Disc of the Year 1999



1999年に聴いたCDの中から、特に印象に残ったものを紹介する。新譜、旧譜に関係なく、とにかく私が1999年に聴いた中から選んだものである。

Living Stereo シリーズ

1999年は、RCAのプロデューサ、ジャック・ファイファーのことを調べていたこともあり、彼が活躍していた1950年代後半から1960年頃に録音されたのRCAのLiving Stereoシリーズの管弦楽を中心としたCDを結構集めた。アーティストは限られていて、フリッツ・ライナー、シャルル・ミュンシュ、アーサー・フィードラーといった人たち。BMG Japanからもミュンシュのシリーズが廉価版で発売されていたので、それも数枚買ったりして、両者合わせて20枚ほど購入した。既にLPで持っている演奏と重複してい るものが多かったのだが、CD化でまとめて聴けるようになったのが私にとって幸運だった。この人たちの録音レパートリは、ご存じのように独・奥ものは少なくフランス、ロシアものが中心である。その中から、印象に残ったものを数点あげると、

The French Touch(ミュンシュ)
デュカ(魔法使いの弟子)、サンサーンス(オンファールの糸車)、ラヴェル(マ・メール・ロア)、フランク(呪われた狩人)といったミンシュの定評ある小曲集。個別には日本版CDやLPで持っていた演奏ですが、輸入盤CDのジャケットセンスが良く、また、音も一番良いように思った。

The Reiner Sound(ライナー)
ラヴェル(スペイン狂詩曲、亡き王女のためのパヴァーヌ)、リスト(死の舞踏)、ウエーバ(舞踏への招待)、ラフマニノフ(死の島)。 ライナー/シカゴのうまさを楽しむ入門CD。オリジナルLPは、Living Stereoの中でも特に優秀録音として知られている。

Wienna(ライナー)
J.シュトラウスの作品集。舞踏会の伴奏音楽ではなく、管弦楽作品として聞かせる演奏。

ブラームス/チャイコフスキーVn協奏曲(ハイフェッツ/ライナー)
CD化で音がLP時代に比べて格段に良くなってビックリした。

以上のLiving Stereoシリーズは、どれも米国BMGの輸入盤である。 あとは、アト・ランダムに印象に残っているものをあげる。

その他 あれこれ

バルトークP協奏曲(1~3番)(ゲザ・アンダ/フリッチャイ)
この演奏は、本当に凄いの一言。バルトークの熱気が伝わってくる。DGの名盤復刻シリーズ(The Originals)の一枚。

モーツァルト・ドンジョバンニ(ワルター)
ワルターがオペラを指揮しているCDを探していたら、タイミング良くこれが発売された。NAXOSのHistoricalシリーズのもの。これが実に面白い。面白いという言い方は変かも知れないが、とにかく録音されたのが1942年3月7日。戦争中である。メトロポリンタン歌劇場でのライブ録音で、とうぜんながらドンジョバンニはイタリア語で上演されるのだが、観客の反応がすごい。それと歌手の力がワルターを越えて圧倒的である。ここでのワルターは元気の良い演奏を聴かせてくれて、晩年のなにか優しく悟ったような演奏とはまるで違う印象なのにも驚くが、そんなことはどうでも良いことと言いたくなるくらい、このCDの主役は歌手達だ。

登場する歌手達の主なキャスト一応書き留めておくと、
エツィオ・ピンツァ(バリトン):ドン・ジョバンニ
ローズ・バンプトン(ソプラノ):ドンナ・アンナ
ヤルミラ・ノヴォトナ(ソプラノ):ドンナ・エルヴィラ
ビドウ・サヤン(ソプラノ):ツェルリーナ
アレグザンダー・キプニス(バス):レポレロ
といった顔ぶれ。この中で、主役のピンツァは、トスカニーニからMr.ドンジョバンニと目されたとか日本語の帯に書いてあるが、彼だけでなく、どのメンバも豊かな声で魅力的な歌唱を聴かせてくれる。ツェルリーナを歌っているビドウ・サヤンの声がとてもチャーミングなので、すっかり気に入ってしまった。

観客の反応がすごいと書いたが、セッコ・レチタチーヴォのところでどっとわいたり、聴かせどころが終わる度に幕の途中でも大拍手といった状態で、歌手もますますのって力が入るというわけである。今では、オペラも指揮者が重要視されるが、この時代はまだ歌手が主役であったことがはっきり分かる。

