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…満月下の晩餐…

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−目の前が真っ暗なんだ−
−いくら寝ても朝が見えない−

「水鶏、大丈夫か?」

声がした

「仕事中に居眠りとはお前にしては珍しいな。」
「どうした、昔の夢でも見たのか?」

目を開けた
でも、その存在はそこにはない
何度瞬きしてもただ闇が広がる

「何だよその顔は、あの営業用の笑顔はどうした?」
「夢の中にでも落としてきたのか?」

手を伸ばしてみる
ふんわりとした感触が手を通して分かる
・・・あたたかい

「おい、本当、今日はどうしたんだ?」

頬を伝う生温いモノ
両目からは同じモノが同じ量だけ流れているのが分かった
そして、それを拭う大きな手
そのあたたかさも分かった
・・・ただ自分の頬を伝うこれだけが分からない


『お前は本当にそれで良いのか?』
(はい。)
(私の目は元々見えていないのですから。)
『そうか、、、。』
『ならば、約束通りお前の両目の視力と引き替えに聴力の向上を授けよう。』
(はい、ありがとうございます。)


「だから泣くなって、それとも自慢の耳まで聞こえなくなっちまったのか?」

自慢の耳・・・?
そうだ、自分は両目の視力と引き替えに強力な聴力を持つ耳を手に入れた

(お母さん、どうして?)
(目の前が真っ暗なんだ)
(いくら寝ても朝が見えない)

『神と誓約を交わしなさい。』
『たとえ視力を完全に失ってもその鮮やかな両目の月は失わないはず。』
『行きなさい、さぁ。』
『これが母さんからの最後の贈り物”満月下の晩餐”。』


「おい、又ぼーっとしてんぞ、客が来たらどうすんだ?」
「さっさと顔洗ってこい。」

顔に押しつけられた大きなタオル
しばらくそのまま顔に押しつけ目を閉じた

(お母さん。)
(ねぇ、お母さん何処にいるの?)
(あ。)
(、、、、これは母さんの手?)
(冷たい、、、、。)

月光を浴びながら食べた
最初で最後の母の手料理
冷めたスープが少しだけ不味く感じた
近くにいるのに遠く感じた母との距離
手探りでやっと見つけた愛しい人の細い手
顔に押しつけていると
とても冷たくて

まるで、熱のない人形のようで
今でも全てリアルに覚えている怖くて真っ暗な過去のこと


「金平糖、私は泣いていますか?」
「っはぁ? 自分が涙流してるくらい分かるだろ。」
「やっぱり顔隠すな、ほらタオル離せ。」

ぐっと自分の手を掴む大きな手
顔からタオルが外されるのが分かる

「金平糖、、、。」
「ん?」
「私は貴方のそう言う強引なとこが大っ嫌いです。」
「はいはい、そーでございますか。」
「でも、、、。」

まだ近くにあるだろう、彼の手を掴み自分の顔に触れさせる

「でも金平糖、貴方のその大きくあたたかい手だけはとても大好きですよ。」
「部分的に愛するんじゃなくて全部愛して欲しいんすけど、、、。」
「貴方のつまみ食い癖が治ったら、少しは考えましょう。」
「お前顔は可愛いけど性格全然可愛くねぇ〜。」
「とりあえず。」

自分の顔を挟むようにして添えられた大きな両手

「その両目の色だけは気に入っといてやるよ。」
「ありがとうございます。」

少しだけ笑ってみせた
その時 彼の顔が少しだけ熱くなった気がするのは
彼が少しだけ照れている気がするのは

私の気のせいでしょうか


【END】


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