甘い接吻
〜時代劇浪漫譚妖恋話−其之五〜
(Written by Peko さま)


 
例の茶室、いつもどおりセイリオスは静かに茶をたてながら側に控える隠密に任務を与える。今回呼ばれたのはシルフィス一人。いつもならシルフィスはレオニスと組みになって仕事をすることが多い。一人で呼ばれたことに疑問を抱きながらもシルフィスは任務が与えられるのをじっと待つ。さて、その任務とは…
 
 

「吉原に遊女として入り込んで欲しい」
一瞬シルフィスはその意味が理解できなくきょとんとしていたが、みるみるうちに赤くなって慌て始めた。
「ゆっ、遊女って…」
「まあ、春を売る仕事だな、どうゆうことかわからないことはないだろう」
セイリオスは茶をたてながらあくまで冷静にそう言ってのける
「それはっ…わかりますけど、…私が…ですか?」
「他に頼める者がいないのだ。もちろん君に遊女の仕事をしろといっているわけではない。今吉原を中心に妙な薬が出回っていてね、それの出所をさぐってもらいたいんだ。」
セイリオスは心底困ったようにそう言うと先を続けた
「…とはいえ、遊女になって潜り込むわけだから、仕事をしているふりはしなくてはならない。その点は万全な対策はしてある。だから安心してこの仕事引き受けてくれないかな」
そして最後にはにっこりと微笑む。
そこまで言われては人のいいシルフィスに断れるわけもなかった。それにこれは上様からの命令。彼に仕える身の者には絶対のものなのだ。
「…承知いたしました」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思ったよ。でもくれぐれもレオニスには内緒にしてくれ。彼が君にこんな仕事許すわけないからね。私はまだ死にたくないよ」
冗談まじりにセイリオスはそんなことを言う。
「はぁ…」
シルフィスにもレオニスにはこんな任務を引き受けたことを言えるわけがなかった。
 
 

シルフィスは上様からのアンヘル村へ大事な文書を届けるという名目で1週間程骨董屋を離れることになった。
「それでは、行ってまいります」
「ああ、気をつけてな」
店先で挨拶を交わし、シルフィスは町の雑踏に消えていく。
レオニスはしばらくその姿を見送り、店先にたたずむ。だが少し間を置くとシルフィスのあとを尾け始めた。
シルフィスの様子が微妙におかしいことにレオニスは気づいていた。久々に実家へ帰れるのなら少しは喜んでいいものを、先日その任務を受けて戻ってきたシルフィスの様子はどこか暗いものがあった。その任務のことを尋ねても受け答えにおかしな所がある。何かあるなとレオニスは思った。
案の上、おかしいことにシルフィスはアンヘル村に向かう方向とは反対を歩いていく。そしてシルフィスが最後にたどり着いてきょろきょろとあたりを見回しながら消えていった
場所は、吉原の遊女街だった。レオニスは絶句する。だがすぐに気を取り戻すと、そのまま踵を返し、すごい勢いでクライン城へと向かった。
 
 

「やぁ、そろそろ来るかと思ったよ」
セイリオスのにこやかな笑顔がレオニスを迎えた。だがレオニスは厳しい視線をセイリオスに向ける。
「シルフィスに何をお命じになられた?」
「吉原で例の薬の出所を洗ってくれと命じた」
「上様っ」
「心配ないよ、これから君に任務を与えようと思っていたんだ。」
そう言ってセイリオスはレオニスの前に包みをだした。
「ここに100両ある。これで客としてシルフィスに会いにいってくれ。もちろん任務中毎晩だ。そして潜伏中のシルフィスからの報告を受け取り私に伝えてもらう。それが今回の君の任務だ。」
「………」
だがまだレオニスの視線は冷たいままだった。
「そう怖い顔をしないでくれ。シルフィスしか適役がいなかったんだよ。あの薬の恐ろしさを知っているだろう?これ程の危険をおかしてまで早急にどうにかせねばならないのだ。」
「……」
レオニスは黙ってその包みを受け取る。
「それでいい。さあ、急がないと他に客がついてしまうよ。シルフィスの吉原での名は翠玉といってね…」
「御前失礼」
レオニスはセイリオスの言葉を最後まで聞かず、その場から音もたてず去っていった。
「今回の任務は君たちへのサービスのつもりなんだけどなぁ…」
セイリオスはレオニスが去ったあとくすりと笑いながらそう呟いた。
 
