2007/8月
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今年は7月ギリギリにようやく梅雨が明け、8月に入ってからは猛烈な暑さが続いている。
体温に迫る勢いの気温と痛いほどの日射しに、呆れるような笑ってしまうような毎日である。

 
 
   

 
暑い季節は大好きだし、気温が高ければ油絵の具の乾きも早くなるので、ありがたいのだが、あまりの暑さに力が出ず、制作ははかどらない。

脱水症状になってしまった去年の教訓をふまえ、お茶でなく水を(内臓を冷やさないようになるべく常温で)たくさん飲むようにしている。
しかし、 お盆の頃から、頭痛と筋肉痛が治まらない。気温に負けじと私の体温も37℃を超えている。冬の冷え込みも厳しいが、夏の暑さもただごとではない群馬の平野。ヘロヘロである。



 
 
   

我が家とS家とを行き来する道路の脇には、田んぼや茄子の畑やトウモロコシの畑がある。
育ち盛りの夏、見るたびにぐんぐん生長している。ことにトウモロコシは、行きと帰りの数時間で何センチも伸びているのではないかというほど、生長が早い。
向こうに見える 山が隠れてしまうほど空に向かって伸びている。

 
 

いつもなら
この向こうには
赤城山が見えるのだが

 
 
    S家の裏の竹やぶの庭園化は、かなり大がかりなことになっている。土を掘り起こし、新たに土を盛り、たくさんの石を組んでいる。大きな石がゴロゴロとあり、そこに夏の強い日射しが当たっていると、まるで川の上流にいるようだ。この先は、樹木を植えてゆくそうな。
職人さんは連日この猛暑の中で、顔を真っ赤にして働いている。母は畑に野菜を採りに行き、父は職人さん用に毎回刺身やステーキ肉を買ってきてくれる。私は昼食作りにあたふたしないように前日の夜に野菜の煮物などの一品を仕込んでおき、当日は夫とともに配膳をする日々だ。

●和風ポテトサラダ
●焼き茄子とオクラの酢醤油びたし
●ミニトマトの酢漬け
●厚揚といんげん豆の煮もの
●ゆでキャベツの梅肉和え
●新たまねぎとわかめの酢のもの
●朝日新聞の茄子の炒め煮

などなど。

 
 
8月19日    

車を走らせ2時間弱、夫と草津までやってきた。
草津に着くと肌寒いほどの涼しさに驚いた。同じ群馬県だというのに、こんなにも違うのか。空気が軽く、快適である。
「寅さんが泊まるような宿にしよう」という方針で我々が予約した、なんてことない旅館。廊下には赤いカーペットが敷いてあり、洗面所もトイレも共同である。簡素であるが清潔である。部屋には爽やかな風が吹き、窓の向こうには山が見える。

一息入れて、宿の温泉に入る。濃ーい草津の湯に浸かっていると、忙しかったお盆の疲れが溶け出してゆくようだ。気分はスッキリ。お肌もツルツルだ。

風呂から上がり、夕方の風に吹かれながらビールを飲んでまどろんでいると、窓の外からチャリチャリチャリッとたくさんの雪駄の音が。しかもかなり重そうな音である。

「おおっ、これは!」と、窓辺へ走り、下を見ると、すぐ真下にある道路を“浴衣姿のもののふ達”が列を成して歩いておられるではないか!
おぉぉぉぉー、圧巻な光景である。十両、幕内の力士達が、大関が、そしてなんと横綱までも! 真下を歩いているではないか。
美しい。この世のものではないようだ。まるで神様たちの行列のようだ。ありがたい光景だ。
こんなものを高い場所から見下ろしていいものだろうかと思うほどであったので、写真を撮ることもできなかった。

そんなものを見てしまったので、その後の夕食は、何をどう食べたか覚えていない。食べたものがどこに入ったのかもわからない。

 
 
    

夜になり、草津温泉の中心街・湯畑周辺を夫と散策する。温泉街なので浴衣姿がたくさん歩いているが、いやいやそうじゃない、特別な浴衣姿にもお目にかかる。新進若手力士、目にも留まらぬ速さで逃げるように歩く人気力士、付人を引き連れ闊歩する大関、土産物を探している元大関、一人ベンチに座っている元大関 …、
観光客の浴衣姿、髷を結っている浴衣姿、それらがゆらゆら漂っている。湯畑のイオウ臭と鬢付け油の香りも漂っている、幻想的な夜であった。

明日は大相撲・草津巡業なのである。

   
 
