sense off 感想


 率直にいって面白かった。 日常と非日常の落差から生み出される衝撃は大きいし、「感動」「泣き」「萌え」など一通り揃っているし。 パッケージやCGで正直損している(絵自体は悪くない。というか結構好み)し、 音楽自体はいいけれどリフレインのつなぎがぎこちなくて興を削ぐとか、 シナリオによっては唐突になりすぎてこちらが付いていけないようなところもあったりと、粗もないではないが、 それを帳消しして余りあるシナリオで、フルコンプするのが「作業」ではなく「楽しみ」というか「興味」によって、 主体的に続きをやりたくさせるというか、シナリオ毎に異なる趣向を用意しており、ともかくハマってやれるゲームである。 ただシナリオに癖がありすぎて、この調子が合わない人は全然合わないだろうけど、 少なくともぼくの好みからは外れていなかった。 かなり衝撃的なストーリーでもあるのだが、何度も読み直してみたいと思わせる話。 そしてそのたび毎に考えてみる、という楽しみがありそうなので、個人的にはパフォーマンスも良し。 いいゲームにあたったなあ、と思った。

  • 織永成瀬
     主人公の幼馴染の少女。「幼馴染」の基本セットをそろえて、みるからにメインのヒロイン。 普通に選択していけばもっとも関係の深いヒロインになる。しかしそこから導かれる結末が衝撃的。 オチ自体はストーリーの流れから予測可能な範囲ではあったのだが、彼女の選んだ行動は怖い、というか呆然としてしまった。
     メインのヒロインの割にはかなり損している、ような気がする。 「日常」での出番は一番多くて表情パターンも多い。 ただあまりにも「基本」的なキャラクター故に他のキャラより「普通過ぎる」。これもかなり損してる。 問題なのは他のヒロインのENDを見ないで成瀬ENDを迎えたら、「なんてことをするんだこの女」と思うだろうし、 逆に他のヒロインから攻略していったら、その過程で「なんだこの女」と思う(実際ぼくはそうだった)だろう、ということ。 すべてのENDをみた後なら、「人間」としての主人公との結びつきの強さと、その「能力」ゆえの絶望と希望が明らかになり、 彼女の選択とかになんとなく共感できるところが生まれてきたりはする。 それが救いといえば救いか。
     true endの部分は判断が難しい。あれが希望なのか絶望なのか、どっちともとれるので。そういう意味でもこの話は「深い」。
     前述の通り、成瀬ENDみるまでは「なんだこの女…」という感情が多少あったのだが、 END見て以降は、「萌え」度増大。かなり好みのキャラクターとなった。 ただ、それでもあの選択は主人公の立場になったらたまったものじゃないな、という感情はぬぐえないけど。

  • 埴島珠季
     研究所の「協力者」の一人。主人公や成瀬の「同級生」。主人公に着替えを覗かれたことで意固地になって、 主人公とことある毎にぶつかり合う勝気な少女。ふとした言葉で主人公と和解。徐々に盛り上がっていく。これも類型的である。 当初はいまいち「萌え」という感情はもてなかったのだが、 彼女のルートに入ったところから増えてくる立ち絵(「にへら」と笑う絵や少し照れたような絵)でグっと来て、 いかにもありがちなのだが、主人公とラブラブになったりしたときの行動に「萌え」炸裂。 画面の前で叫びそうになったり。
     終局は唐突に訪れ、そして…。正直少々「あざとい」と思わないでもないけれど、 EPILOGUEでは思わず泣きそうになるほどの衝撃。 恐らく最も「日常」の描写が生き生きとしていて、主人公との対立→恋愛関係となる過程がそれらしく描かれているので、 終局が映えるのであろう、と思う。
     true end(というのかどうか知らないが)の部分は正直、ないほうがいいような気がしないでもない。EPILOGUEの余韻を削ぐから。 しかし、他キャラクターとの関連の上でこの部分はカットできないともいえる。 ただ、あまりにも唐突に現出する主人公の「能力」がなんだか「ご都合主義」っぽいのが少し気になる。 ただ、そこで明かされる彼女の過去や「グランマ」の真実には驚くし、「あってもいい」ような気はする。 結構判断が難しいところだが、単体の美しさを求めるなら「不要」、「sense off」全体としての横糸、または「救い」としては「必要」というところかな。

