三木二寸のあれも言いたいこれも言いたい

おかしいぞ、首相公選制
2001年5月3日憲法記念日


 小泉さんが首相になりました。当初の大方の予想をくつがえして、永田町の論理、派閥の論理をくつがえしての首相への就任です。歴代最高、ダントツの内閣支持率で、国民の期待の高さが表れています。
 その小泉さんが、首相公選制に限って憲法改正をしてはどうか、と言っています。国民の支持によって派閥の論理をくつがえした小泉さんとしては、しごく当然のようにもみえますが、いくつか問題があると思います。

 小泉さんは、改憲派です。改革派ではありますが、例えば民主党のようなハト派の改革ではなくて、集団自衛権の行使は当然、自衛隊は軍隊として認めるべきというタカ派の改革派ですので、国民としても議論の行方を見守る必要があります。護憲派からみると、国民の支持を得やすい首相公選をバネに、最終的には憲法9条の改正を狙うのだろう、という風にみえると思います。

 しかし、ここで言いたいのは、そういう話ではなくて、国の統治形態の議論です。少し社会科の授業のようになって読みにくいでしょうが、主権者の私たちにとってはとても重要なことです。
 民主的な統治形態の世界のスタンダードとしては、大統領制と議院内閣制がありますが、それでは、首相公選制というのは一体何なのでしょうか。 これが、今回の論点です。
(大統領制と議院内閣制については「参考 首相公選制」をごらんください)
 憲法の改正案が出てこなければ分かりませんが、基本の議院内閣制を維持しながら首相を国民の選挙で決めるなら、国会の信任を受けないか、形式的で強制された信任になります。制度的に論理の一貫性が保てなくなります。国民は国会少数党を首相に選ぶかもしれません。国会の意思と首相の意思が違ったらどうするのでしょう。実際問題として起こりうることで、単に理屈だけの話ではありません。

 そんな常識を無視しても、公選制を提案した理由は、容易に想像できます。
 今日本は構造改革を迫られていることは、間違いありません。 改革の方向はいろいろあって、政治家は一様に改革の必要性を言いますが、中身はいろいろで、結局は何も進まないというのが今の政治状況です。 そこで、強いリーダーシップが望まれているのですが、国会で多数の信任を得なければならないこと、首相は組閣の権限をもっているだけで政策決定の権限を持っていないこと、などから、制度的にもリーダーシップの発揮が困難になっています。
 日本の地方自治体は大統領制をとっていますが、首長の強力なリーダーシップのもとで、改革が着々と進んでいる自治体が多数あることは、 議院内閣制の限界を感じさせます。 地方分権議論のうらには、行政サービスにおいて住民の期待に応えてくれる可能性が、 議院内閣制の国より大統領制をとっている自治体の方がはるかに高いという現実感覚があります。
 それでは、国も大統領制をとればよいということになりますが、これは天皇制をとる以上は選択できないと考えられています。 大統領は、国の元首となります。国内では、はっきり言う人は余りいませんが、国際的には、日本の元首は天皇であり、わが国は立憲君主制の国だとされています。
 小泉さんも、首相公選制なら天皇制と矛盾しないと発言していたように記憶しています。一種の疑似大統領制を作ろうという狙いですね。
(天皇が元首かについては「参考 首相公選制」をごらんください)
 それなら、内閣は形式的にも国会の信任によらないという制度かもしれませんね。 閣内における総理大臣の地位を上げて、行政部門の長として大統領並の権限をもたせるという案もあり得ます。 君主にも、議会にも責任をもたない内閣というのは、たぶん世界で始めての形態ではないでしょうか。 小泉さんがどのような案をもっているにしても、首相公選制というのは、国の根幹の統治形態を変えることになりますので、真剣な国民的議論が必要なのです。
 政体を変えるのですから、革命なのです。あなたもどうぞ真剣に考えてくださいね。

 ところで、そもそも、政治家がリーダーシップが発揮できないのは、議院内閣制のせいなのでしょうか。イギリスでは、各政党は政策のパッケージをかかげて選挙に臨みます。国民は、政党の政策を選択するのです。小選挙区制をとっているのは、第一党が議会で多数を占め、任期間にそれを実行できるようにするためです。実行できなければ次の選挙では間違いなく多数党の地位から落ちるのです。当然ながら、同じ政党の候補者は、どの選挙区でも同じ政策を訴えます。党の政策を有権者にアピールできる人が党の候補者に選ばれます。それによって、国民は政策が選択できるのです。
 日本のように、選挙の際に具体的な政策を示さない、当選した後平気で公約を破るような政治家に問題があるのではないでしょうか。
 思い出して下さい。消費税ができたとき、国民は大反対でした。総選挙で、大型間接税は導入しないと公約した政党が勝利しました。首相は、消費税は大型間接税ではないという屁理屈で消費税を導入しました。ところが、困難を乗り越えて消費税を導入した首相は高く評価されたのでした。われわれ国民は全く愚民扱いなのですよ。腹が立ちませんか。消費税が必要だと考えるなら、ちゃんと国民を説得できなければおかしいですよね。それが民主政治ではないのでしょうか。
 最後はつい、愚痴になってしまいました。



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