■ 近所の商店 ■  
 

『S家の食卓』にたまに登場する近所の商店の話だ。

日曜・祭日が休みで午後の7時には閉まってしまう昔ながらのその商店に置いてあるのは、野菜、果物、魚、乾物、お菓子、花、自家製のお総菜などである。
広くはない店なので、大型スーパーのようになんでもある品揃えということはなく、夕方遅くに行くと、目当てのものが売り切れていることもある。
食の傾向が多様になってしまった今では、この店には置いていないものを買いに大型スーパーへ行かなければならない日もあるが、自転車を漕いで行ける距離なので、よく行っている。

その店にある野菜や果物や魚は、いきいきと輝いて見える。実際に食べてみると大型スーパーのものよりも強い旨みのあるおいしさで、日持ちもするのだ。新鮮なのである。 このあたりの大型スーパーには置いていないような、馬刺やあん肝や白子を置いていることもあり驚く。

お店の人が市場で“新鮮でいいものを”とその日の野菜や魚と相談して仕入れている光景が目に浮かぶ。 その店に並んでいる商品と対面していると、季節や天候とも対面しているように感じるのだ。
その日その日に並んでいる商品を見ていると、わくわくして胸が高鳴る。そして、あらかじめ頭に描いていた献立の計画を急きょ変更することがよくある。それだけ魅力ある商品があるということだ。

いつでも(このあたりのスーパーは24時間営業だ)なんでも揃うという、大型スーパーのような便利さはここにはない。 でも、今日はこんなものがある! という、わくわくした気持ちを呼び起こしたり、予定していた献立を変更させてしまう力がある。
いい仕事をしている”とはこの店のようなことをいうのかもしれない。嬉しい気持ちに満たされて、自転車を漕いで帰ってくるのだ。

 
【2003/04/9】