The History of Record and Recording


FOR HI-FI FANS

ffrr、New Orthophonic、RIAAこれらの用語の意味が分かる人は、相当のレコードファンである。

説明は後でするとして、レコードは、音の振動を溝に刻んだものだということはたいていの人が分かっていることだろう。ところが、音をそのままの強さで刻むと、低音の振幅が高音の振幅に比べて遥かに大きくなってしまい、そのままでは低域の音が録音できない。また、高域になればなるほど振幅が小さくなり、これを再生することが難しくなるという問題があるといったことからレコード録音の技術開発が始まったのである。

このことは、SPレコードの時代から知られてきたことで、レコードに音を刻む時には低音を弱く、そして高音を強く刻み、これを再生する時には逆に低音を強く、高音を弱くすることによって、もとの音を得るようになっている。そのため、録音時に低域をどの程度弱くするか、高域をどの程度強くするかといった録音特性が重要になってくる。

この特性がレコード製造メーカ各社によってバラバラだと、レコードによって再生時の特性がバラバラになってしまい、困ったことになる。ところが、SP時代から、この特性がなかなか統一されず、LP時代になっても各社まちまちの特性で録音していた。このため、LPレコード用の初期のアンプでは、レコード会社毎の再生特性を設定するための回路を持ち、その回路を選択するためにスイッチがあるのが当たり前だった。録音特性がまちまちではこまるというので、アメリカ・レコード産業連合会(略称RIAA)で標準録音特性を決めたのが、1953年6月。そして、1954年から1956年の間にレコードの録音特性は世界的にRIAA特性に統一された。

さて、冒頭の用語だが、 ffrrは、英国DECCA社(米国ではLondon)の録音特性で、full frequency range recordingの略語である。ffrrはSPレコードの時代からDECCAのトレードマークででした。もちろん、同じffrrといっても、SPとLPでは特性は異なる。
これがステレオ時代になると、ffss(full frequency stereophonic sound)の名称に変わる。

New Orthophonicは、RCAビクターの録音特性の名称。このカーブは、初期のLPにおけるものから、1952年頃に一度改定変更されている。RIAA特性は、この変更後のNew Orthophonicの特性を引き継いだものである。

この他にも、LPレコードを最初に世に出した米国コロンビアレコードも独自の特性を持っていた。とにかく、LPレコードの時代になって、各社各様にHigh Fidelityを売り物にレコードを発売し、いろいろのキャッチフレーズ・コピーが使用されたわけである。

lm6011.gif レコード会社が当時どのようなアピールをしていたか、New Orthophonicの例を、RCAビクターのLP初期における代表的HiFi録音盤である、シャルル・ミンシュ指揮ボストン交響楽団によるベルリオーズRomeo and Juliet(レコード番号LM6011)を紹介する。このレコードは、1953年2月に録音されたものであり、当時としては画期的なHiFi録音盤として注目を集めたらしい。カートンボックス入りの2枚組のレコードで、箱には"FOR HI-FI FANS" と書かれたシールが貼られている。添付解説書には、楽曲の説明、録音データ、ジャケットデザインの由来まで記述されており、このレコードへのRCAの力の入れ様が分かります。当時の状況を伺い知ることのできる資料としても興味深い。

アルバムカバーのイラストレーション…

これは、英国の有名な画家達が描き、1805年ロンドンで出版されたシェークスピアからの96シーンの連作の一枚で、Jamaes Northcoteによる鋼版画の複製である。Reynolds, Romney, Benjamin West, HopperそしてAngelica Kauffmannが、そのプロジェクトに貢献している。このプロジェクトは寄付でまかなわれ、完成までに、£100,000以上の費用と18年の歳月を要した。出版社は、John and Josiah Boydell印刷商会であり、可能な限り素晴らしい印刷にするためにあらゆる努力と費用を惜しまなかったと述べている。2巻の厚い二つ折版の版画集は、27×20.5inchの大きさで、出版以来、これまでに作られたシェークスピア劇のイラストレーションの中で最も素晴らしいものといわれている。

アルバムカバーのイラストレーションは、修道僧ロレンスの指示で薬を飲んでいたジュリエットが眠りから覚めた時、それとは知らぬロメオが死んでいる側で、ロレンスにロメオはどこかと尋ねるシーンを描いたもの。ロミオは、ジュリエットが眠っているとは知らず、ジュリエットの結婚相手パリスを殺害した後で自害したのでした。ロミオの死に気付いたジュリエットは、直ちにロミオの後を追うという、この悲劇の最終シーンである。

complete  recording
 	 Romeo and Juliet
	 	A DRAMATIC SYMPHONY
	 	BY
		Hector Berlioz
PERFORMED BY THE
		Boston Symphony
		ORCHESTRA
  CONDUCTED BY
		Charles Munch
  ASSISTED BY
		MARGARET ROGGERO, contralto
		LESLIE CHABAY, tenor
		YI-KWEI SZE, bass
		
		THE HARVARD GLEE CLUB
		THE RADCLIFFE CHORAL SOCIETY
G. Wallace Woodworth, director

Copyright 1953 Radio Corporation of America


録音について…

以下の文章は、当時のRCA Victorの録音にたいする取り組みを示していて興味深いので、採録しておく。

この劇的交響曲“ロメオとジュリエット”は完全版の録音は、1953年2月22日及び23日、ボストンシンフォニーホールでRCAビクターのレッドシール・レコーディング・マネージャ Richard Mohr;チーフ・レコーディング・エンジニアA.A. Pulley;レコーディング・エンジニアLouis W. Layton.のもとで行われました。この録音は、RCA Victorの "New Orthophonic" レコーディング技術を採用しており、
	A.完全な周波数レンジ
	B.レコードの外周から内周まで高域周波数応答にロスがない
	C.家庭で聴くのに適した理想的なダイナミックレンジ
	D.改善された静かな表面

といった特長を持っている。

RCA Victor "NEW ORTHPHONIC" レコードの再生要件

あなたがハイフィディリティ・ファンでない限り、どのレコードも低域を減衰させ高域を強調して作られていること、そして現代の蓄音機はどれも適切なバランスで再生するよう設計されていることに気付かないでしょう。この理由は極めて簡単です。低音をフルボリュームで録音するのは、レコードでは技術的に困難なことなのです。このため、低音域は減衰させて録音し、蓄音機のアンプ側で元の音量に復元するのです。逆に、高域は強調して録音されています。この高音域を蓄音機で元に戻す際、サーフェス・ノイズもかなり小さくなります。

ここに示す曲線(省略:RIAA曲線)は、RCA Victorの "New Orthophonic" レコードの望ましい再生特性を表しています。ワイドレンジでハイファイな再生装置をお持ちで、この特性に装置を合わせたいと望まれる多くの人向けに、RCA Victorは特別に、45及び331/3rpmのテストレコードを提供しています。

いずれかのレコードを使用して出力が一定になるようコントロールを調整すれば、 New Orthophonic再生特性が得られます。または、周波数が目盛られているレコードを用いて、蓄音機の応答を曲線に示されているように調整することもできます。RCA Victorの取扱店からわずかの価格で45rpm又は333/1rpmのレコードを入手し、ワイドレンジな装置をNew Orthophonic再生特性に合わせることができます。
再生特性の詳細については、
	Engineering Section, Record Department, RCA Victor Division,
	501 N. LaSalle Street, Indianapolis, Ind.
に手紙で問い合わせください。

こんな技術解説のあと、楽曲説明が続きますが、省略します。