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…月夜の仕事人…

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−3:今宵の風−

水鶏にしては珍しく今日は定休日の看板が店の前にある
どうやら、商品の手入れ・入れ替えを行っているようだ

「最近、売り上げが本当に良いですね。」
「絵が5、小物7、家具6、それと歌が12。」
「これはもう、黒字ですね。」

そう言い、水鶏は嬉しそうに地下倉庫から絵を取り出す
と、急に金平糖が走って来た
そして、水鶏の服をかんで引っ張る

「どうしたんですか、金平糖。」
「ニャー!」
「お客様ですか? そんな、今日は確かに定休日と、、。」
「看板があったけどな、緊急なんだよ。」

水鶏は少し吃驚し声のする方向に目をやる
と、そこには見覚えのある影が2つ

「染、それにシャンメリー。」
「ご名答! 水鶏、しばらくだな。」
「お久しぶり、水鶏お姉ちゃん。」

水鶏はシャンメリーに気が付くと、絵も捨て瞬時に近付いた
そして、とても嬉しそうに微笑する

「シャンメリー、元気でしたか?」
「うん、元気! お姉ちゃんは?」
「私は見ての通りですよ。」

そう言うと、水鶏は嬉しそうにシャンメリーを撫でた

「所で、貴方達は何しに来たんですか?」
「ああ、探して貰いたい歌があるんだ。」
「社長からのご依頼なの。」

染とシャンメリーは順番にそう言うと、紙切れを水鶏の前に出した
水鶏はそれを手に取り、そこにある文章全部に目を通す

「わかりました、探し出しましょう。」
「久しぶりに『本業』ができますよ。」

水鶏は店の奥に入り、何やら古めかしい木製の箱を持ってきた

「あれをやるのか?」
「そうですよ。」
「でもお姉ちゃん、あまり長時間はやらないでね。」
「わかってます、これはいつもやってることなんですし大丈夫です。」
「でも!」

と、染とシャンメリーは声を合わせた
次は、染だけを口を開く

「お前、ちゃんとあの書類を読んだのか?」
「ええ、社長のサインまで全てはっきりと。」
「そうか、じゃあ気を付けてちゃんと仕事しろよな。」
「はい、そうしないと金平糖が飢え死にしてしまいますからね。」
「ニャー!!」

金平糖はとても不機嫌そうに水鶏を睨み付けた
水鶏はそんなこと全く気にせず、箱を持ったまま外に出た
染とシャンメリーもそれを追いかけるように外に出る
外に出ると、水鶏は早速本業に移ろうとしていた
そして、いつもしている目隠しを取る

「、、、始めたようだな。」
「うん。」
「あれ、もうすぐだよね?」
「あれか、もうすぐだな。」

染とシャンメリーはとても嫌そうに耳を押さえて会話していた

「きた!」

店の周辺でとてつもない超音波が響く
染とシャンメリーはとても辛そうに耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ
水鶏はそれに全く反応しない
ただ、何かの呪文のように歌を歌う

「ひぃぃぃ〜〜!」
「頭が割れる〜〜!!」

次の瞬間、音が消えた
染とシャンメリーは少し苦笑しながら立ち上がった
水鶏は何もなかったかのように、染とシャンメリーに近付いた

「毎度のながら、あの音には慣れねぇな。」
「うんうん、今日なんかすっごく強かったよ。」

染とシャンメリーは相変わらず苦笑している
水鶏も苦笑した

「すいません、まだ見からないんです。」
「なんだか別の歌ばかりここへ来るんですよ。」
「ええ?!」

染とシャンメリーは声を合わせ叫んだ

「お前界一の歌探し屋じゃなかったのか?」
「それはそうですけど、、、、。」
「お姉ちゃん、もしかして力が弱まったとか?」
「そんなことはないと思うんですが。」

そんな中、金平糖が紙切れくわえてきた
水鶏の前に来ると、それを地面に置く
水鶏は不思議そうにそれを拾い上げ、目を通す

「、、、、これよく見ると名前が違いますね。」

そう言うと、水鶏は木製の箱を開け淡く光る何かを取りだした
それは真っ赤な光を放ち音を上げ、やがて消えていった
染はその光景を興味深そうに見ていた

「いつ見ても面白いな。」
「その箱にかかると、どんな歌も形になり色も付く、不思議だ。」

染がそう言うと、水鶏は静かに笑い、口を開く

「もちろん、歌にだって個性はあるんですから形や色はバラバラですよ。」
「でも全てにおいて言えることは、『貴く美しい』。」

シャンメリーはただ2人の不思議な会話に耳を傾け、首を傾げる
しばらくすると、水鶏は箱を閉じ一度深呼吸してみた
そして、もう一度歌い始めた

今度はとても静かに音が響く

「久々だな、歌を探すのにこんな静かなのは。」
「そうなの? あたしは初めて聞いたよ。」
「お前と俺じゃ生まれた年が違い過ぎんだよ。」

シャンメリーはとても不満そうにする
その時、水鶏の手元に真っ白な光が集まり始めた
これには、染とシャンメリーも呆然としていた
しばらくすると光は収まり、水鶏は箱を閉じた

