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星を数うる如し…

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彼はいつでも夢を見ている

空っぽのペットボトルと工作に必要な道具を持ち出してはロケットを作り
そして気が付けばそれを飛ばしに夜出かけ

「今日こそ成功させるんだ。」

と嬉しそうにいう

”星を数うる如し”
この言葉に最も相応しいのは彼だと
ため息1つ2つしたって彼は絶対気が付かない
それくらいこいつはこの事に熱中しているのだ


「ごちそうさまっ、いってきます!」

夕飯を食べ終わる也、彼は家を飛び出した
これはもう、うちの常識である彼の習慣

ラジオ片手に自転車に乗って
ライトも付けずに夜道を突っ走る

「もう、あの子ったらまたライトも付けないで!」

食器を片づける音に混じって母の大声が聞こえた

「仕方ないよ、今日は特に。」
「ついさっきまでやってたんだ、あれが好きそうな番組が。」
「まあ、通りで。」
「全く馬鹿だから、あんな怪しい番組信じ切るんだよ!」

わざとらしく大声を出すと、母はぷっと吹き出した

「ふふ、青樹はじゃあ今日はもういかない?」
「ん、いってきますよ。」
「何だかんだ言ったって結局心配なのね、お兄ちゃんのこと。」
「い、いってきますっ!」

ばたばたと玄関まで走っていって、靴もちゃんと履かずに家を飛び出した
母はくすくす笑いながら玄関から声をかけた

「あなたも気を付けていくのよ、もう外は真っ暗なんだから。」

返事の代わりに手を振ると、小さくいってらっしゃい。と聞こえた

5分ほど電灯の明かりもない、ただ真っ暗な道を走って
ふと見上げた空には寒気がするほど星が浮かんでいた
普通の人なら星を見て”きれい”とか言うかもしれないが
自分は違う
星を見ると”こわい”のだ
それもこれも
全部

「おいっ、そこの宇宙人オタクっ!」

そう、通称宇宙人オタクの

「うるせぇ、実の兄貴に向かってオタク呼ばわりか!」

無駄に広い草原で望遠鏡をひろげている
俺の兄・宏夜のせいだ

それこそ、まだ首のすわらない赤ん坊の頃から「宇宙人」が好きだったそうだ

そして兄をこんなのにしたのは俺達の親父だ
宇宙飛行士である親父が元凶

回想すれば、随分と昔のこと
俺がまだ3歳で、兄は7歳だった
兄は、親父に買って貰ったばかりの天体望遠鏡をとにかく飽きずに覗いていた

そんなある時
興味本意で兄にこう聞いた

「お兄ちゃん、いつも何見てんの?」

聞いた瞬間、兄は本当に嬉しそうな顔をした
俺の頭をがしがしとかき撫でて

「星を見てるんだ。」

そう言った
そして

「ふぅん、星ってあのぴかぴかしているやつ?」

これを聞いたが最後、俺の星嫌いはこの一言から始まった
兄はこわいくらい、にっこりと微笑し口を開いた

「実はあれは宇宙人の乗ってるUFOなんだ。」
「え?」
「じゃあ、UFOはあんな所で何してるの?」
「宇宙人が地球をいつ攻撃しようかと思って、計画を立てながら見張ってるんだ。」
「ええ!?」
「ど、どれがUFOなの?」
「ほら、よぉく見てみろ。」

兄は得意そうに空を指さして機関銃みたいに話し始めた

「あれが星だ、あっちのは火星人のUFOだぞ、それであの青っぽいのが・・」

あまりに長過ぎる説明に、当時の幼い俺の頭では処理できなかった
そして星とUFOの区別が付かないことから
何故か『星=UFO』という勘違いが頭に染みつき、それがトラウマとなってしまった

と、まあ俺の星嫌いの説明はさておき


「兄貴、もう帰ろ。」
「うるせぇ、帰りたいならお前一人で帰れ。」
「それじゃ、俺がここに来た意味がなくなる。」
「じゃあ最初から来るな。」
「酷〜。」

微かな自転車のライトを頼りに、兄は望遠鏡をいじっていた
そしてその傍らには今朝完成させたばかりの玩具が置かれていた
もはや何号目になるだろうか
それもわからなくなるくらい作られ続けた、ペットボトルロケットが

「今日こそ成功させるんだ、の決まり文句は言わないのか?兄貴。」
「甘いな、弟よ。」

兄は笑いながら、こっちに振り向いた

「『今日は成功』なんだよ。」

兄はガキみたいに笑うと、又望遠鏡をいじり始めた
順調順調。と嬉しそうな兄の声と
ペットボトルに入れた水の、ちゃぷんっという涼しげな音が耳に入った

「ああ、何か眠〜。」

俺は草原にごろりと寝転んで、空が見えないよう両手で目を覆った
あくびが無意識に出る


そういえば、兄の夢は何だったかな
確か、4,5ヶ月前に聞いたような
丁度今日と同じように、星が出た夜の草原で

「兄貴、何で空にペットボトルロケットなんか飛ばしてるんだ?」
「あぁ?そんなの決まってんだろ。」
「宇宙人共に見せつけるんだよ、地球人の文明はここまで進んでるんだぞ、ってな。」
「は?」
「物わかりの悪い奴だな。」
「玩具でさえお前等のUFOと同じくらい進展してる、って思い知らすんだよ。」
「は?」
「うるせぇな、作業の邪魔だから黙ってろ。」

ああ、そうだった
兄の夢は、地球文明の発展の凄さを宇宙人に見せつけること
もとい、『ペットボトルロケットをUFOにぶつけること』


ジリジリという、異常なラジオのノイズに目が覚める
まるで、何かの電波に反応しているようなノイズに

「青樹、よぉく見てろよ、兄の偉大な活躍を!」

兄は目を星以上に輝かせ、てきぱきと『ロケット発射準備』を始めた
ぼんやりしたまま空を見ると
流星みたいな光が海を泳ぐ魚のように、ひらひらと空を移動していた

「兄貴、UFOが。」

頭が真っ白になった
のろのろと兄を見ると、自転車の空気入れでペットボトルロケットに空気を入れていた
やはり目は星以上に輝いている

「思い知れ、地球人様の実力を!」

ゴミ原材料のロケットは
兄の笑いと共に、勢い良く空に飛び出した
水飛沫を上げながらどんどん小さくなっていく

だがロケットといった所で所詮、ペットボトルロケット
勢いは瞬く間になくなってしまい、やがて地上に向かって落ちてきた

「兄貴、ロケットが。」

ぼんやりと呟くが、兄は黙ったままにんまりと笑っている
疑問を抱くことより早く
空を泳ぐ光はペットボトルに接近していた

「あっ。」

静かな夜空には奇妙な金属音が響いた
俺はそれをただ真っ白な頭で聞いていた

”星を数うる如し”
この言葉はたった今
この言葉が最も相応しい彼によって
説得力を失った・・・かもしれない

【END】

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