つい最近、生活環境が変わった。
賑やかな都会から一転、関東平野のはじまるあたりで暮らしている。まず、風景に目を奪われる。だだっ広く、素朴で素っ気ない風景だ。東京とはスケールがまるで違う。小さなものに気をとられる暇を与えないほどの迫力で迫ってくる。
 そんな環境にいるせいだろうか、人間の作ったまっすぐであろうとする線に目を惹かれてしまう。道路、畑の作物の列、電信柱、電線、屋根、家や小屋の柱、すだれ… 東京では気にもとめなかったものだ。
 そこかしこで目にする植物や畑の作物の成長の早さにも驚く。春、畑に生えていた作物。ニラの大群か?と思っていると、数日のうちに伸びたそれを見て、麦だということが判った。目にするたびに背が伸びてゆく。そしてほんの僅かで黄金色に変わり、刈り取られていった。
 その麦から出来る粉でうどんを作る。ここ上州では日常的に自宅でうどんを打って食べるのだ。小麦粉に水を加え、手でひたすらこねる。粘土遊びを思い出す作業だ。そして、手動のめん機で切られて出てくるのは、まっすぐな線のうどんだ。
 また、目を惹くようなまっすぐな線が現れるのだった。
 
 
(立石有美)
[展覧会DMより引用]