□白布峠にて(2006.5.3)

 

白布峠についたのは5月1日です。以前、大きなドブソニアンで多くの天体を見せていただいたローカルの天文同好会のメンバの方(以後、教授と呼びます)と一緒です。最高のロケーションで最高の星空を見るためにやってきました。

 

平地では晴れていたものの、標高1400mのこの場所では濃霧が立ち込めてとても気温が低いです。結局、1日目は濃霧と雨、2日目は5月にして雪が降り出し、星空どころか、寒さに震えながらの車中泊です。この時期は、夕方道路が凍結してしまうため、午後5時から翌朝の8時まではゲートが閉じられ、峠への出入りが出来なくなってしまいます。夕方、峠に入ってしまうと星が見えないからといって麓に下りていくわけにもいきません。とにかく一瞬でも晴れてくれればと思い、車の中から空を見てはため息をついて寝て、また1時間してからそれを繰り返すという感じで夜を過ごしました。

 

1日目は濃霧、夜には雨2日目もほぼ同じで夜には雪

 

3日目は高気圧の接近でようやく天候回復

 

当初1日か2日くらいの滞在の予定でしたが、最後の望みを掛けて迎えた3日目はやっと晴天に恵まれました。前夜の雪と気温低下で木々は氷結していましたが、明るい日差しで気温がゆるみ出すと、一斉に解け出しました。そよ風を受けて、ぱらぱらと舞い落ちる氷が陽光を受けてダイヤモンドのようです。2日間全く収穫なしで疲れ果てていましたが、幾らか心が癒されました。

高気圧が雲を押しやってくれたので、南側では昨日灰色の中に溶け込むように薄っすらとしかみえなかった山々が今日はとても良く見えます。透明度も比較的よいようです。眼下に見える原湖と小野川湖の湖面が残雪を湛えた山々の中で青く映えます。

 

南側に見える桧原湖・小野川湖と残雪を湛えた山々

 

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日が沈むころには、ほぼ快晴になりました。予定より2日過ぎたため月齢が進んでしまいましたので、空が暗くなるのは夜半過ぎになります。それまでの間、惑星と月を観望することにしました。

 

夕方になると素晴らしい快晴に

 

この日のシーイングはいつになく良好でした。私が持ってきた10インチはともかく、教授の15インチの口径を生かせるような安定な大気の状態に居合わせることはめったに無いことですが、今日は2日間辛抱強く待ったご褒美か全く星が瞬きません。

 

最良のシーイングのもとで15インチから覗く月齢5の月は、まるで月の地表の砂粒1つひとつが見えるかのような、非常にざらついた感じがして鳥肌が立ちました。光と影の陰影の手伝いもあって、クレータの淵に切り立つ壁の微細な構造や中心の突起状の構造など、驚くほどディテールがよく分かります。月は明るいため、小口径の望遠鏡で倍率を比較的高めにしても良く見えますが、そのときのノッペリした印象とは明らかに違います。10インチで初めて月面を見たときにも、異世界の光景に一人歓声を上げたものですが、それを遥かに上回ります。月は口径なりの異なった表情を見せてくれますし、また月齢によって刻々とその表情を変えるため、本当に見飽きることはありません。今日の月面には、教授でさえおおはしゃぎでした。

 

木星は赤道紐と北赤道縞の間に形成されているフェストーンと呼ばれるひげ状の複雑な構造や今まで一つの塊としてしか見えていなかった南北の赤道縞の中にも明部や暗部などのより細かい構造がく見えることが分かりました。実は、このような構造を直接眼視で確認できたのは、お恥ずかしながら生まれて初めてです。これまで詳細な構造を確認するためには数十から数百枚におよぶ画像のコンポジットやウェーブレット変換に頼っていました。本当にシーイングが良いときには、びっくりするほど良く見えるのです。

 

木星については、15インチのドブソニアンと私が持参したMeadeの10インチシュミカセで見え方を比べています。15インチでは像は非常に安定していて、時折、大気の影響か揺らめきます。一方10インチのシュミカセでは、むしろ像が揺らめいている時間が殆どで、僅かな時間しか安定しません。でも、像が安定した瞬間は、15インチには及ばないものの、フェスト−ンは良く確認できました。もしこのような像の見え方が大気の揺らぎに支配されているならば15インチのほうがより厳しいはずですが、実際には逆でした。どうやらシュミカセでは管内気流にとても強く影響を受けているようです。

 

