甘い接吻
〜時代劇浪漫譚妖恋話−其之五之二〜
(Written by 沙月 さま & さわ さま)
「ああん、旦那さまぁ」
うっすらと桜色に染まった白いシルフィスの肌を、レオニスの手が忙しなく這っていた。
「はぁん……」
形の良い胸を撫で上げ、その頂の蕾を口に含む。
「旦那さまぁ……」
シルフィスは熱を帯びた瞳をさまよわせ、焦れたように手を伸ばす。
その手を絡め取り布団に押しつけ、レオニスはゆっくりとシルフィスの中に身を沈める。
そして、次第に激しさを増して突き上げる。
「ああん……ぁはぁ……」
自由な片手の甲を口元に当て、シルフィスは絶え間ない刺激に悶える。
「愛している……シルフィス」
低く甘い声に、シルフィスはびくり、と身を震わせる。
レオニスに与えられるもの全てが快楽に感じていた。
「あぁぁん、旦那さまぁぁ」
今この瞬間だけは任務を忘れ、お互いを愛することに没頭する二人だった。シルフィスが吉原に潜入して3日経つ。
昼は情報収集、夜は通ってくるレオニスに報告、となかなか忙しい毎日である。
「……と、以上が本日の報告です」
レオニスの裸の胸に身を預け、愛し合った余韻でぼーっとする頭を必死で働かせながら、シルフィスは仕事の成果を報告した。
「よくやってくれているな、シルフィス」
レオニスが優しい瞳で彼女を見つめると、シルフィスは頬を染めた。
「嬉しいです……」
はにかんだ表情が可愛くて、レオニスはシルフィスを再び抱きしめる。
「あ……ん、旦那さまぁ」
首筋に息を吹きかけられ、身悶えするシルフィス。
「明日は、少し遅くなるかもしれない」
「そうなのですか?」
顔を曇らせるシルフィスの頬を、レオニスは撫でる。
「そう不安そうな顔をするな。なるべく早く来るようにするから」
「ええ、他の客に抱かれるなんて嫌です」
「もちろん、私もだ」
二人は唇を重ね、再び悦楽の海に身を投じた。
赤い格子の内側で、シルフィスはため息を吐く。
「旦那さま、早く来てくださらないかな」
吉原の夜は更けて、人の通りも多くなった。
客待ちのため赤い格子からは離れることはできないので、シルフィスはなるべく身を縮めて目立たないようにしている。
幸い、俯き加減で顔を隠しているためか、シルフィスに客はなかなかつかなかった。
「早く来てください、旦那さまぁ」
心細さと不安で、シルフィスの心は裂けそうだった。
その時、通りが騒がしくなった。
シルフィスはふと顔を上げる。
「桜華だ、桜華っ」
男が女将を相手に叫んでいた。
背の低く小太りだが、態度はでかい。
「あいすみません。桜華は……」
女将は愛想笑いで男を宥めている。
「あれは……」
シルフィスは男を知っていた。
確か篠田という某藩の江戸家老職を勤める男だ。
この店一番の売れっ子桜華に入れあげて通い詰めているのだが、今日は先に客がついてしまっていた。
篠田は脂ぎった顔を怒らせて、まだ女将に文句を並べていた。
煩い人だなぁ。
そう思いながら事の成り行きを眺めていたとき、ふと篠田はシルフィスに目をとめた。
金髪に翠眼、不安に震える表情は儚げで色気を醸し出していた。
「女将、あの娘は?」
「はい……あ、す、翠玉ですか……」
女将はうろたえている。
レオニスは女将に、シルフィスに他の客がつかないよう言い含めて(脅して?)いたからである。
「ほう、翠玉と申すのか」
シルフィスの姿に目を奪われていた篠田はそんなことには気付かず、値踏みをするような視線を彼女に向ける。
「あ、あの娘は……えーと、まだこちらに来て4日目で……」
「ほう、なかなか器量よしではないか」
じっとりとからみつくような視線をシルフィスに送りながら、篠田はにんまりと笑った。
シルフィスは顔を背け、目をかたく閉じる。
「気に入った。では、女将。今日の相手は……」
「女将、翠玉だ」
低く張りのある声が、篠田の言葉を遮った。
シルフィスは目を開け、待ち人の姿を認めて安堵の息を吐く。
「何?」
篠田は眉をつり上げ振り返る。
しかし、長身から青い瞳が鋭く彼を見下ろしているのを見て、篠田はたじろぐ。
「まあ、旦那さま、いらっしゃいまし」
女将は助かったとばかりに大げさな身振りでレオニスを迎える。
「何か?」
冷たい殺気を含んだ視線を篠田に向けるレオニス。
「べべべ別にっ」
青ざめた顔で、篠田はぶんぶんと顔を横に振った。
「そうか。女将、邪魔するぞ」
座敷に上がったレオニスはシルフィスの手を取る。
「待たせたな」
「ふぇーん、旦那さまぁ」
シルフィスはレオニスに抱きつく。
「遅くなった。明日からは必ず早く来よう。あのような不埒な輩にお前を買わせはしない」
レオニスはシルフィスの肩を抱いて奥へと消えようとする。
我に返った篠田は喚く。
「ち、町人の分際で、武士をないがしろにするとはなんたることっ」
レオニスは肩越しに振り返る。
一層冷たさが増した視線に、篠田は震える。
出かかった言葉が凍り付き、立ちつくすしかない。
「失礼する」
レオニスは何事もなかったかのように、シルフィスを伴って奥へと消えた。
青ざめたまま、立ちつくす篠田は震える声で呟く。
「き、今日はもう帰ろう……」
それが賢明です、と引きつり笑いの女将が言ったとか言わなかったとか。
数日後、某藩の江戸家老が何者かに闇討ちにあい、全治1ヶ月の傷を負ったというかわら版が撒かれた。
もちろん、シルフィスが店に帰ってきてからの話である。
おしまい
感謝の言葉沙月さん初登場です〜。さわさんの原案を、沙月師匠が腕によりをかけて裏にしたものです(笑)。
闇討ちにするところがさすがだわ、若旦那!タダモノじゃないわね(ふふふ)。
まだあといくつかネタがあるみたいです。とっても楽しみ!
沙月さん、さわさん、ありがとう〜〜〜。