アイピース (2006.7.16)

LX200に付属のアイピースは、焦点距離26mmのプローセルオルソタイプでした。アイレリーフ17mm、見かけ視界52°がメーカ公称値で、見口のラバーが目の位置を程よく決めてくれるので覗きやすいものです。2群4枚の比較的シンプルな構成のお陰で、コントラストも良く、眼視で重要な中心像のシャープネスは実用上十分です。10インチ(D=245mm)F10のシュミットカセグレンの焦点距離fl=2540mmでは、約100倍の倍率と瞳径2.5mmが得られ、自動導入の容易さと見易さが両立されています。

焦点距離fl、 対物有効径D、 倍率m、 射出瞳径Pe 

m=fl/D  (1)

Pe=D/m (2)

実際、多くの明るい深宇宙天体が、このアイピースの好適な対象となりましたし、また、NDフィルタと併用して適当に減光すれば月面の詳細を楽に観察することができました。このアイピースを用いてLX200の自動導入を行ったとき、視野の中に入らないことは稀でしたので、それほどストレスを感ることもありませんでした。

しかし、惑星観望では明らかに倍率不足です。木星や土星は100倍では表面の詳細を捉えることが出来きず、また明るすぎるため白く飛んでしまいます。望遠鏡店に出かけて、スタッフに所有している機材と惑星観望を目的としたアイピースを探しているということを伝えると、300倍程度のやや抑え目の倍率が得られるものを薦められました。10インチという比較的大きな口径を考慮すると、像が破綻しない倍率は単純に口径×2.5で決まるわけではなく、シーイングがより支配的になることが多いというのが、この倍率を薦める大きな理由のようです。もしアイピースを2本買えるなら5mmと10mmをシーイングによって使い分けるのが良いのですが、1本に絞ると10mmくらいがよいということに落ち着きました。10mm前後の焦点距離と一口にいっても色々な選択肢がありましたが、テレビュー製品を買うような余裕がなかったため、ビクセンのLV9mmを購入することにしました。アイレリーフは20mm、見かけ視野50°のもので、短焦点でも覗きやすい長いアイレリーフが特徴のアイピースです。

LX200で観望をはじめて間もない2004年の12月に、初めてLV9mmを用いて土星を見ました。冬空は一般的にシーイングが不安定ですが、この日の大気はとても安定していたようです。息を呑むような美しい土星を見ることができました。安価なアイピースとしては十分な性能を持っているようことがわかりました。ビクセンのホームページでは、より広見かけ視野のLVWアイピースのレンズ構成が公開されていますが、LVのレンズ構成についての情報はありません。そこで、分解してみました。

 

LV9mmアイピースは、31.7mmバレルの部分を簡単に取り外すことが出来ます。バレルの中には逆望遠光学系(バローレンズ)が組み込まれているようです。残念ながら見口側のレンズ群は固定リングがスクリュロック材で固めてあり、カニ目ドライバーが壊れそうになったので、分解はあきらめました。でも、見かけ視野50°、比較的長いアイレリーフから、2群4枚のプローセルタイプになっていると推測します。プロ−セルタイプのアイレリーフは0.75fくらいでしょうから、例えば焦点距離27mmのプローセルと0.33くらいの倍率の逆望遠系を組み合わせると、9mmの焦点距離と20mmのアイレリーフが得られます(実際、バレルを外して観察するとSP26mmと同程度の実視界がえられるようです)。プロ−セルが持つ諸収差も負の収差を持つ逆望遠系により修正されることと、ランタン系ガラス材料を用いて色消しも良好なため、良像が得られるのだと思われます。しかし、この構成では、バローレンズの追加で合成焦点を稼ぐのには注意が必要かもしれません。アイピースの中で良好に補正された収差が、悪化してしまう可能性があるからです。LVを幾つかの倍率で使用する場合は、バローとの併用は避けて、焦点距離が異なるLVアイピースを別々に用意したほうが良いかもしれません。

 

(2006/7/25 update)

暫くは、SP26mmとLV9mmの2本で頑張ってきましたが、眼視での観望が面白くなってくるに従い、アイピースは望遠鏡と同じくらい重要であることを実感するようになりました。定例観望会に参加させて頂いているローカルの天文同好会には、近代的な設計の品質の良いアイピースを所有しているメンバがいますが、それらを借用して観望する機会が過去に幾度かありました。超広視野・長焦点のナグラ−アイピースで覗く白鳥座の超新星残骸は壮観でしたし、短焦点アイピースとして評価の高いラジアンでみる惑星はハイコントラストでシャープな見栄味が印象に残りました。アイピースに思い切って投資することは、それに見合う十分な効果がありそうです。

せっかく背伸びをして良いアイピースを入手しようとしているわけですから、まずは、どのような観点でどのようなアイピースを選ぶべきか、少しだけ慎重に考えてみることにしました。考え方をまとめる上では、テレビューサイトのアル・ナグラ−による望遠鏡講座(http://www.tvj.co.jp/index.html)、Cloudy Nights Telescope Reviews (http://www.cloudynights.com/)の観望ガイド、そして、何よりも眼視観望をこよなく愛する天文同好会のメンバの助言がとても役立ちました。

観察対象 考慮すべきポイント

スペック

・散光星雲

・散開星団

・彗星

・広い実視界(長焦点)

・広い見かけ視界

・有効最低倍率

・実視界 1.1°(満月の2倍)

