Red Zone

後編


 しかし、そんな心地よさもガーヴの言葉が一瞬で粉砕してしまう。不遜極まる言葉に魔王はカッと目を見開く。そこには怒りとも悲しみ

ともつかぬ色があった。



「馬鹿者!
 私を誰だと思っている!
 お前の主、王だぞ!?
 その王をなぞと・・・・一体何を?!・・・・」



 動揺していた。
 魔王は己の手足たるモノのただ一言で内心慌てふためいていた。後から思えば大笑いできるほどに。
 その時には、彼自身気がついていなかったが、その目に、頬に、表情に動揺の気がありありと浮んでいたのだ。
 その時だった。
 彼を見つめていた碧の瞳が揺らいだ。



「ぶ・・・・・・。」
「ぶ?」



 そして、爆発した。



「ぶわははははははははははははははっ!!
 あーーーーーっはははははははっ!!
 クッククククククククククククククククッ!!
 ひーーーーーっひっひっひっひっひっ・・・・・・・・。」
「?!」



 目の前で捲き起こる大爆笑。
 爆笑しているのは緑眼の魔竜王。彼らしい豪快な笑い声が広間に広がっていく。
 いきなりの事で、その様子を魔王はしばらくの間呆然と眺めていたが、我にかえるや、彼に負けず大爆発した。



「・・・・こ・・・この・・・くぉぉぉぉら!!
 ガーヴッッ!!
 笑うのをやめんかぁぁぁぁっ!!」
「くくくくっ・・・・・・・
 可笑しいったらねえな!!
 俺があんたを?
 くっくくくくく・・・・・・・ひっひっひっひっ・・・・・く、苦しい・・・・・・クククククク!。」



 終いには、椅子から転げ落ち床の上で笑い転げていたガーヴは、目に涙を溜めてその場に座り込むと、己が主を見上げた。そこには、怒

りに顔を真っ赤にした王が仁王立ちでガーヴを睨みつけている。



「お、俺が言ったのは、あんたの世話係のイレーヌの事だったんだが?・・・・・くっくっくっ。
 あんた、まさか・・・自分だとでも思ったのか?」
「なっ!何を馬鹿なっ!?
 だ、大体あんな場面でそんなことを言われれば・・・・・・誰だって誤解するっ!!?お前の素行が素行だけになっ!!?
 言っておくが私はお前のような悪食とは違うぞ!!」



 魔王は言葉を連発した。なぜこんなにもくだくだと言い訳めいた事を言っているのか自分で自分がわからなくなるくらいに。
 気づけば、魔王は、顔を茹蛸のように真っ赤にし、言葉の端々も妖しいほどに甲高かくて・・・目の前にしているガーヴでなくともから

かいたくなる姿だった。



「いやぁ・・・・以外だったなぁ?。
 あんたに、そっちの気があったとは・・・・・それもアッチ系だとは・・・・・これはこれは・・・くくくくっ!」
「おお、お、お前と一緒にするなっ!!
 私にはそんな趣味はないっ!!」
「ほーそうかい?
 じゃあなんで、顔が赤いのかなぁ?
 ほれ、なんてったか・・・海に住んでるアレ。アレにそっくりだぞ(ニヤリ)。
 ・・・・・おお、そうそう、蛸だ。それも茹蛸!!」



 言いたい放題のあと、ガーヴはまたも堪えきれない笑いを大いに発散させていた。
 魔王はもう、顔だけに止まらず全身、真っ赤に染まりきっていた。おそらく、怒りと羞恥の両方だったろう。
 なんせ、認めたくは無かったが、ガーヴの言う通りバッチリ勘違いしていたのだから。
 魔王は、プライドに突き刺さる爆笑をなんとか止めようと、今だに爆笑しつつコロコロと床を転げまわるガーヴの腕を掴もうと腕を伸ば

す。が、逆にその腕をがっちりと掴み返されていた。魔王の目が驚きに見開かれる。
 ガーヴは笑い転げているだけで、隙だらけだとしか思えなかったから。



「!?」
「なあ、あんた・・・・誤解ついでに、趣味になるかならないか。いっちょ、試してみないか?」



 ガーヴの楽しげな色の目に何か別のモノが浮んでいた。
 捕まれた魔王の腕にさらに強い力が篭る。と、同時に魔王の天地がひっくり返され、のしかかってきた緑の瞳が彼を、彼だけを写し取っ

ていた。



「ガーヴ・・・・お前、ほんっっっとうにっ!!
 最低最悪の見境無しな悪食だな!!?」
「フン!
 その最低最悪の見境ナシな悪食を、わざわざあんたが創ったんだろうが。」
「そこだ!問題は!!
 なぜだ!?
 どうして、品行方正な私が創ったのに、お前のようなのが・・・?」



 緋の唇が底無しの呆れを吐き出していた。その一部は己へのものだったろうが。
 だがガーヴはというと―――鼻で笑い飛ばしてピリオドを打っていた。



「あんたが品行方正ねぇ・・・・・・?」
「何が言いたいのだ?ガーヴ。」
「いーや、なぁんにも。
 それからな、『見境無し』なんて無粋な言い方はやめてもらいたいんだがな?」
「実際その通りだろうが!?」
「ハンッ!せめて、こう言って欲しいね。
 『食わず嫌いじゃない』ってな!」



 何時の間にか、ガーヴは指先で魔王の細い顎を捉えている。
 ゆっくりと、魔性の碧と血の赤が消える。
 後には緋の絨毯が広がっていた。


 そして、真の―――夜の帳が二人の上に沁み込んでいった。


【激烈中途半端で終/死】


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ひとこと。

これは、親愛なるねこまたさんに献上させていただきました!!