今回、ュミカセの温度順応には、かなり気を使ったつもりでした。日没直前から鏡筒は外気に慣らし始めましたし、鏡筒は車の日陰に置いて、管内の空気はファンをビジュアルバック側から差し込んで換気し、温度順応を促進するように工夫していました。このように気を使っても、ほぼ閉管のシュミカセ鏡筒では、なかなか管内気流を排除するのが難しいということが分かりました。トラス型ドブソニアンの場合、開放系ですので、管内気流の問題は皆無で、また、ミラーの温度順応も電動ファンにより促進されていたため、安定な観測が可能ということだと思います。

 

同じMeadeの8インチクラスで、シュミットカセグレンとマクストフ鏡筒の見栄味をside by sideで比べたとき、マクストフのほうが良いという話を幾つかのサイトで見かけたことがあります。マクストフ鏡筒には、強力な換気ファンが装備されているので、この部分が見え味を大きく支配している気がしてなりません(RCXシリーズでもやはり、マクストフ鏡筒と同様に温度順応を促進するためのファンが装備されています)。

夜半過ぎにようやく月が沈んでからは天の川の暗黒領域と明るい領域のコントラストがとても良く確認できました。それだけ空がとても暗いということでしょう。 私の住んでいる茨城県の市街地からそう離れていないところでは、殆ど見えないかみのけ座は無数の星がぎらぎらしていることが分かります。そこで、観察対象を深宇宙天体に移しました。

天頂付近に来ていたM13は、最良なコンディションを実感したもう一つの対象がでした。これまで10インチで見た印象は、周辺部の星がざらついたように分解してみえるという程度のものでしたが、教授の15インチからの眺めは中心付近の星の全ての星が分解しているように見え、さらにそれらがチェーンのように連なっているような複雑で立体的な構造をしていることをはっきり捉えることができました。これにはえらく感動しました。

この日はヘラクレス座に73P/シュワスマン・ワハマン第3周期彗星が接近していましたので、見逃すわけにはいきません。残念ながら私は肉眼では確認することが出来ませんでしたが、双眼鏡では非常に良く見えます。そこで教授の15インチに、今回の彗星を見るために新規に購入したXW40mmアイピースを取り付けてB核、C核を夫々視野に入れてもらいましたが、何れの核にも明瞭に尾を確認することが出来ました。この等級の彗星でこのように綺麗な尾を眼視観望で確認できたのは初めてでした。(ヘラクレス座に向けて撮った写真に73P/シュワスマン・ワハマン第3周期彗星のC核とB核がささやかに写っていましたので、ライブラリに掲載しました。)

天の川に横たわる白鳥座に寄り添う北アメリカ星雲は、以外とあっさり眼視で確認できましたし、以前北茨城で10インチでみたことがある白鳥座の超新生残骸は、東側(6992/6995 Bridal Veil)と西側(NGC6960 The Finger of God)に挟まれた真中の淡い領域(NGC6979/6794 Pickering's Triangular Wisp)を含めて非常に明るくよく見えました。フィルタ無しでも確認でいますが、OIIIフィルタを通すと、ガスによるフィラメントの詳細が驚くほど良く分かるようになります。

終盤にはペガスス座が東の空に上ってきましたので、ステファンの五つ子を視野に入れてもらいました。 高度が低いため、最高の状態とはいえなかったのですが、すこしばかりにごった水のなかにぶよぶよと浮かぶクラゲを連想させるものがありました。 また機会があれば、高度が高い良いコンディションで見てみたいものです。その他、おとめ座、しし座を始めとする無数の銀河も観望できました。

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今回は眼視観望中心でしたが、EM10にEOS20D+標準ズームレンズを架台して何枚か南天や天の川を写しました。特にこの場所では天の川が非常に良く見え、星の濃淡や暗黒星雲の複雑な構造など、非常に良く確認できました。以下に幾つかの写真をご紹介します。

 

さそり座 アンタレスとその周辺

 

夏の大三角形と天の川

 

白鳥座のデネブと北アメリカ星雲付近

 

いて座方向

 

天の川の中には、非常に興味深い観察対象が多く潜んでいます。以下はいて座周辺に存在している星雲・星団です。

どこにあるか分かりますか?

 

M8(干潟星雲)/M20(三裂星雲)

 

M16(わし星雲)/M17(オメガ星雲)

 

いて座λ星とM22/M28球状星団

 

M18/M24/M25散開星団

 

M6/M7散開星団

 

実は、薄明を迎えるすこし前に不思議なものを見ました。 まだ空は天の川を確認できるほど暗かったのですが、東の空から天頂付近にかけて光の橋がかかりました。 薄明を迎えるとともに薄くなって見えなくなりました。 とても神秘的な光景でした。

 

 

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