  • 真壁椎子
     研究所の「協力者」の一人。主人公や成瀬の「下級生」。引っ込み思案で人見知り。でも物事には一生懸命、という「妹系」キャラ。 最初はおどおど、というかおずおずしていたのが、次第に打ち解けてきて、勉強をみてあげたりするうちに仲良くなる、 といういい感じのキャラ。成瀬などと比べると立ち絵や表情バリエーションは少ないが、 おどおど系やわたわた系の立ち絵が結構かわいい。「萌え」だけでみれば、なごみ系という感じでいい。 1stプレイではこのENDをみたのだが、正直「なんでこうなるの」という気になった。 成瀬と珠季は「現世」での繋がり(多少考えるところもあるが)がスタートだが、 彼女はまた違うものがあって、というバリエーション展開自体はいい。 彼女と主人公の何気ない会話が伏線になってるという流れもいい。 突如出てくる「挿話」もいい。しかしそこに至るまでの展開があまりにも唐突で、こちらが付いていけなかった。 後に他ENDみてからなら主人公の「能力」とかが明かされるのでその行動はわからなくもないが、 これだけみると「なんだこりゃ」という感想にしかならない。 他ENDとの関連を度外視して、1つのストーリーとなっているといえる、成瀬や珠季の世界と違って、 これは他ENDとの関連がないと話として成り立っていない。 素材は悪くないけれど、少々バランスが悪い印象があって、それが残念。
     主人公の語りや「挿話」などで語られる過去の大数学者たちの名前やエピソードがなかなかいいスパイスになっている。 数学者列伝にのってるような話だけれど、こういうストーリーでつかわれるとなんとなく新鮮な印象がある。

  • 三條美凪
     研究所の「協力者」の一人。主人公や成瀬の「下級生」。椎子とは逆に物怖じせずに誰とでも仲良くなる。 関西弁を操る元気いっぱいな「小動物(猫かな)」系キャラ。異常ともいえる強力な嗅覚をもち、 「おもしろいこと」をさがして騒動起こしたりする屈託なさげな行動の下にはその「能力」による悲しみがある。 パターンは少ないのだが、立ち絵の表情が他キャラに比べてコロコロかわるのがこのキャラにあっていて良し。 こういう「猫みたい」なキャラは好き。元気分けてくれそうな気もするし、一緒になってバカやれるようなところがいい。 椎子同様、「現世」でない部分での繋がりが主人公とあって、 そのレベルでみると、メインヒロインであってもおかしくない設定をされている。 そういう面では優遇されているのかも。 突然始まる「かくれんぼ」やそこで語られる彼女の内面など、絵や台詞がいい。 ただ、残念なことにこれまた椎子のと同様に、終局への展開が唐突すぎてまたしても付いていけない。 ここで主人公の「能力」やその来歴がほとんど明かされるのだが、そういうことを除いてもやはり唐突だ。 椎子シナリオよりもまとまりはいい感じなのだが、その唐突感があまりにも強烈。 もう少し伏線はるとか、他ENDでそれを匂わせとくとかしないのは少し不親切といわざるを得ない。 このあたりの調整をしっかりしていれば、キャラも生きてるし、かなりいいシナリオだとは思う。
     しかし、このキャラもある種「妹」系ではあるな…