 

「ふうっ…」
シルフィスは一人、与えられた部屋でため息をつく。昼間は他の遊女や使用人たちからそれとなく情報をしいれ任務をこなしてゆき、そして日が傾きはじめそろそろ客が寄り始める時間となると与えられた持ち場で待機する。そんな生活が今日から1週間つづく。
(どうしよう…上様は万全な対策をしてあるっておっしゃってたけど、お客さんが来ちゃったら…)
シルフィスは気が気でなかった。袂に忍ばせた小刀と診療所で特別に調合してもらった即効性の睡眠薬を何度も確認する。いざとなったらこれを使ってなんとかその場をしのぐしかない…。緊張しつつしばらく脇息にもたれかかってじっとしていると
「さあ、こちらです…」
戸の向こうから微かにそんな声が聞えた。そして襖がすいっと開けられると一人の男が入ってくる気配がした。シルフィスはびくりと肩を震わせる。
(えっっ…お、お客さん??)
「こちらが翠玉と申します。それではお客さま、ごゆるりと…」
遊女屋の主人が襖を閉め去っていくと部屋にはシルフィスとその男だけになった。シルフィスは怖くて先程から顔があげられない。それでもおかしく思われてはならないと思い、昼間教わった通りに手をついて挨拶だけはする。
「いらっしゃいませ、翠玉と申します。」
声が微かに震えるのを感じる。そしてやはり顔を上げられず俯いていると男が膝をつき、シルフィスの頬に手を添えてきた。
「翠玉か…いい名だな」
低く呟くように言われたその声に聞き覚えがあり、はっとしてシルフィスは顔をあげた。
目の前に見慣れた男の顔がある。
「旦那さま……」
「シルフィス、大丈夫か?」
レオニスは呆然として自分を見つめるシルフィスの名を呼ぶ。そのとたんシルフィスがいきおいよく抱き着いてきた。
「旦那さまぁ〜、ふぇっ…怖かった…」
「…何故こんな仕事を引き受けたのだ」
少し怒っている様子のレオニスにシルフィスはあやまることしかできなかった
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そうしてぎゅっと顔を胸にうずめしがみついてくるシルフィスをレオニスは包み込むように優しく抱きしめる。
「もう私に相談することなく仕事を引き受けてはだめだぞ」
「…はい、」
シルフィスはレオニスに抱きつく腕の力を強め、そのぬくもり、鼓動を全身で感じた。そして再びレオニスが来てくれたことに安堵する。
 

