アンタレス蝕(2005.3.31)

アンタレス蝕を観察しました。アンタレス(さそり座 α-Sco Antares)が月に隠される現象は14年ぶり、1等星の星蝕現象としては5年8ヶ月振りとのことです。

眼視による観察にはLX200−25、また、写真撮影にはBORG 50EDによる直焦点撮影を行いました。なかなか見られない現象ですから、直接肉眼で見ることを重視しました。観察を行ったのは平日で会社の帰りが遅くなり、セッティングに十分な時間をかける余裕がなかったため、今回は経緯台モードによる簡易的なセッティングとしました。Fig.1-Fig.3に観察結果を紹介します。

今回の観察では、以下の点に着目しました。

@星蝕の時間

A伴星の確認

 

観測時の時間校正については、NTTの時報サービスでカメラの時計をあわせる方法を取りました。これによる誤差は±1秒程度です。星蝕のより正確な時間計測に取り組んでいる観測者は、GPSによる観測サイトの緯度・経度情報・時間情報を取得し、ビデオ撮影を用いてフレーム単位の時間判定を行っているようです。

撮影データ

・BORG 50ED(2"-F10アポ屈折)

・CANON EOS20D  1/60s, ISO800, WB:太陽光

 

Fig.1 千葉市原市から観察したアンタレス蝕

 

 

Fig.2 アンタレス潜入(0:29:27〜)

0:28:01 0:28:31 0:29:01 0:29:16

0:29:22

0:29:30

 

Fig.3 アンタレス出現(〜1:41:10)

1:41:07 1:41:13 1:41:20 1:41:35

1:42:43

1:44:43

 

国立天文台などが公表している東京におけるアンタレス蝕の予報によると、潜入・出現時間はそれぞれ、0:29:09、1:40:28、星蝕時間は1:11:19です。一方、わたしが千葉県市原市で観測した結果はそれぞれ、0:29:27、1:41:10、星蝕時間は1:11:43でした。東京中心部と私のいる市原市の某観測場所の経度はそれぞれ、E139°45'15"、E140°9'35"ですから、角度にして24'20"、これを時角にすると、1m27sで、この分だけ、市原市では星蝕が遅れて生じることにないます。緯度の微妙な違いを考えると、この見積もりより更に少しだけ遅れるはずですが、寧ろ早めの時間に掩蔽が観測されたことになります。私の観測した時間の信憑性についてこれ以上の検討はやめますが、要は1'程度の誤差で予報に一致したと考えることにします。

次に伴星についてです。アンタレスの主星は1.1等級の赤色巨星で太陽の230倍の直径と1万倍の光度をもつと推定されています。このため直視径が0.04"程度ととても大きいことが知られています。一方、伴星は5.4等級で主星から2.2"角はなれています。

アンタレス蝕のあったこの日は、潜入時の高度が13°くらい、出現時の高度は22°くらいと、とても低いところにありました。そのため大気による揺らぎが大きく、アンタレスが単体で浮かんでいるときにLX200-25の視野においても、伴星を分解してみることはできませんでした。チャンスがあるとすれば、月の影から丁度出現するタイミングです。この瞬間、月が主星をマスクしてくれるので、伴星を見ることができるかもしれません。アンタレスの伴星は19世紀にこのようにして発見されたという史実があります。

では、どのくらの時間、主星がマスクされた状態で伴星を見ることができるか見積もってみます。月の見かけの大きさは30'角程度で、これが1時間11分アンタレスを目隠ししました。したがって、1"角あたり、2.4秒です。アンタレスと主星との間隔は2.2"直視径を差っぴいて考えても2.18"あるので、ざっくり5秒間も主星が月にマスクされた状態で伴星がみえることになります。

果たして、実際にそんなことは起こったのでしょうか?実際に起こりました。出現の瞬間を見逃すまいとかんばっていましたが、不覚にも瞬きした間に出現していました。ただし、ぽちっとした白い小さな光点が出現して3秒たらずその光度を維持し、そのあとあかるくなりました。単体の星の星蝕であれば、単調に光度が上昇するような振る舞いをするはずですが、光度がいったん維持されたところが強く印象に残りました。残念ながら、その状況を細かく写真に残すことができていません。

しかし、専門家によるビデオ撮影による観察結果では、そのような長時間の光度の維持は確認されていません。以下に熊本県民天文台会員 影山氏による観察結果へのリンクを紹介しますが、伴星と解釈できる光度の維持は0.1秒たらずです。この観察結果はせんだい宇宙館のホームページで紹介されていたものですが、光度の維持について、特に解釈らしきものはつけられていません。むしろ、光度の完全な回復にトータルで0.08秒程度かかっている点を指摘し、これが直視径0.04"と一致しているとしています。

 

・せんだい宇宙館(http://uchukan.satsumasendai.jp/)

 熊本県民天文台会員 影山氏観察結果(http://uchukan.satsumasendai.jp/data/gallery/ex/antaresocc2005.html)

 

国立天文台が雑誌等で一般からの星蝕時間に関するデータ提供を募っていましたが、その結果がホームページで公開されています。データの精度については不明ですが、東京の潜入・出現が00:28:16、01:39:25、同千葉では00:31:40、01:41:15でした、残念ながら天文台としての公式な観測結果は公表されていません。潜入・出現時間の定義についての取り決めも無かったので、観測結果はこのぐらい幅をもつということでしょう。しかし、一般からの声のなかに5秒程度の時間伴星が観測されたという報告もありました。

 

国立天文台(http://www.nao.ac.jp/)

 キャンペーン結果(http://www.nao.ac.jp/pio/20050331antares/result.html)

 

次回、国内で好条件で観測可能な1等星による星蝕は、2013年8月12日のスピカ食(私の星座)だそうです。1等星による蝕は以外と希少な現象なのですね。

 

 

追記(2005.5.16)

 

伴星については、やはり多くの方が5−7秒程度の比較的長い時間の光度維持を確認されているようです。天文ガイド等でも報告がありました。また、沼澤茂美氏が主催されている以下のサイトでムービーを含む画像が紹介されています。

 

・Japan Planetarium Lab.http://www.jplnet.com/

 アンタレス食(http://www.jplnet.com/antares/

 


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