KissFile
bQ



「・・・・・・・・・・・ゼル。ゼルは・・・・人を好きになったことある?」

 好き。リナの唇からこの言葉が漏れ出てきた時、ゼルガディスは心臓にちくりと痛みが走った・・・ような気がしていた。その痛みからか自然ゼルガディスの返事は虚ろなものになっていた。

「ん?・・・あぁ・・・そりゃ、まあ・・な。」
「あたし・・なんだか、すごく気になる人ができたみたい・・・なの。その・・・・目がね・・・あたしの目がその人のことを追いかけるの・・・それどころか寝ても覚めてもその人のことが気になって・・・それだけじゃないのよ、頭にはその人のコトしか浮かばない。以前だったら、別の町に行く前にそこの美味しい物を事前調査したり、新しい呪文の開発とか、盗賊いぢめのコトとか・・・・他にもいろいろと考える事や、やる事や・・・・・」

 リナの苦しげな言葉尻が細くなっている。よく目を凝らして見ると、瞳に涙を浮かべているようだった。

(―――恋、か。・・・・驚いたな。こいつが恋で泣くとはな。・・・・・まぁ、相手はガウリイだろうが・・・・・)

 驚きと、なぜか沸き起こる少しのやけっぱちな思いとそれ以上の不可思議な胸への痛みを感じながら、ゼルガディスはリナの次の言葉を待った。
 リナの言葉までほんの少しの間だろうが、なんと長く辛い間なのだろう。

(辛い・・・・?一体何が。なぜ俺は辛いなどと・・・)

 ゼルガディスが自問を始めた時、リナの言葉が再開された。

「・・・・そうよ。いろんなことを考える事ができたのよ。それが、それが今では・・・・」
「今では?」

(やめろ!それ以上首をつっこむな、辛いだけだぞ!)

 またも、ゼルガディスは、頭の片隅で自分自身理解不能な言葉を思い浮かべていた。たが、それでも、更にリナの言葉を促していた。当のリナはそんなゼルガディスの葛藤など知る由もなかった。

「その人があたしをどう思っているのか、どう見られているのか。そう考える度に怖くて・・・どうしようもなく怖いのよ。ね?あたしらしくないでしょ?・・・・・・でも、怖くて仕方ないのよ・・・・今の今まで他人の目なんて気にも止めなかったのに。今になって・・・・」

 とうとう、リナの瞳から涙が零れ落ちはじめた。一つ、また一つとリナの膝や、腕に降り注がれている。
 胸に疼痛が走る
―――たまらない―――。
 ゼルガディスには耐えられなかった、リナの泣く姿を見る事も、それ以上に、リナの恋心を耳に入れることが。それがなぜなのか、理由は全く見ないようにして。
 そして、ゼルガディスが次にとった行動は・・・。

「泣くくらいなら・・・根本をどうにかしろ。手っ取り早く・・・そう、言ってしまうことだな。」
「言う?」

 鸚鵡返しにつぶやくリナにゼルガディスはたたみかけるように言葉を・・・・・投げつけた。

「そうだ。そいつに言え、お前さんの抱えてるものを。言ってしまえ。らしくないとわかってるなら尚更だ!」

 ゼルガディスの表情が僅かに曇っていた。
 だが、リナは自分の思いを口にするので精一杯だったようで、ゼルガディスの表情にもましてや、声音にある種の感情が混在しているのに気づくはずもなかった。今は、ただただゼルガディスの言葉を聞くだけで精一杯のようだった。

「・・・・言う?」
「ああ。それが1番だ。お前もわかってるんだろうが!・・・・・・俺が言えるのはこれだけだ。」

 そして、ゼルガディスは早口でまくしたて、そのまま立ちあがるとさっさと部屋を出ていってしまった。一度もリナを振りかえる事なく。
 だから、知らない。リナの辛さ、苦しさ、切なさ、悲しさの入り混じった表情とは別の感情が自分に向けられていたのを。

「・・・・・・言ってしまう?」

 自分の発した言葉に動揺するリナ。だが、ゼルガディスもまたリナと同様、いやそれ以上に心を揺さぶられていたのだ。






―――ドンドン!ドンドンドンッ!!

 いきなり、景気の良すぎるノックが響き渡る。まだ、眠りの淵にいたゼルガディスはたまらず、不機嫌そのもので起床する羽目になっていた。
 結局、彼はあの後、リナのことが気になって中々寝付けなかったのだ。

「ゼルガディスさん!!ちょっと、起きてください!話があるんです!!」
「なんだ?」

 ほおっておくと何時までもどつき倒されること間違い無し!なドアを不機嫌真っ只中のゼルガディスが開く。
 と、そこには、超合金娘のアメリアがたっていた。その表情には薄っすらと怒気が貼りついていた。

「・・・・・ゼルガディスさん。昨日リナに何言ったんですか?!」
「別に何も。お前さんが言った通り話を聞いて、とっとと解決しろ。こう言っただけだ。」
「・・・・・・ということは・・・リナはゼルガディスさん、あなたには何がしかの話しをした。こーゆーことですね!」
「ああ。」

 ゼルガディスの何気ない一言を聞き、アメリアは少し考え込んだ後、ゼルガディスに念押しをした。ゼルガディスはゼルガディスで特に何も感じていないかのような返事である。
 だが、この一言でアメリアには全てが分かったのか、妙に得心顔で口を開いた。

「リナは・・・・好きな人が出来た・・・・そんな事を言ったんじゃないんですか?」
「!!?どうしてそれを・・・・」
「やっぱり。」
「なっ!わかっていたならどうしてわざわざ俺にリナの話しを聞きに行かせた!」