このCDを聴いていて、10年ほど前の映画で「月と星の輝く夜に」というニューヨークに住むイタリア移民の家族の生活を描いた映画を思い出した(タイトルは、少し間違っているかもしれない)。その映画の中で、必ずしもインテリとは言えない若いイタリア人の男が、知り合った女性と初めてのデートに誘う先がメトロポリタン歌劇場で、オペラを聴くのをとても楽しみにして、めかし込んで出かけるシーンがある。イタリア人のオペラへの愛着というのか、身近な娯楽としての接し方が感じられるシーンだった。映画自体、イタリア人の移民社会のとても人間的で暖かい絆を描いたものだったが、このCDで聴かれる聴衆の素直な反応を聴いていると、きっとこの中にはイタリア系の人がたくさんいたのではないかという思いにかられる。

そんなわけで、このCDは半世紀前のオペラ上演の姿を教えてくれるとても有意義で、かつ歌手の魅力にあふれる楽しいCDだった。

ついでに、ワルター指揮ニューヨーク・フィルでキャスリン・フェリアーが歌っているマーラーの「大地の歌」も並んでいたので衝動的に買ってしまった。有名なウィーンフィルとの録音より4年早い1948年録音のもの。なぜか大地の歌のほうのCDに記述があったのだが、ワルターはメトロポリタンで118回指揮し、うちオペラ上演は8演目、その中で、「フィデリオ」「仮面舞踏会」「運命の力」「ドン・ジョバンニ」「figaroの結婚」「魔笛」の6曲が放送・録音されているらしい。いまのところNAXOSでCD化されているのは、「運命の力」と「ドン・ジョバンニ」だけのようだが、他の作品もいずれ日の目を見るかも知れない。NAXOSのHistoricalシリーズは、楽しみが多い。

神々の黄昏(クナッパーツブッシュ)
1951年バイロイトでのライブ録音。まさに1999年度最大の成果である。1951年録音とは思えない鮮明な音で、TESTAMENTから発売されたもの。この年のバイロイトは、7月29日に例のフルトヴェングラーの第9で戦後初めての幕開けをした記念の大イベントだった。そして、7月31日にラインの黄金が始まり、8月4日の神々の黄昏までクナッパーツブッシュによる指輪が上演されるのだが、この1951年のクナッパーツブッシュの「神々のたそがれ」については、ジョン・カルショーが手記「Ring Resounding」でかなり詳しく書いている。(レコード芸術1999年11月号にも解説記事がある)

カルショウによれば、この指輪の録音のために10日以上も前から入念に準備していたのだが、本番でのラインの黄金とワルキューレはいろいろ問題があり、ジークフリートの時には、もう録音を続けるのを止めようかと思っていたとのこと。ところが神々の黄昏がとても素晴らしい出来映えだったので、これだけを発売しようと思って録音後にロンドンでテープ編集をしていたとき、発売できなくなったとの知らせを聞いたとのこと。なぜ発売できなくなったのか、カルショー自身は理由がよく分からないとしながら、Woglindeの端役でシュヴァルツコップが歌っているのが原因かも知れないと推測としている。DECCAのライバル会社EMIのプロデューサ、ウォルター・レッグが、自分の妻であるシュヴァルツコップの名前がライバル会社のレーベルに出るのをいやがったのかも知れないとのことらしい。

この録音にカルショウに同行したDECCAのエンジニアは、Kenneth Wilkinsonである。彼がEMIと張り合ってDECCAの方が見通しの良いレコーディング・ルームを確保したり、マイクポジションなどいろいろ工夫したようだ。カルショウ、Kenneth Wilkinsonとも若く、オペラ録音の意欲に燃えていた時期で、「Ring Resounding」は、とても面白い手記である。

なお、このバイロイトでは、クナッパーツ・ブッシュに続いて、8月5日に、カラヤンも登場してマイスタージンガーを指揮しており、さらに8月11日~8月15日には指輪も指揮している。EMIは、このマイスタージンガーと、ワルキューレのAct3を録音し発売している。

ワルキューレ1幕(ワルター)
ワルター指揮のワルキューレ第一幕(1935年録音)は、名演の誉れ高いものだが、これまで聴いたことがなかった。ジークムントのメルヒオール、ジーグリンデのロッテ・レーマン、フンディングのエマニュエル・リストと、理想的配役である。これを、なんとLPが発明された直後、1950年頃に米国RCAビクターから発売されたものを発見した。こんなものがどうして現代の日本にあるんだろうと不思議になるようなLPである。もちろんSPからの復刻だが、もともと英国HMVから発売されていたのが、当時英国HMVと米国RCAは提携関係にあったので、米国盤がRCAから発売されたのだろう。値段もCD1枚程度で変なプレミア価格も付いていないので即購入した。

