硝子の靴を手に入れたシンデレラはその後幸福だったのでしょうか……?
純金のさらさらとした髪に鮮やかな翠玉の瞳。陶磁器のように白い肌にほっそりとした肢体。
皇太子妃シルフィスを見た人はその美しさにため息をつき、その美しさは噂となる。
夜会でのある出来事。純白の絹のドレスを身につけ、髪をまとめあげて白いリボンでまとめあげた皇太子妃の美しさは可憐な薔薇を連想させる。
「ではシルフィス」
すっと皇太子セイリオスが妃の手を取り、妃はふわりと見事な身のこなしで立ちあがる。
始めりはワルツの音楽。軽い可憐な妖精のように妃は皇太子に合わせて踊る。
ほう……とため息を飲む人々。
「足が痛い……」
げっそりとした声でシルフィスは王宮の自分の部屋で唸っていた。
この細い靴はどうも足が痛くなるし、裾の長いドレスもあまり好きではない。
「やっぱり私には無理だったのかなあ……」
「皇太子妃なんて……?」
「!」
シルフィスはがたんと立ちあがって、振りかえる。
そこには自分の夫であるセイリオスが腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「セ、セイル……」
ぱくぱくと酸欠の魚みたいにシルフィスは口を空けたまま。
「うん、聞えていたよ」
にっこりとセイリオスは微笑した。
「……!」
その瞬間シルフィスはかちんときた。
ディアーナは王宮の中庭で一人、恋人の名を付けた猫ガゼルを相手に独り言を言っていた。
「ねえ、ガゼル。お前のご主人様ったらいつになったら帰ってくるかしらね?もう、夜会なんてうんざりですわ。わたくしの王女としての名前しか見ていない奴ばっかり寄ってきて……」
「みゃーん?」
猫はそう答えるなり、ストンとディアーナの膝から飛び降りた。
「あっ!ガゼル」
慌ててディアーナが猫のガゼルを追いかけようとしたが、ばたばたと人の足音が近づいてきた。
「?」
良く見ると兄がシルフィスを追いかけている。
「シルフィス!」
「ひ、人の独り言を聞いているなんて悪趣味にも程があります!」
きっと睨まれてセイリオスはしどろもどろになる。
「お兄様ってばほーんとシルフィスに弱いんですわ……」
王宮の芝生に座りこんだままディアーナは二人を見ていたがそのまま二人の影が重なるのが見えて、立ちあがった。
「セ、セイル……。こ、こんな所で人が見ていたら……」
唇が離れてシルフィスは戸惑っていた。
「たまにはいいさ……。その私は嬉しかったんだよ……」
そこには無邪気そのもののセイリオスの笑顔があった。
「え?」
「私の為に今日踊りの特訓をして頑張ってくれていたからね……。すごく綺麗だったよ」
「……」
そのまま二人は抱き合う。
「セイル……」
「ん?」
「立ち聞きはマナー違反ですからね……」
「……わかった。すまなかった」
二人はくすくす笑いあいながら唇を再び重ね合った。
後日二人は散々ディアーナから冷やかされる羽目となるがそれは又別のお話……。
→つづく
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