極軸精度改善後に得られたイメージ(2005.3.26)

前回、赤道義モードによる最初のイメージでは、Fig. 1のように星像の流れが著しくて、かなり見苦しくなってしまいました。このときは、One star alignmentを1度行ったのみで、特別な極軸修正は行っていません。目盛環のみを頼りに行った原点出しでは、指示角度の真値とのズレが極軸精度を制限します。

Fig.1 M51(NGC5194)/NGC5195

・露光 2分

そこで、極軸ずれを改善するための対策を試してみることにしました。「polar alignment lx200」などのキーワードで検索を掛けてみると、多くの方が、極軸の補正方法を紹介しています。メジャーなものは以下の2つほどのようです。

@ドリフト法

Aインタラクティブ法

英文マニュアルには@の方法のみの記載がありますが、以下のサイトに両方の詳細な解説があります。ドリフト法についても、オリジナルの工夫がありますし、その他多くの情報が掲載されているため、一度眼を通すに値する素晴らしいサイトです。

・AstroCruise(http://www.astrocruise.com/index.htm

また、以下のサイトでは日本語によるわかりやすい解説があります。

・電子工作のメモ帳(楠昌浩氏 http://www.mkusunoki.net/z-gypsy/

   LX200 極軸合わせ(http://www.mkusunoki.net/z-gypsy/astro/polar_align_html

 

 

@の方法を採用している方が多いようですが、像の倒立の問題や天頂ミラーを使った場合など、上下左右方向の把握が少々めんどくさそうです。そこで、今回はAのインタラクティブ法を試してみました。

 

インタラクティブ法では、以下のプロセスを繰り返して極軸を合わせていきます。

 

1.マウントの水平出しと通常のOne start alignmentを終えておきます。つまり、目盛環による原点出し、GPSによる観測サイト・時間設定、Polarisの導入、南中付近の恒星によるコーディネートのシンクロの一連の作業です。

 

2.GOTO機能を使って、鏡筒をPolarisに向けます。大抵は狂っているので、赤道義ウェッジの方位と仰角の調整ノブを使って、ずれている量の半分だけ視野中心方向にPolarisを移動(アローキーは使用しない)

 

3.GOTO機能を使って、One start alignmentで使った基準星を再び導入。アローキーを使用して視野中央に基準星を移動し、コーディネートのシンクロを行う。

 

2、3のプロセスを数回繰り返し行う。

 

3〜4回ほど行うと、アローキーや方位の部の調整なしに、おおよそ視野の中央に基準星とPolarisの両方を捉えることができるようになります。

 

この方法の精度に関しては、Polarisと基準星を行き来するときのマウント部の狂いが制限要因になりそうです。ところでf/6.3レデューサ併用の直焦点の画角は、赤緯で26'30"、赤経の時角で2m40sくらいの範囲ですが、以前調べた鏡筒の向きを大きく振った場合の極軸の狂いは角度にして1'程度であることが分かっているので、数分程度の短時間露光であれば、極軸ズレによる視野回転は十分小さいレベルに抑えれると思います。

 

 

今回、上述のような極軸補正に加えて以下を行っています。

 

BRA-PEC(赤経軸のペリオディックエラー補正)

 

C直進ヘリコイドの挿入によるピント対策

 

Dフラットフィールド撮影のための拡散フィルタの使用

 

 

Bのためには、今回新規に購入したMeadeのPL9mmレチクルアイピースを用いて、マニュアル通りにPECを行っておきます。

Cについては、トミーテック製の直進ヘリコイドを今回Fig.2のようにf/6.3レデューサの前に挿入しました。

 

Fig.2 直進ヘリコイドの挿入

 

  2"スリーブ→2"オスネジアダプタ(LX200付属品)

⇒ シュミカセ→M57/60AD【7424】 ⇒ M57ヘリコイドDX【7758】 ⇒ M57→2インチオスAD【7502】(以上、BORG)

⇒ f/6.3レデューサ オフアキシスガイダ (以上、Meade)

⇒ Vixen キヤノンEOS用Tリング ⇒ Canon 20D

 

直進ヘリコイドで光路長を500μずつ刻みながら撮影した、Vegaの星像とM13のイメージを対応させながらFig.3に示します。

マイクロフォーカサに比較して微調整の精度は劣るものの、目盛環の数値で明確に位置決めできることはとても大きなメリットです。

 

Fig.3 直進ヘリコイドによるピント出し

合焦-1000μm 合焦-500μm 合焦

 

