭くもない院内を見回す
もはやこれは日課になりかけていた
「あ、ここだよぉ!」
聞き慣れた大声が耳に入った
慌てて声のした方向を見ると、探し者が見つかった
ガラガラと点滴を吊す点滴台をお供にこっちにやって来た
やたらにこにことしている締まりのない顔は
いつもと同じように不健康に青白い
「お迎えご苦労様。」
そんなのんきなことを言ってるのは
私の実妹・縁
「蒼已ちゃん、苺食べたい。」
点滴が終わるまで縁はそう言い続けた
丁度今は苺の季節
帰り道にでも買ってあげよう。 そう思い、返事の代わりに縁の頭を撫でた
1時間後、点滴を終え治療費など払って病院を出た
2人、のろのろと駐車場を歩き、車を探す
あったよ。にこにこと車のある方向を指さし縁は笑う
車にエンジンをかけると、つっけぱなしのラジオから歌が聞こえた
これ知ってる。とは突然歌い始めた
上手くもなく下手でもない歌声が、まるで電波みたいに車内うるさく響いた
「運転妨害っ。」
「関係ないよ、蒼已ちゃんの運転が初心者なだけ。」
「そうですか、それは悪うございましたね。」
そう言うと、縁はけらけらと笑い出す
子供特有の高い高い声で
「あれ、蒼已ちゃん、ここ家と反対側だよ?」
「わかってる。」
お目当ての物を見つけ、車を止める
1人車に残された縁は不思議そうに私を見つめていた
数分して、車に帰ると縁はラジオをいじっていた
あ、おかえり。とにこっと笑う
「はい。」
ビニール袋を渡すと縁はさっと中を覗いた
「あ!」
縁は一瞬歓喜の声を上げるとすぐに食べて良い?と何度も尋ねた
袋の中には既に水洗いされて葉っぱのない苺が入っている
どうぞ。と許可の声も聞かぬまま縁は苺を食べ始めた
「ああ、甘い。」
縁は苦笑した
「何でそんな顔してるのよ。」
そう問うと、縁はにこにこと子供みたいに笑う
「甘い苺は毒だから。」
「あまりに甘くて頭がぼんやりしてくる。何か悪い薬みたい。」
「食べ過ぎたら、現実逃避が酷くなりそう。」
真剣にこんなことを言うのがあまりに可笑しくて
思わず吹き出すと、縁はむっとしていた
「まぁ、それなら苺食べ過ぎないように。」
そう言うなり、縁は苺を一気に頬張った
「ああ!」
「ぅぅ、甘い。」
縁は苦笑して口を両手で押さえる
その手にはさっきの点滴針の代わりに、白い絆創膏をぺたぺたとくっつけていた
「私の分も残しときなさいよ、もうっ。」
「知らないもんねぇ、あたしは今から現実逃避するんだから。」
「どうぞ、ご勝手に。」
そうしてしばらく、縁は大人しくしていた
でもそれは本当にしばらくの間だけで、すぐにごそごそと動き始めた
「蒼已ちゃん。」
ぐいっと服を掴まれ、ふと横を向くと
縁の手にはさっきの苺が1つだけのっていた
「現実逃避のお誘いかしら?」
「まぁね。」
縁は得意げに言う
「縁が食べて。」
「なんで?」
「だって、私まで現実逃避したら。」
「私までその毒にやられたら、誰がその毒を治療するの?」
「そっかぁ。」
縁は納得したのか、ぱくりと苺を食べてしまった
「ぁぁ、ぅぅ、毒がぁ、助けて、蒼已ちゃん。」
「毒を治療するには、縁の嫌いな勉強が一番よ。」
「ええ、嫌だ〜。」
すっかり暗くなった夜道を車で走り抜ける
その間
車内にはうるさいうるさい電波が響き
甘い甘い毒の香りが広がった
【おわり】
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