・焦点距離 40mm

・見かけ視界 70°

・瞳径 4mm

・倍率 64

・系外銀河

・惑星状星雲

・球状星団

・系外銀河観望に適した瞳径 2mm

・系外銀河観望に適した倍率100−150倍

・実視界 0.54°(満月と同じくらい)

・焦点距離 20mm

・見かけ視界 70°

・瞳径 2mm

・倍率 127

・惑星

・系外銀河

・惑星状星雲

・球状星団

・より暗い系外銀河の観望に適した瞳径1mm

・光度が集中した惑星状星雲や球状星団のクローズアップ

・惑星の観望に適した高倍率 200倍以上

・実視界 0.27°

・焦点距離 10mm

・見かけ視界 70°

・瞳径 1mm

・倍率 254

 

@最大の実視界を得られるアイピース

 

広い実視界をカバーする長焦点の広視野アイピースは、散光星雲や散開星団、彗星、白鳥座の超新生残骸などの魅力的な対象を観望する目的、そして、深宇宙天体を視界から探し出すときに役に立ちそうです。

 

LX200の10インチSCTにおいて、実視界を制限するのは、ビジュアルバックの開口径と副鏡遮蔽のどちらかと思います。前者については、2インチアイピースが取り付け可能な直径が確保されていますが、アイピースの取り付けバレルの内径の最大は約47mmです。この内径から得られる最大実視界はSCTの焦点距離f=2540mmを考慮して、アルの望遠鏡講座に示されている以下の実用公式に代入すると、1.08°が得られます。

 

実視界 = (アイピース視野環の直径 ÷ 望遠鏡の焦点距離) × 57.3 (3)

 

たとえば、70°の実視界のアイピースでは65倍に対応し、この倍率を得るためのアイピースの焦点距離は約40mmです。

 

一方、射出瞳径が観察者の瞳孔径を上回ると、視野の中で副鏡の影が視界を邪魔し始めますので(屈折鏡筒など、副鏡遮蔽の無い望遠鏡では、この制限はない)、これがまた別の制限要因になります。暗い対象を見る場合の瞳孔径は7.2mm(吉田正太郎著 屈折望遠鏡光学入門による)といわれているので、同瞳径が得られるアイピースの焦点距離は、LX200の10インチSCTのF=10を考慮すると、下式から72mmが得られます。従って、実質的なアイピースの最長焦点、あるいは最大実視界は、副鏡遮蔽よりもビジュアルバックの開口径に制限されていることが分かりました。

 

アイピースf.max=7.2mm×望遠鏡F (4)

 

余談ですが、月などの明るい対象を見る場合、瞳孔径は収縮するのでアイピースの最大fが制限されます。実際、D=250mm、f=3000mmのミューロン鏡筒(副鏡遮蔽率30%、F12、ドールカーカム)とSP50mmアイピースで満月を見たことがありますが、瞳孔径の縮小により視界が副鏡の影で遮られ非常に不自然な見え方をします(7.2mmの瞳孔径の仮定では、86mm・35倍が許容されますが、こちらも寧ろ開口径に制限されそうです。)

 

何れにしても70°のみかけ視界のアイピースでは40mmが上限となりますので、最長焦点のねらい目は40mmとしました。

 

A系外銀河を始めとした深宇宙天体の観察に適したアイピース


系外銀河を狙うためには、適当な倍率と明るさのバランスが重要です。多くの銀河は倍率として100倍程あった方が良く、また、射出瞳径の推奨値としては、1−2mmが多くの観望ガイドに示されています。実際、このような倍率と瞳径が得られる20mmくらいの焦点のアイピースにおいて、もっとも見やすいことに、私も同意します。

 

焦点距離20mmは、アイピースとしては覗きやすい適当なアイレリーフと広視野を無理なく設計可能な焦点虚距離といえます。この焦点距離で2mmの瞳径が得られる10インチ、F10クラスのSCTは、系外銀河の眼視観望には非常に相性が良いといえるのではないでしょうか。

 

 

B高倍率アイピース

 

系外銀河の観望では瞳径1mm程度とした方が、バックグラウンドが締まって見やすくなる場合があります(このためには、空がそこそこ暗いことも必要条件ではあります。)。また、惑星状星雲は比較的明るく形がはっきりしているため、高倍率での観望に適していますし、シーイングの良いときに高倍率で見る球状星団もうっとりするような素晴らしい眺めです。

 

惑星観望では、250倍程度の倍率で、良好なシーイングのもとであれば、フェスト−ンなどの詳細な構造も確認できます。

 

これら高倍率観望に適した対象を観察するためには10インチF10において、10mmのアイピースがもっともバランスがとれていると思います。さらに短焦点アイピースの入手も検討中ですが、はたして私の酷い飛蚊症でどのくらい見易さが改善されるか良く分かりません。

 

 

 

 

上記、3つ夫々の領域で用いるアイピースとして、PENTAXのXWを選択しました。XWアイピースは広視野と良好な歪補正を実現するために、レンズ枚数がとても多いのですが、洗練されたARコーティングのお陰で高コントラストを同時に実現した、評価の高いアイピースです。

 

XW40mmはとても巨大です。MeadeのSP26mmと並べてみると良く分かりますが、重量も結構あります。XWアイピース共通ですが、アイカップにヘリコイド式の高さ調整機構がありますので、目の位置をアイレリーフに合わせて調整できますので、とても覗きやすいです。

一生もののアイピースを手に入れましたので、これからの観望がとても楽しみです。


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