以下では、RA−PEC、インタラクティブ法による極軸補正を行ったあとの撮影結果を示します。このときは生憎満月でしたので、暗い星雲を撮影対象に選ぶとこは出来ませんでしたが、全天でも最も明るい球状星団の一つであるM13が丁度南中に近いところにいたので、これを用いました。今回は極軸補正とPECの効果のみを調べるのが目的なので、全て赤経1軸追尾のみによるノータッチガイドとしました。

共通データ

・Meade LX200GPS-25 + f/6.3レデューサ

・Canon EOS20D ホワイトバランス 太陽光, ISO800, 長時間露光ノイズ低減モード

・観測地 千葉県市原市の住宅地

・コンディション 周囲に水銀灯,月齢15満月、風邪は弱い

・ガイド LX200赤道儀モードによるノータッチ1軸追尾 

 

A.30秒露光と3分露光によるM13の比較

PECや極軸の特別な補正を行わない場合、30秒露光においても星像の流れが生ずることがありましたが、これらの対策を行ったのちに得られた今回のイメージは追尾エラーが劇的に改善されています。まじめにやればちゃんと報われるものですね。しかしながら、3分露光の画像では、若干星像の流れも見られているので、正確な極軸調整を行ったとしても、ノータッチガイドで許容できる露光時間は3分が限度であると思われます。

Fig.4 30秒露光(左)と3分露光(右)によるM13の比較

ここまでの対策で露光時間をこれまでの30秒から、6倍の3分に引き上げることができました。今後の目標は10分程度に引き上げることですが、極軸精度の向上を行っても限度がありそうです。ここからは既に入手済みのオフアキシスガイダを用いたガイド撮影の検討に進みたいと思います。

B.拡散フィルタを用いたフラットフィールドの撮影

拡散フィルターには、近所のケイヨーD2で入手した半透明のビニールシートを用いました。これにより得られたフラットフィールドイメージをFig.5(右)に示します。といっても撮影時にこのシートを補正板の上にひょいと乗っけるだけです。今回は30秒露光のイメージ1枚のみを用意しました。

Fig.5 簡易的な拡散フィルタ(左)を用いて撮影されたフラットフィールド(右)

 

今回得られたフラットフィールドに適当に倍率をかけて減算処理を行うのですが、妙なことに気が付きました。どうしても、バックグラウンドに青い背景色が残ってしまいます。そこで、撮影されたM13とフラットフィールドイメージをそれぞれRBG分解して強度プロファイルを比較してみました。フラットフィールドでは相対的に青成分が弱くなっています(Fig.6)。これは、M13のイメージの背景光は満月による太陽光が支配的なのに対して、フラットフィールドでは拡散フィルタの乱反射により周囲の外灯の光を多く拾ってしまい、緑成分と赤成分が強くでているのが原因のようです。

Fig.6 M13イメージ(上)およびフラットフィールドイメージ(下)のRGBプロファイル(横方向)

    (ステライメージ4試用版による)

今回については、双方のイメージのカラーバランスを一度背景でとって(背景のRGB強度比を等しくする)、これらのイメージで減算処理をお子います。そして、処理後にカラーバランスを戻すという苦肉の策をとりました。拡散板を使用したフラットフィールドの撮影では、光害光の回り込みに注意しなければならないことが分かりました。

 

C.短時間露光とスタック処理によるイメージ、および、長時間露光によるイメージの比較

今回の撮影では30秒の比較的短時間露光のイメージを6枚=総露出時間3分と3分露光による1枚のイメージの夫々について、フラットフィールド減算による最終的なイメージを得ています。総露光時間は同じですが、どの程度、イメージに差が見られるか興味深いところです。

 

30秒の短時間露光の場合は、複数のイメージをスタックしてS/N比が上がります。Fig.7にスタック前後のイメージを比較して示します。ノイズの状況が比較しやすいようにレベル補正を行っています。スタックはRegiStax3で行いましたが、6枚でもそこそこ改善していることが分かります。

 

Fig.7 30秒露光1枚(左)と6枚スタック(右)によるM13の比較

 

 

Fig.8に30秒×6枚スタックと3分1枚の画像に対し、それぞれフラットフィールド減算後のイメージを示します。減算時の倍率や足切りの仕方で、若干イメージの印象が異なっていますが、ノイズの見え方は、長時間露光の方が良いようです。ただし、追尾エラーが目立つようになるので、一長一短です。

 

Fig.8 30秒×6枚スタック(左)と3分1枚(右)から得られたM13のイメージ

  

短時間露光のスタックより、長時間露光の方がノイズ的に有利なことが分かったため、今後は10分程度の長時間露光が可能となるようなガイド撮影にトライしてみようと思います。

 


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