火星に忽然と現れたその男は自らを高次元からやってきた「犯人」を追う「刑事」だと名乗る。 しかしその「犯人」とは火星の大統領だった…という神林長平のSF作品です。 神林作品といえば「人と機械」とか「人と世界」といったテーマを書くという印象が強いのですが、 この作品についてはそれらしい設定や機械(人工知能)などは出てくるものの、 その面は思ったよりあっさりしていてアメリカのSFアクション映画のようなノリと展開をもった作品であるなあ、という感じを受けました。 読み易くてよかったとは思うものの、小難しければいいというものではないのは重々承知していますが、 もうひとつ深みに欠けるような物足りなさも感じないではありません。 「帰還」というキーワードはよかったのですが、もう少し突っ込んでもよかったような気がします。

 題名の通り、神話やファンタジーも含めて歴史上に名の挙がった様々な国や土地について、 「古地図」から検証するという本です。アトランティスやムーなどの大陸からエル・ドラドなどの伝説の土地まで、 よく聞くような地名や国についてその概略などが記されていて、ちょっとした確認などには便利ではありますが、 事典として使うには挙げられた地名が少ないし、少々ツッコミも浅いと感じました。 ただ、第4章の「いつの間にか消え失せた「幻の島々の正体」」には「瓜生島」や「鴨島」「中ノ鳥島」といった、 かなり日本ローカルな島々が上げられていて、そういうところは細かいなあ、と少し感心しました。 伝説の土地についてよりも、むしろこういったところのほうが面白かったので、 こちらで1冊にすれば…とも思いましたが、一般的なセールス考えると、1章や2章のあたりの地名を挙げないとだめなんでしょう、きっと。

 1980年代に一世を風靡したバイク、「KATANA」こと「SUZUKI GSX1100S」と「Ninja」こと「Kawasaki GPz900R」について、 老舗のバイク雑誌の一つである「ライダースクラブ」に掲載された記事+αをまとめた本です。 両方とも80年代には衝撃的なデビューを果たしたものですが、KATANAはほんの数年前に生産中止となり、 Ninja…この名称自体は別のマシンに引き継がれていますがここではGPz900R…は今年で最終型ということで、 来年には新車で手に入れることができなくなるということでそういう意味で「伝説」ということでしょうか。 「伝説」を冠してもいいと思うようなバイクはいくつかありますが、この2車というのがなかなかにマニアックで少しうれしくなってしまいました。 ただ、今でもたまに街でみかけますので「伝説」という「過去」の香りがする名を冠するのは少し寂しい気はしました。 掲載されている1980年代の記事のインプレッションはバイクは違えと今もにたようなことを見かけるなあ、とは思いましたが、 1990年代後期に掲載されたものはすでに「あの頃は良かった。今は…」という論調が見え見えです。 確かに1980年代はバイクブームもあり、やたらと熱かった時代ではありまして、現在ではかつてほどの多様性も個性もなくなりつつありますが、 「あの頃は…」というのが主流になるとバイクというものが年寄りの趣味という感じがしてきて、それはそれで寂しいものがあります。 この本をよんでなんとなくそういう感想をもちました。

 阿刀田高のエッセイを集めた単行本の文庫化です。いろいろな題材はありますが、 自作についての解題や他の人の作品についての思いなど、作者についての言及も含めてそういった類の取材が多かったように思います。 内容について驚くような展開などなく…エッセイですし…、文章も展開も安定しているので目新しい感想というのは 出しにくいのですが、安定して読み易いエッセイ集であると思います。

 神田お玉が池の十手持ち、人形のようにいい男の佐七親分が次々に起こる事件を解決する捕物帳シリーズの新装版です。 実際には佐七シリーズは200編ほどもある(解説参照)ので抜粋版となりますが、 佐七の初手柄から始って代表的なエピソードを拾っている、という作品集のようになっています。 横溝正史といえば、金田一ものをはじめとしてどろどろした長編推理ものというイメージが強いのですが、人形佐七ものは 短編でもあることから捕物帳のフォーマットを守ったものになっており、 謎解きよりストーリーの面白さを重視しているような感じを受けました。 岡田綺堂の半七もののような「江戸情緒」を感じるようなところは多くはないですが、 すっきりして時代劇のベースとしてはいい感じではないかな、と思いました…が既にいろいろな形で映像化されてますね、このシリーズ。