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「夢の海に魂の帆をかけて」 境真世
ユイを主人公にした謎解き小説。
ユイを中心に据えた評論が常にそうであるように、オカルト且つマザコンな内容だ。アダムは先住民族の巨人族、サードインパクトは予測された人類の滅亡を救うための究極の手段といった公式どうりの謎解きのため、あまり見るところが無い。映画の補完シーンの禅問答は書いてないのだが、まあ訳のわからん会話だったからね。無視して当然か。
「不機嫌なエヴァ」 伊藤麻紀
アスカを主人公にしたアフターエヴァ小説。3編の中では1番の傑作。
サードインパクトより2年後。人類は破滅したがまだ死に絶えてはいなかったのだ。北斗の拳な世界で互いに拒絶しながらも共に暮らしているシンジとアスカ。自衛隊上がりの暴漢にさらわれてしまうも、おなかの子のために男の妾となるのだった。この後、臨月近くになっても犯され続けるアスカが書かれていくが、北斗の拳と違ってたすけなど来はしないのだ。そしてついに出産するも、子供は結局死んでしまい、怒り狂ったアスカは男を殺すのだった。
子供のため、したたかに生きるアスカがかっこいいですな。女が奪われても何もできないシンジはほんと映画どうり。
「終わる世界の物語」 波多澄子
いわゆる学園もの。
自閉症のシンジは心理療法を受けることになるのだが、バーチャルリアリティシミュレーションでエヴァ世界を疑似体験するのだった。エヴァ世界がシンジのつくった願望の世界だということで、エヴァに心理学をもとめたもののための小説だろう。アスカが転落したのも、綾波が死んだのも、カヲルを殺したのもすべてシンジの願望よ。オチとして、シミュレーション世界の人物だと思われていたアスカが、実在して共に心理療法を受けていたことが明らかになり、シンジの学校に転校してくるといったハッピーエンドがついている。
この綾波なんて出やしない3編を読めば、結局映画でシンジとアスカが主人公になったことがよくわかりますよ。エースのまんがのほうも、ちゃんと二人を主人公にしてほしいですな。
発情期ブルマ検査 松平龍樹 マドンナ社
ご存じと学会で紹介されていたエロ小説。エヴァの批評が書いてあったり、コミケでカメラ小僧に集団レイプされそうになったりと、やたらオタク描写ばかりの小説だ。この作者って前作でもまんまセーラームーンなエロ小説書いてたけど、ほんと確信犯だなあ。
クライマックスは小学生二人がシンジと綾波のコスプレでSEXだ。トンデモ本の世界では設定があれすぎてオカズにならないとか書いてあったけど、まあ大丈夫でしょう。小学生どうしのSEXなんてロリコン小説でもめったにないからね。ふつうは作者の分身であるおっさんとロリータ少女のSEXが書かれます。子供たちの清らかなまぐわいなんかずず汚れた小説家には書けやしませんな。綾波じゃなくてアスカのコスプレならもっとよかったんですが。
松平龍樹はこのあとごくふつうの官能小説ばかり書くようになって、キワモノ好きにはちと残念ですな。やはり夏エヴァ観てオタクと決別したのか。オタク向けでもガキっぽいナポレオン文庫じゃダメだという読者のためにも、もっと書いてほしいんですがねえ。
大盗禅師 司馬遼太郎
司馬遼太郎は主に戦国幕末を扱ってるんだが、これはめずらしく由井正雪を書いてます。張孔堂由井正雪が徳川幕府に対して叛乱をたくらみ、倭寇のボス鄭成功と組もうとします。ここから物語は鄭成功と清朝との対決に移り、1冊で正雪ものと鄭成功ものが楽しめてお得なはなしですよ。なぜか未だ文庫化されてませんが、推理するに誰かの代筆でも入ってるからじゃないですかね。なんか露骨に文章違うところがあるしねえ。