8月20日   巡業は朝8時から始まる。
8時過ぎに会場に着くと、朝稽古が始まっている。

我々の席[タマリ・正面・1列]を探す。土俵から1メートルと離れていないではないか。緊張する。ちょうどその場所に稽古中の力士のタオルが置かれてあり、席をふさいでいた。どうしたらいいものかと思っていると、栃の洋関が「席、ここですか?」タオルをどけてくれた。

土俵上で力士同士がぶつかる音が間近に聞こえてくる。50センチほど目の前では、幕内力士がこちらに尻を向けて四股を踏んでいる。なんとも贅沢な光景で、目がくらむ。
   
 
        これだけたくさんの力士がすぐ目の前で稽古をしている光景を見られるのは夢のようだ。
ぶつかり稽古の「ぐわしっ!」という大きな音は圧巻である。役力士も大関も横綱もすぐそばで土俵に向かって立っている。談笑しているのもいる。猛烈な稽古で砂まみれになった力士が払う砂が我々の膝の上へバシバシ飛んでくる。
 
 
    体育館の外へ出れば、関取衆が芝生の上でゴロゴロしていたり、まわしが地べたに干してあったり …、その向こうに草津の山が見える。空が見える。夏の風が吹く。
「あぁ、昔っからこうやってお相撲さんたちは各地を回ってくれているんだなぁ」と、古い昔からつながっている流れのようなものを感じ、しみじみとする。
巡業は神様であり見せ物である彼らがざっくばらんにこっちに降りてきてくれる、そんな感じがあるのだな。国技館とはまた違う味わいだ。なるほど「本場所と巡業は二本柱だ」と言われているのがよくわかった。
   
 
        お昼頃から初切(力士によるコントのようなもの)、相撲甚句(力士による唄)、呼出さんによる櫓太鼓打ち、横綱の綱締め実演など、巡業ならではの催しが続く。
そして、土俵入り、取組。

どれも緊張感のある本場所とは違った、なごやかな親しみある味わいである。
相撲甚句を聴いていると、さっき見た山と空が見えてくるようだ。中央と田舎、過去と現在がつながるような広がりを想った。
 
 
      午後3時には打出し(終了)
関取衆が数台の大型バスに乗り込み、お江戸へ向けて帰ってしまうと、熱気が静まり、山からの涼しい風がさぁーっと吹き渡る。
あぁ終わったんだなぁ … と寂しくしみじみし、それがまたいい風情である。
 
 
      本場所とは違うほのぼのとした味わい、田舎の観光地にお相撲さんがやって来るという光景、まるで夢でも見ていたかのような、楽しい草津夏巡業でありました。 バスに乗らない
大関と横綱と

 
 
8月29日   錦糸町『河内音頭大盆踊り』へ出かける。
駅前のレコード屋で相撲浪曲のCDを見つけ、幸先よい気分で会場へ向かって歩くその道すがら、旨そうな餃子屋を見つける。入る。ここの餃子は軽やかな餃子で、食べれば食べるほど胃がスッキリしてゆくような気がする。結局、おかわりして餃子2皿にビールに紹興酒。
「さて!」と再び会場へ向かい歩いていると、これまたよい風情の居酒屋が。おりしも知人ご夫婦がこの店で飲んでいる。もちろんご一緒し、焼酎に鰻の串焼きなどをつまむ。古そうで手入れの行き届いた実によい店で、いろいろ注文して飲んでみたい気もしたが、おっといけない、河内音頭が待っている。
さて、いよいよ会場へ。
 
 

 

 

    錦糸町の『河内音頭大盆踊り』へ出かけるのは去年に続き2回目だ。
このたくさんの真っ赤な櫓提灯が並ぶ “覚えめでたい” 光景が、今年もまた私を痺れさせる。
 
 
    ステージ前に新聞紙を敷き並べ、コンビニで仕入れた焼酎と氷と水とチーカマで乾杯。
そのうちに、河内音頭好きの友人知人やそのまた友人知人が次々と集まる。酒を愉しみつつ演奏に夢中になる者もいれば、シャツも髪も汗ビッショリにして音頭を踊り続ける者もいる。それぞれが買ってくる屋台の食べ物もなかなかの味わいだ。

たくさんの真っ赤な光の眩しさ。歌に語りにエレキギター、三味線、太鼓の音の絡みあう、気持ちよいグルーヴ。音頭取りさんをうちわで扇ぐ女衆も目にまばゆく、“めでたいづくし”の場である。

耳に栄養、目に滋養。

河内音頭に触れると、私はなぜだか創作意欲がぐんと湧くのだ。ありがたい。

 

鉄砲光丸・声に姿に華がある