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…冬香…
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散歩に出かけると冬のにおいがした
時折吹く肌寒い風に乗って
ふんわりと
公園で遊び回る子供達は
まだ夏色に焦げた腕や足を出しているのに
あちこちで見かける物は
まだ秋の真っ盛りの物なのに
降り注ぐ太陽の光は
まだこんなにも暑いのに
ふと香るは、冬のにおい
「くしゅんっ。」
足下から小さなくしゃみが聞こえた
「何よ、あんた。そんな毛皮着てるのに寒いの。」
頭をぐしゃぐしゃに撫でると、それはわん。と一言鳴いた
ラブラドールの黒い犬・ラフ
「帰ろうか。」
ベンチから立ち上がると、ラフは嬉しそうにぱたぱたと尻尾を振る
子供達の笑い声や、母親達の世間話が残る公園を後に
ラフと家までかけっこした
家に帰ると、母が洗濯物を片づけていた
「おかえり、織音、なかなか早かったわね。」
ぱたぱたと洗濯物を畳みながら母はそう言った
「だって、ラフが寒いからお家に帰るって言ったんだもん。」
「あら、そうなの?」
母は私の足下でお座りをしているラフの顔を見た
ラフはちょっと小首を傾げて、わん。と一言
「まぁ、いいわ。それより、やることあるなら早くやりなさい。」
「宿題とかでしょ。」
あら、よくわかってるじゃない。
そんな声が聞こえた頃には、母は立ち上がっていた
「今日は宿題ないんだからね。」
畳み終わった洗濯物を抱える母の背中に一声かけて、居間に入った
居間には姉がいて、テレビをぼんやりと見ていた
テレビからは丁度ニュースが流れていた
ニュースキャスターが写っていた画面がぱっとかわり
地図が現れ、太陽やら雲やら傘のマークと数字が浮かび上がった
そんな中、ぽつりと雪だるまのマークが目に入る
この世界の北の方では既に雪が降っているらしい
もうそんな季節なのか?と思う
姉が何か思いだしたかのように立ち上がると
居間を出ていき、すぐに段ボール箱を抱えて戻ってきた
「はい、織音の友達から。」
段ボールを置くと、どすんっと、重みのある音がした
箱を開けると、辺りにいいにおいが広がる
箱の中には、まん丸い物がぎっしり詰まっている
「蜜柑だ。」
姉が隣から顔を覗かせ、箱の中身をじっと見ていた
「あ、手紙はっけーん!」
「え、嘘ぉ!」
姉の方が一足早く、箱から手紙を抜き取った
「あー、プライバシーの侵害ですよ〜。」
手紙を取り上げた姉の腕を押さえる
「あたしは他人の手紙勝手に見るほど、失礼な奴じゃないよ。」
ぽいっと、手紙を渡され急いで開封した
*DEAR:織音
*ちわ、元気してる?茶緒だよ〜
*そろそろ織音のことだから冬のにおいがどうこういってるんじゃない?
*そんな織音のためにこの茶緒様から、冬のにおいを捧げるよん。
*美味しくて甘酸っぱい柑橘の便りを!
*どう?嬉しすぎて号泣しちゃうでしょ??
*お礼なんてものは別にいらないけど、どうしてもっていうなら〜
*そうね、私の大好物のこぶた饅頭でも送ってね♪
*んじゃ、今回はこの辺でバイバイ。
*FROM:織音の大親友の茶緒様
「わぁ、茶緒からだよ、姉ちゃん!」
蜜柑を見ていた姉に飛びつき、服を引っ張る
姉は良かったね〜と棒読みで答えた
「ま、すごく嬉しいみたいだし、その喜びを忘れないうちに返事でも書いたら?」
「そうだね、そうだよね、たまには良いこと言うじゃん!」
姉の背中を叩き、早々と居間を出て、便せんと切手を探す
次に、綺麗な色のペンを探す
「ラフ、何書いたらいいかな?」
縁側に座ってラフを眺める
ラフはボール遊びをしていたが、すぐにやめてこっちに寄ってきた
頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振る
「あ、そうだ。ラフと公園に散歩したこと書こう。」
「楽しかったから、その楽しさを茶緒にもお裾分けしようね、ラフ。」
「あ、それと。」
「ほら、ラフ、これも冬のにおいなんだよ。」
ふと思いだし、さっき1つだけ取り出した蜜柑をラフの顔近づける
ラフは目の前の蜜柑のにおいを嗅ぐと、わん。と吠えた
「美味しい冬のにおいだよね。」
にんまり笑って、ラフをぎゅうっと抱きしめる
「手紙書き終わってポストに出しに行くとき散歩しようね。」
そう言うと、ラフは尻尾をちぎれそうなくらい振り回した
「それと、もう1つの冬のにおいを嗅ぎにいこう。」
もうすぐやってくる雪の季節を知らせている
ふんわり香る冬のにおいを
【おわり】
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