司馬のほかの作品と比べるとあまり面白くないとは思いますが、俺が読んだのはちょうどオウムのサリン事件が起こったころで、重ねて読むと興味深かったですよ。配下の過激分子に押し切られるかたちで叛乱に踏み切ることになる正雪は麻原そのものでしょう。鄭成功と提携するあたりはオウムがロシアに進出したのを彷彿させます。正雪は結局江戸市内での一斉蜂起の直前で当局にばれてしまい、配下と共に切腹して果てるのですが、このへんはオウムとは違いますな。麻原なんか結局死刑にはならないでしょうなあ。マンソンみたく獄中で教祖続けるんじゃないの。
殺人迷路・悪霊物語 江戸川乱歩他 春陽文庫
春陽文庫の合作探偵小説シリーズだが、殺人迷路のほうは昭和7年作。森下雨村、大下宇陀児、横溝正史、水谷準、江戸川乱歩、橋本五郎、夢野久作、浜尾四郎、佐左木俊郎、甲賀三郎が執筆者だ。ここまで揃えてその出来はというと・・・推理小説をリレー形式で書こうとしても、行き当たりばったりじゃ面白くなるわけないよねえ。ただ悪霊物語のほうは凄いよ。昭和29年作で乱歩、角田喜久雄、そして山田風太郎が書いているんだけど、やはり山田風太郎は天才ですわ。今まで作品にホームズだのルパンだの出してきた風太郎先生ですが、今回は明智小五郎を出してサービスサービス。リレー小説のトリとして見事に決着着けてどんでんがえししてくれます。犯人の名を書くのは慎みますが、「伊賀の散歩者」なんてのも書いてる風太郎先生。乱歩にも遠慮会釈無しですな。
黄土の群星 陳舜臣・選 光文社文庫
中国歴史小説のオムニバス短編集。宮城谷昌光、中島敦、田中芳樹、井上裕美子などの小説を集めてますが、俺的に面白かったのは司馬遼太郎「戈壁の匈奴」ですな。これたしか処女作「ペルシャの幻術師」の次に書いたもので、ジンギス汗が主役です。ジンギス汗の世界征服の野望の動機が世界の女を手に入れるためだという、光栄「蒼き狼と白き牝鹿」の元ネタみたいな内容ですよ。だいたい司馬遼の戦国ものと幕末ものではちょっと作風が変わってまして、戦国ものでは片々たる社会正義などお構いなしに自分の欲望のおもむくまま他国を侵略しまくる戦国の英雄どもを書いていますね。このジンギス汗もその系列であふれんばかりの征服欲でユーラシア大陸をあらしまくり。こんなジンギス汗じゃ卑小すぎると書いてた人もいましたが、これがいいんじゃないですか。英雄ならこうでなくちゃねぇ。くっだらない倫理なんかにかまっているようじゃ英雄とは呼べないんですよ。最近の若い書き手はそのへんわかってないんじゃないですかねぇ。
それにしても初期の作品なのに司馬遼節が完成してるのはいいですなぁ。
青銅の什器、象眼の剣、朱塗りの椅子、螺鈿の寝台、彼等はそのいずれを作る才能もなく、また資源もなかった。それに、絹を纏ったたおやかな女。これらの物資のどの一つを掴みとるにも、匈奴、烏孫、女真、鮮卑とよばれた沙漠民は一族の生死を賭けたのである。この欲望は今日の常識の及ぶところではない。
物に飢え、性に飢えた人種が、馬に騎っている。
その馬は、大宛馬にくらべ、体躯こそ奇妙に矮小であったが、沙漠の瘴癘に堪えて千里を走るといわれた。地球の如何なる場所であっても、そこに物があり、女さえあれば、この男たちの集団は走った。この集団の頭目になる資格は、これまたたった一つしかない。性欲と好戦欲と略奪欲の人一倍激しい男、こういう男にのみ安心感が置ける。この男の欲する方向が、民族の欲する方向であるからだ。それに勇気と狡智さえあれば、たとえそれがテムジンのような、父を他民族に謀殺された一介の孤児であっても、男たちは血ぶるいしつつ従った。