「汚れ無き心で…(3)」  Noa様
 
 
  第3章 
  
 翌日・・・ 
 昨日の一時の休息を思い出すと少し憂鬱でもあり、またそれとは逆に新しい出会いを予感する月曜日。 
 シルフィスは普段通り騎士団で一心に剣の素振りを行っていた。 
 200回・・・300回・・・同じリズムで振り抜くにはかなりの日々を要するが4月に入団した当時よりは無理なく自然にこなせるようになってきたことをシルフィスも自覚していた。 
「シルフィス。」 
 背後から数段低いトーンの声が聞こえた。 
「実践練習の時間だ。準備をしろ・・・」 
 騎士団隊長レオニスは素振りを続けるシルフィスに向かって静かに命令を下した。 
「はい、了解です。」 
 その命令に応じたシルフィスは部屋の隅に並べてある刃のない剣を一本手に取ると、ゆっくりと床に描かれた正方形に囲まれた「場」に移った。 
 まだ入団して間のないシルフィスにとって、憧れの隊長に直接手合わせをしてもらえるこの数分の貴重な演習時間は何よりもいい経験になる。 
 目を閉じて大きく一息をし、グッと剣を持つ手に一段と力を込める。 
 やがて暗黙の中で隊長の「気」を確かに感じ取った瞬間、シルフィスはキッと目を開いた。 
「よし、来い・・・」 
「お願いします!」 
 レオニスが相手なら怪我をさせることもないため、シルフィスは己の持つ全ての力を出すことができるのだ。 
 シルフィスは正面から若干右に体を移動させると、レオニスに向かっていった。 
 
 キーン・・・キーン・・・ 
 
 透き通った金属音が連続的に発生する。 
 そのままお互い動きを止めることなく数分間剣を交わしあった。 
 
「よし、終わりだ・・・」 
 レオニスは一瞬の間を自分で作り出し、宣告した。 
「なかなかいい動きだったぞ。かなり剣の使い方が分かってきたな。あとは・・・もう少し無駄な力を抜くといいだろう。時折気負いすぎて件がスムーズに振り抜けない面が見られるからな。」 
「はぁ・・・はぁ・・・ありがとうございました。」 
 シルフィスはレオニスに向かって一礼をし、場を後にした。 
 何気なくふと一瞬窓の方に目をやると、そこに思いがけない人物の姿を捉えた。 
 間違いない、エルディーアである。 
 しかもこちらに向かって嬉しそうに何度も手を振っている。 
「(エルディーア様ってば・・・)」 
 
 シルフィスは稽古が終わってから一目散に先ほどの庭に向かって走っていった。 
 エルディーアはまだそこにいた。 
「うふふ、今日もお稽古お疲れさま♪」 
「エルディーア様、ダメですよ、勝手にこんな所に入ってきたら。ここは女性禁制の区域なんですから。」 
「あーら、そうやって差別するわけ?ひどいわぁ。」 
「危ないんです。騎士団は国の武力のほぼ全てが集まるところですからいつ他国の奇襲攻撃があるかもしれないんですよ。」 
「あぁ、そっか。でも、一度シルフィスが本気で戦っているところを見てみたかったの。さっきの大柄な人との練習あったでしょう?」 
「大柄な人・・・あぁ、レオニス隊長ですね。私の尊敬している人です。」 
「そうそう、そのレオニスさんと剣を交える姿・・・とても素敵でしたわよ。惚れてしまいそう♪」 
「ありがとうございます、エルディーア様。でも、まだまだ新入りの身ですから修行中の自分を見られるのは恥ずかしいです・・・」 
 少し眉をゆがめ、顔を赤らめて困ったような顔をするシルフィス。 
「そんなことないわ。あなたにはすばらしい才能があります。私が保証しますわ☆」 
 エルディーアはやや身長の高いシルフィスの肩をポンッと軽く一回叩いた。 
「ではそろそろ私失礼しますわね。あっと、その前に・・・」 
 そう言いながら彼女は自分の肩から下げた白いポーチをゴソゴソと探り出し、一通の手紙を取り出した。 
「これ、あとで読んで下さらないかしら?」 
 エルディーアは若干頬を赤らめてそう言うと、半ば無理矢理シルフィスに手渡した。 
「じゃあ、またね。」 
 そういうと彼女はその場から逃げるように走り去っていった。 
「・・・?・・・??」 
 シルフィスは彼女のその可憐な外見とは裏腹の強引な行動に呆気にとられていたが確かに手には手紙が存在している。(笑) 
 その封を開け、首をひねりながら目を通した。 
 
 ----- 
 Dear シルフィス 
 
 あなたに大事なお話があります。 
 再来週の日曜日の朝、クライン南の森に来て下さい。 
 もちろんひとりで・・・☆ 
 
 ばーい、えるでぃーあ 
 ----- 
 
 


 
→第4章につづく
  
 
 
 
ノーチェの部屋に戻る  創作の部屋に戻る