レオニスはセイリオスに命じられた自分の任務のことを簡単にシルフィスに伝えた。
「まあ、今回のことは上様が悪い。初めから二人一緒にお命じになられればよいものを、…困ったお方だ」
ふぅとため息をつくレオニス。
「でも旦那様がきてくれてほんとうによかった…これが上様の言われた万全の対策なのですね」
シルフィスが顔を上げてレオニスに向けてにっこりと微笑む。
レオニスはそのシルフィスの姿をじっとみつめた。シルフィスは綺麗な色鮮やかな着物を着せられ、薄くだが化粧も施されていた。唇にひかれた紅。着物は少し着崩れたようになっていて襟元が開かれ白い首筋が覗いている。長い金の髪はおろされ、その首筋から肩にかけ滑りおちる。その美しさ、艶めかしさに普段は少し幼い様子のシルフィスしか知らないレオニスは目眩を感じた。
シルフィスは黙って自分をみつめるレオニスの視線に気づいて照れて赤くなる。
「…恥ずかしいからそんなに見つめないでください」
そう言って開いた襟元をよせようとするシルフィスの手を取るとレオニスはその甲に優しくくちづけた。そしてもう一度シルフィスをみつめ微笑む。
「仕事とはいえ、こうしてゆっくり二人きりになるのも久しぶりだな…」
「え…はい…」
シルフィスはレオニスのその熱っぽい瞳に甘い予感を感じ、さらに顔を赤くして恥ずかしげに俯く。レオニスはシルフィスの顎に手をかけ上をむかせた。シルフィスはゆっくりと瞳を閉じる。そしてレオニスはゆっくりとシルフィスの赤い唇に自分のそれを重ねあわせた。
「んっ…」
レオニスの舌が唇の隙間から侵入してくる、シルフィスは舌を絡らめとられ甘く濃厚なくちづけにうっとりとした。くちづけの合間にレオニスはシルフィスの着物の帯に手をかけ結び目を解いていく。シルフィスは黙ってレオニスのされるままにしていた。一枚一枚ゆっくりと着ているものを剥ぎ取られ、それがぱさりと床に落ちる。レオニスはその上にシルフィスをそっと横たわらせた。はだけた最後の1枚の着物のあわせに手を滑りこませ、まず柔らかな胸のふくらみを探り手のひらで包み込む。ちょうどレオニスの手に包み込まれてしまう大きさのそれを優しくまさぐった。
「んんっ…はあっ…旦那さまぁ…」
レオニスの愛撫にしだいにシルフィスの白磁のような肌がうっすら桜色に染まっていく。
熱を帯びてくるシルフィスの身体、それと重なり合うレオニスの身体も熱くなってくる。
そしてレオニスは十分シルフィスの身体中を愛したあと、シルフィスの蜜であふれた中心に熱をもちたかぶった自身をあてがい沈めていった。
「ふぁっっ…んくぅ」
シルフィスの締め付けにレオニスに心地よい快楽がはしる。
今まで何度かレオニスはこのような遊女屋にきたことはあった。その時のレオニスにとって女を抱くことはただ快楽を満たすだけの行為でしかなかった。だが初めてシルフィスを抱いたとき、レオニスは快楽を得ると同時に肌をあわせる心地よさ、心が満たされるのを感じた。あたたかく滑らかな白い肌、艶やかな唇から漏れる甘い吐息、腕の中で初めての行為に微かに震えながら自分をみつめる涙と熱で潤んだ翡翠の瞳。それはもう手放すことができない愛しい存在。絶対他の男には触れさせない…
「愛している…シルフィス…」
そう言ってシルフィスにくちづけると、レオニスは深くシルフィスに腰を沈める。
「ぁぁっ…旦那さまっ…私も、愛してます…」
肌を重ね、互いの熱を感じあう。その心地よさに酔いながら二人の夜は更けていった…。
 
 
 

それから約一週間後、無事完了した今回の任務の最終報告にセイリオスの前に参上したのはレオニスだけだった。
「シルフィスは?」
セイリオスが尋ねる。
「屋敷で休ませております。かなり疲れていた様子でしたので」
「そんなに激務だったかな、今回の仕事は?」
「いえ…」
言葉を濁すレオニスにセイリオスは苦笑した。どうやらこの一週間シルフィスは任務もそうだが、もう一つの仕事もきちんとこなしていたようだ…。1週間前はあんなに機嫌の悪かったレオニスも今日は妙に機嫌がいいのもうなずける。
自分が二人のために仕組んだ事とは言え、シルフィスには悪いことをしたかなと思うセイリオスだった。
 
 

おわり
 
 
 


 
作者の言葉

若旦那シリーズでいっす。中途半端な裏ものですな。しかも中途半端にギャグっぽい。
それなのに長い!わけわかりませんね。設定もめちゃくちゃかもしれません。おほほ、その点は笑って許してやってくださいな。結構前から思いついていたシチュエーションなので書きたかったの。ごめんなさ〜い、逃げようっ
 


 
感謝の言葉

逃がすか(がしっ)。
遊女ネタとは来ましたね。ふふふ、いつかは来ると思っていたのですよ、吉原ネタは。見てみたいですね〜〜シルフィスの花魁姿。誰かイラスト描いて貰えないかしら。募集する?
Pekoさんの裏って甘いよね〜。シルフィスが私の書く裏よりも何倍も可愛らしいです。レオニスも何倍もメロメロで、うちのサイトでの裏の女王称号はこの方に贈りますわ。いつもありがとね〜。
 
 
 


 
 

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(裏創作です)
 

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