このLPの中の解説書(歌詞の独英対訳書)を見て、もう一つ驚いたのは、このLPがかつて7枚のドーナツ盤(分かりますか? 昔の45回転の17cm盤のことです)に分割して発売されていたこと。解説書は、そのドーナツ盤と共通らしく、歌詞が1面から14面まで分割して書いてあり、1面から8面までがLPのA面、9面から14面がB面に相当することが記述されている。30cmのLPが1948年に米国コロンビアで発明されたとき、RCAはそれに対抗して45回転のドーナツ盤を発売して対抗していた頃の名残である。クラシックのように長い曲では30cmLPの方が有利に決まっているので、17cmのドーナツ盤はポップス向けに変わってしまったのは歴史が証明しているとおりである。

で、肝心の演奏だが、3人の歌手どれも素晴らしい。ワルキューレの1幕は3人の会話で割合淡々と進んでいく場面なので、ともすると退屈な表現になりやすいのだが、この演奏はワルターの指揮も含めて音楽がだれることがない。私はドイツ語は全く分からないのに、このレコードを聞いていると、なぜか言葉が耳に入って来る。もちろん目で対訳の方を見ているのだが、その対訳の何処を歌っているのか非常に分かりやすいのである。これはいったいどういうことかと思うが、3人の歌手ともきれいなドイツ語を話す人たちなのだろう。とにかく、これは本当に良いレコードでした。

この名演奏は当然CD化もされており、後でCDも購入した。

なお、この有名な録音の第二幕がなかなか見つからず、探していたところ、思わぬ第二幕の録音が見つかった。ジーグリンデ、ジーグムント、フンディングがワルターのものと同じ配役でライブ録音されたCDである。

CD番号: Gramofono AB78545

CDのクレジットには、米国サンスランシスコで1936年11月に録音されたと書かれている。指揮はフリッツライナー、オケはサンフランシスコ・オペラ・オーケストラ(こんなオケがあるんでしょうか? サンフランシスコ交響楽団の別名か、ハリウッドから適当な奏者を集めて編成したものかどちらかだろうと思いますが)。

このCDでは、ブリュンヒルデをフラグスタートが歌っており、ジーグリンデのロッテ・レーマンと合わせて聴きものになっている。このころのフラグスタートの声のすばらしさをあらためて堪能できた。他の配役も含めて、すごい顔ぶれで、ウィーンで活躍していたメンバが総出演といった趣である。このCDが第二幕だけの録音というのが残念。

改めて配役を書いておくと、

Brunnhilde:Kirsten Flagstad
Sieglinde:Lotte Lehmann
Siegmund:Lauritz Melchior
Wotan:Friedrich Schorr
Fricka:Kathryn Meisle
Hunding:Emanuel List

音は、当時のライブ録音にしてはそれほどひどくないので、とりあえずこれもお勧めCDの一枚として紹介しておく。

ベートーヴェン第9「合唱」(クレンペラー)
「クレンペラーという人が最上の出来を示したのは、きまって躁鬱病の鬱の時で、周囲の意見を聞き、議論にも積極的で、納得がいけば協力を惜しまなかった。逆に躁の時は頑固で、いい加減で、自己批判の精神を全く書いて自分伸したことに全て満足し、陶酔してしまった。」とEMIのプロデューサだったウォルター・レッグが回想録で書いているが、これは、多分「鬱」の時のものだ。

クレンペラーは正式なスタジオ録音でも<合唱>を残しているが、これは、それとは違って、EMIのスタジオ録音専門の楽団だったフィルハーモニア管弦楽団が珍しくロンドン・ロイヤル・フェスティバル・ホールでライブで演奏会を行ったもの。1957年11月15日の録音ですが、とても明瞭なステレオ録音である。CD番号<TESTAMENT SBT 1177>。ちなみに、この「TESTAMENT」という会社は、上記「神々の黄昏」も発売し、昔の優れた録音を厳選して素晴らしい音で復刻してくれる英国の会社である。

このCDでの第9の演奏には今までにない新しい印象がある。もし機会があればお聞き下さい。クレンペレラーが残した文章を集めた「指揮者の本懐」という本があり、その中に「ベートーヴェンの第9のスケルツォには楽譜通りに演奏すると主テーマが埋もれてしまう箇所がある」との記述がある。それと、ワグナー、マーラーといった人たちが楽器の数などを変更して演奏していたことも。これが、このCDではどう処理されているのかを聴くのも興味深い。

合唱団は、この演奏会のために新たにアマチュアから募集したとのこと。これが、フィルハーモニア合唱団の生まれで、初舞台だったということです。



まだまだ紹介したいものがあるが、きりがないので、こんな所にしておきます。