「見つけましたよ、”今宵の風”を。」
「おお、見つけたのか!」
「流石、水鶏お姉ちゃん!!」

シャンメリーは目をキラキラさせながら水鶏に飛びつく
水鶏は少し吃驚していた

「な、いきなりどうしたんですか。」
「お姉ちゃんのこと、尊敬し直しちゃったよ!」

シャンメリーは嬉しそうに笑う

「、、、、、やっぱり、水鶏は界一の歌探し屋だな。」

と、染は少し照れながらそう言った
水鶏は嬉しそうに微笑した

「ニャー!」

金平糖はやっぱり不機嫌そうにぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた
水鶏はそれに気づき、金平糖を抱き上げ微笑した

「金平糖のお陰で無事に探せたってことぐらいは十分分かってますよ。」

それを聞くと、金平糖は少し嬉しそうに尻尾を振った

「そういえば、社長ご依頼の歌はどうするかご存じですか?」

水鶏は金平糖を下ろすと、染を見た
染は少し笑い、こう答えた

「明日の結婚記念日に、奥さんにプレゼントって言ってたぜ。」
「社長もなかなかのロマンチストだもんね。」

シャンメリーもにこにこしながらそう言った
水鶏は木製の箱をその場に置き、店の奥にもう一度入っていった
シャンメリーは不思議そうに、染は当たり前のように、それを見ていた
そして水鶏はすぐに戻ってきた
手には真っ白な箱と薄紅色の包装紙とリボンがある

「ラッピングに取りかかるのか。」
「そうですよ。」
「それを間近で見るのも久々だな。」
「ラッピングってそんなに珍しいの?」

染と水鶏の間にシャンメリーが入る
きょとんとして、とっても不思議そうにしている
水鶏は何も言わず、にこりと笑い作業を始めた

「ねぇねぇ、何やるの?」
「黙って見てろ。」

そう言い、染はシャンメリーの口を手で塞いだ
水鶏は静かに先ほどの木製の箱を拾い上げ開けた
すると木製の箱からは、真っ白な光が現れる
辺りにはとても心地の良い歌が響いた

次に、水鶏は真っ白な箱の側面に付いていたネジを巻く
どうやらその真っ白な箱はオルゴールのようだ
ネジを巻き終えたオルゴールは、しばらくすると静かに動き始めた
だが、音はしない
水鶏はそれを確認するとオルゴールについていたふたを開けた
その瞬間、光はオルゴールに吸い込まれるようにして入り込んだ
光が収まると、オルゴールはぴたりと止まる

「第1段階、終了です。」

水鶏はそう言い、音のしないオルゴールを包装し始めた
その場の状況がつかめていないシャンメリーは不思議そうに水鶏を見た

「どうしましたか、シャンメリー?」

水鶏はシャンメリーを見ながらも、手は止めていない

「そんな音のしないオルゴールあげちゃって良いの?」
「? もう音はしますよ。」
「え?」
「シャンメリー、さっき水鶏が箱に音を宿してたの見てなかったのか?」
「音を宿す?」

シャンメリーは益々不思議そうに水鶏を見る
水鶏はシャンメリーの頭に手をのせた

「オルゴールというのは、音を宿さないと音が出ないんですよ。」
「宿すというのは、『思いを込める』ということです。」
「とは言っても、方法は多様多種。」
「宿し方によって、その物の音色・出来は異なるんですよ。」

そう説明すると、水鶏はシャンメリーの手に包装された包みを置いた
そして水鶏は優しく笑った

「お使い頼めますか?」

シャンメリーはとても嬉しそうに笑い、元気良く返事をした

「これ以上居ても仕事の邪魔になりそうだし、俺達は帰るぜ。」

染はそう言うと、空中に輪を描いた
すると空中に歪みが現れ、それが何かの入り口のようになった

「シャンメリー、早く来いさっさとそれを届けるぞ。」
「あ、はーい。」

シャンメリーはぱたぱたと染の元へ走っていった
が、途中で止まり水鶏の方へ振り向く

「またね、水鶏お姉ちゃん。」

シャンメリーはにっこりと笑った
水鶏もにっこりと笑い、手を振った
それを見ると安心したように、シャンメリーは染の元へ走っていった
シャンメリーは止まりもせず、振り返りもせず、染と一緒に消えた

「何かあっと言う間でしたね、金平糖。」

水鶏は自分の足元を見る
と、金平糖はそこで眠っていた

「こんな所で寝ては風邪をひきますよ。」

水鶏は金平糖抱え、日の当たる窓際に歩いていった
そして、静かに金平糖を置く
金平糖はそれに気付かず、のんきに寝返りを打った
水鶏はそれを見てくすくすと笑い、もう一度商品の手入れに取りかかった


【END】


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