SONIC CHAMBER

 

 作品の制作目的

 

20Hz20kHzは人間の可聴域とされており、CDはこれ以外の帯域の再生を保証していない。最近流行中のポータブルオーディオもこれを上回る帯域を再生できる機器は極めて少ない。また、私たちが日常生活で機器を通して耳にする音のうちの多くは、何らかの形で圧縮されている。最近ようやく可聴帯域外も再生できる規格が少しずつ広まりつつ有るが、CDMDに比べるとまだ一般的とは言い難い。そういう意味で、音に関する技術はまだまだ過渡期であると信じたい。既に実生活と切り離せなくなっているデジタルな世界では、顧客が有用と認める情報量が多い物は一般的に価値も高いという情報化社会の資本主義原則が広く深く浸透しているように思える。

 

人が感覚器官を存分に使う喜びは生きていく上で重要であるし、みすみす摩滅させるにはおしい事柄だと考える。携帯電話やポータブルオーディオ、MDをはじめとする低いビットレートで圧縮の掛かった音(特に高域が伸びず、ささくれ立った感じになりやすい)に接することが増えているという現実。雑音の中でも耳につき容易に聴取できることが流通の前提条件になっており、必然的に音量の変動が押さえられる傾向をもつある種の音楽。多くの機器が生活に入り込んでいるせいで過去と比べるべくもない暗騒音の音源の数は、一種の社会的なインフラがもたらした結果であり、他の重要な問題に比べるとささいなことに感じる場合が多いが、それでも、毎日薄皮を積み重ねるように変化が起っていて、私たちはゆで蛙になりかけているような気がする。

 

これまで述べたような事と前作の映像作品(dysrhythmia)の制作により明確になった課題である鑑賞条件の保証、音のもたらす効果の追求をふまえて今回の作品は制作された。

 

本作品で作成される音は、音楽では無いが、ある構造とつながりを持った物になる予定で、鑑賞者は、日常ではあまり接しない波形の音や接していても明確に意識しない音を様々な音量の組み合わせで体験することになる。空気の振動が、鼓膜では無く体を直接振動させていると感じる場面も有り、音の持つ物理的な力を実感できるものになると思われる。作品のコンセプト上、長時間大音量にさらされることは無いが、瞬間的な高い音圧はあり得る。私は自分自身が聞いてみたい、感覚器官を十分活用するような音の構成にするつもりではあるが、それが鑑賞者に心地よい状態を作り出すかどうかについては全く保証できない。

 

本作品の一部である正20面体を基礎とした構造体は、通常会場によって大きく影響を受ける音の鑑賞条件を現実的に可能な範囲で保証するために作成された。絵画で言えば、キャンバスと額縁と展示会場の一部を含んだようなものである。視覚を遮断した中で音の構成と構造を工夫することによ体験者の身体に有る程度の負担をかけ、強い印象を得ることが出来る性能を持つよう、設計、製作された

  

構造体の特徴

 

・音響効率を高め、定在波を防ぐために、制作上の難易度は

高くなるが平行面の存在しない正20面体をベースにした

形態を採用した。

 

・鑑賞者に十分な音圧をかけられるよう2個の40cm

ウーファーを含む合計17個のスピーカーユニットを

使用した。

 

・視覚が効果的に遮断され、体全体で音圧を感じることが

出来るため、今回は映像を用意していないので行わない

が、HMDを利用したDVD5.1ch)視聴や映像作品鑑賞時

の没入感覚はこれまでに無く高いものがある。

 

制作に関係した人(敬称略)

 

コンセプト、設計、制作        片桐 泰紀

木工                                                     伊藤 信行

設計支援                                            吉田 勉、鈴木 孝紀 

ステンレス特注部品製作           阿部鐵工所

 

 

2005 6