  • 御陵透子
     研究所の「協力者」の一人。主人公や成瀬の「同級生」。しかし、「特別」なために主人公たちとは別棟で生活しており、 週末の授業しか一緒にならない。いわゆる「ダウン系」な少女で表情の変化も口数が少ない。 偶然、主人公と出会い、次第に主人公に心を開いていく。その「能力」がかなり「特別」で、ある意味「最強」。 それゆえに孤独で、「あの人」の影を探す「後ろ向き」な少女。ハマる人には相当ヒットするキャラだと思う。 個人的にどうかと言えば…「向こう側の人」という感じで神秘性に惹かれなくもないが「萌え」には至らず。
     シナリオはかなりまとまりがよくて、椎子や美凪のシナリオに比べて一連の流れがかなり自然な印象をうけた。 ただし、難を上げれば、彼女の語ることをそのまま信じた場合、その「能力」の強大さゆえに、 作品世界の根幹をも揺るがしかねないというバランスの危うさと、 少しでも疑った場合、その言葉の裏付け、あるいは証明がないために、一歩間違えると「ヤバい電波/前世女」にみえてしまうこと。 もしかしたら前者についてはシナリオライターの狙いかもしれないけれど。 個人的にはまあ許容範囲内だが、それでもさじ加減が相当難しいキャラという感じがする。
     この作品が影響を受けた、あるいは「模倣」の対象となったといわれる「ONE」。 最もその色合いが強いのがこのシナリオかもしれない。「ONE」はプレイしてなくて、ノベライズを読んだだけなので確たることはいえないけれど、 なんとなくそんな気がする。

  • 塔馬依子
     研究所の研究者。そして主人公たちの「教師」の一人。 課題を出したり補習をやったりするのが生きがいともみえる言動があるが、基本的には気さくな「お姉さん」のような人。 ぼくは現実世界の「女性の教諭」は「大嫌い」なのだが、こういうキャラは結構すきだ。おもしろそうだから。 基本的にはバイプレイヤーだが、いくつかのシナリオをクリアすると彼女のシナリオに入れる。 ストーリーにしろCGにしろ、明らかに「おまけ」的な扱いが少し悲しい。 もう少しボリューム与えてそられしく構成すれば、「人間」としての彼女の葛藤や、 「能力」をもつ主人公たちへの感情などが描けて面白いシナリオになりそうではあるのだが、残念ながらそうはならず。 うまくつかえばいいキャラだと思うのだが。 「空を飛ぶ鳥には地を這う蛇の気持ちはわからない」という思わせぶりな台詞もあったのに、あまり生かされてないのも残念。
     食堂での宴会場面は楽しげでよい。

  • 飛鳥井慧子
     ネットにおけるチャットで主人公が「出会った」少女。 謎めいた言動が何によってもたらされるかを知ったとき、科学の暗黒面というか恐怖が垣間見える。 このシナリオも依子のものと同じくいくつかのシナリオをクリアすると彼女のシナリオに入れるようになる。 このシナリオは他のものと比べて相当異色ではあり、珠季ENDのtrueと同様に人間関係のある種の「究極」の姿を描いている。 これに象徴される「未来」をどうとるかはプレイヤーにゆだねられているが、なんかすごい。 ある種の恐怖と驚愕を招くのはぼくが既に「未来にキスを」やっていたから。 飛鳥井慧子ねえ…。「古文がすき」ねえ…。
  • CDについて
     ドラマパートとsoundtrack2枚組。さらに後者には「体験版」添付。「読み直し」のときにつかってみよう。
     OPとEDは思いっきりネタバレしてるのはご愛嬌。曲が全体的にいい感じ。 「コズミック・ラン」と「ピアノフォルテ」がお気に入り。 他も結構すきなのが多い。BGMとして使えそう。
     ドラマは正直「先にゲームしててよかった」。思いっきりネタバレしてる。 特に成瀬。まあ、メインヒロインなのでこの選択は妥当だと思う。 やはりシナリオの元長氏も成瀬の扱いに罪悪感があったのだろうか。 ゲームとCD版は違うというポリシーで、そのあたりの「加工」はなかなか興味深い。 題名の「WORLDS」というのも意味深だと思う…そうでもないかな。 キャストは結構いい感じ。ただ、このキャストでフルボイス版のゲームを作ってほしいかというと微妙。 合ってない、ということは決してないがCDドラマで聞くのとゲームで聞くのとは自ずから異なるような気がするので。
     ゲームの後日談ともとれないことはない展開なので、ゲームをクリアしてから聞くべき。
     どうでもいいが、ジャケ絵が「illustration:yuuro」になってるのだが「iuro」じゃないのかな?

    Author : suita@terra.dti.ne.jp