 アメリアの見事な切り口に、さすがのゼルガディスも最初はとても驚いた。
 しかし、さすがは冷静沈着をもってする男だけあってすぐに自分を取り戻したようだ。すぐさま、アメリアに理由を問う。
 が、それはまったく無視されかえってゼルガディスの方が質問される側になっていた。いや、アメリアの剣幕からすると詰問と言ってもよかった。

「で!?ゼルガディスさん。ちゃんと最後まで聞いたんですか?リナの話を。」
「・・あ?・・・あぁ・・って少しは俺の話しを聞け!」
「嘘。ゼルガディスさんさっさと掘り出して逃げてきましたねっ!!・・・・・リナが折角話そうとしていたのに!」
「・・・・」

 アメリアの痛烈な言葉がゼルガディスに突き刺さった。とたん、昨夜の情景が脳裏に浮かぶ。リナの涙を流す姿と、そのときの言葉が繰り返される。
 ぶり返し始める胸の痛み。それを引き剥がすように答えた。誰が見ても・・・・ゼルガディスはムキになっていた。

「俺は話を聞いた!それに対する意見も言った。原因をどうにかしろ、とな。それ以上俺にどうしろと!??」

 そのとたん、深いため息が聞こえた。目の前にいるアメリアの。目前の少女は呆れたような眼差しで彼を見ていた。

「わからないんですか?リナはガウリイさんや、私には何も・・・そう一言も言ってはくれなかったんですよ!!」

 またも深い溜息をつくと、アメリアは視線をゼルガディスから外し、静かに言葉を続ける。

「ゼルガディスさん、本当に・・・・分からないんですか?それに、どうしてゼルガディスさん自身途中で逃げ出すような行動を取ったんですか?その原因を考えたんですか?!」

 ゼルかディスには何も答えられなかった。ただ、あのときのリナの涙と、そのときに感じた胸の痛みで。なんの言葉を発すればいいのか分からなかったのだ。
 そして、アメリアの言葉に促されるままに昨夜もベッドの中で考えあぐねていたことを思っていた。そのとき。

「リナが好きなんでしょう・・・・・・想っているんでしょう?」

 まるで強力な鈍器で殴り倒されたような衝撃を受ける。激しい衝撃。だが、それをなんとか覆い隠して嘲笑ってみせる。だが、ゼルかディスは、そんなことをする事こそが暗黙のうちに肯定していることに気がついていない。

「なっ・・・何を。俺が?誰を?・・・フッ、馬鹿も休み休み・・・」

 ゼルガディスは妙に乾いた返事をするが、アメリアのきつい言葉に遮られる。

「馬鹿はゼルガディスさんですよ!!どうせ、体がどーの、昔のことをどーのってしかつめらしい理由を建前に知らん振りしてるだけじゃないですか!!?」
「お前に・・何が分かる!俺の辛さや屈辱の何が!!!」

 ゼルガディスは、アメリアの言葉に自然と目にも体にも怒りが篭るのがわかった。普通の人間ならほうほうの体で逃げ出していく、そんな目の色だった。しかし、さすがは大国の王女だけあるのか、アメリアはまったく怯む事なく答える。

「分かりません!!自分だけが不幸みたいな顔で、自己陶酔してるような人のコトなんて!
そんな妙なものに陶酔してるくらいなら、もっとリナのことを・・・せめて仲間としてだけでも心配してあげたらどうなんですか!」

 アメリアの言葉はゼルガディスの怒りに油を注いだようだ。ゼルガディスの口から怒号がたたき出されていたからだ。

「誰が自己陶酔してるだと!!!それが頼みごとを叶えてやったものに対して言う事か!!ハッ!!もう、ゴメンだ、朝っぱらから、気分を害されるのはな。大体、俺はもとから仲間なんぞいない、いや、いらん!!何より、そんな暇・・」

――――バシィッッ!!

 痛烈な打撃音が響いた。ゼルガディスの言葉が終わらないうちに。アメリアの平手がゼルガディスを強襲していた。
 岩の肌には蚊ほどにも感じる事などないはずだったのに・・・・なぜか、ゼルガディスは激しい痛みを覚えていた。

「こんなにわからずやだとは思いませんでした・・・・・リナはあんなに一生懸命になってたのに。ゼルガディスさんのことを心配して―――想っているのに。
 いつも違う町に入るたびにゼルガディスさんの為にいろいろな資料やら文献を一生懸命探していたのに。『一緒に旅してる仲間だから。』って・・・・・でも、リナは・・・・そんなリナの一生懸命が、一途さがこんなに冷たい人のためだったなんて!!!」

 アメリアはゼルガディスを切り裂くような激しい眼差しをくれると、そのまま踵を返し、ゼルガディスの前から立ち去って行った。
 残されたゼルガディスの脳裏にアメリアの言葉が割れ鐘のように響き渡っていた。


File bR へ。


前回の続き・・・なんですが・・・・・。
見事、『必殺!!!ありがちネタ!!あ〜んど展開!!(滅殺)』となって参りました。
なんともはや・・・・。

しかし、リナも、アメリアも別人になっちまったざんす。いくら、原作版アメリアを引っ張ってきたからって・・・・・。
あまりにヒドイな。こりゃ。
でも一番の問題は・・・・全然激甘じゃない!!とゆーことだな。
ほんと、期待してくれていた方がいらっしゃるかどうかはわかりませんが・・・・本当にご期待に添えず申し訳ありません。次こそ、激甘ってゆーのに挑戦できるようがんばりますです。
それでは、心やさしいお方。次回もお付き合いいただければ幸いです。

 三下管理人 きょん太拝


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