ぜるがでぃすくんのつぶやき
結婚式編


こうして俺は『非・爽やかな早朝』の目覚めからこの方、水の一滴すら口にできずじまいのまま、神父と神像の前に立たされたのだ。
・・・言わずもがなだが、この頃の俺は空腹と緊張のあまり心身共にフラフラになっていた。
よく空腹で日干しになってたガウリィの旦那の気持ちがよく解った時だった。
だ・と・い・う・の・にっっっ!!
そんなハングリーな俺に、今度は下半身をハングリーにさせる難関がやってきた!!

その難関とは!!
そのぅ・・・アレだ!アレ!

ち・・ちち・・・ち・・・『誓いのキス』・・のことだ(////)。


厳か且つ順調に、進行する式。
澱みなく流れていく神父の御託。
隣には、プロポーズしてから毎晩(?!)夢にまで見たリナの・・・リナの・・・初々しくも美しい花嫁姿。今夜が楽しみだな、ムスコよ。とアソコのハングリー精神をも刺激されつつ、俺はリナの指に指輪を通し、リナも俺の指にはめてくれる。ウーム、マンダム。(意味不明)

(フッ・・・これでようやく俺だけのものに/ ̄ー ̄)


ウム、ここまではいい。ここまでは!!
非常に素晴らしい。完璧だ。
リナの美しさはまるで絵画のようだ!!
あまりの完璧振りに、さしもの俺も『結婚式もいいもんだ・・・。』などと感動してしまったほどだ。
だが、その後の―――


『さあ、では“誓いのキス”を。』


ここだ、この部分だぁぁぁっ!!
(ああ、今思い出しても恥ずかしさで眩暈がしそうだ・・・。)


どこから涌いてでたのか、子泣きジジイよろしく、背後一面に広がる黒山の人だかり。
ひしめく野次馬、野次牛(?)、野次魔族(?!)、さらに、リナに振られた負け犬どもが視線の降り注ぐ只中。
いくらお決まり事とは言え人前で・・キ・・キキ・・・・キキキキ・・キス(////)しなければならんとはぁぁっ!!
くそぅぅぅっ!!
二人きりなら可愛らしいのなんてフッ飛ばして、一気に深くて濃ゆくて熱〜〜〜〜いのを好き放題ヤッてやるんだが・・・・・って、待て俺!!
何を言ってる?!
キャラクターが変わってるぞ!!
俺のモットーがぁぁっ!!

・・・・ああきっと、疲労のせいで一次的に錯乱してるんだ。
そうだ、そうに違いない!!
俺は、俺は・・・すでに精神力と体力を使い果たしてしまったのだ・・・
だが、その疲労以上に―――


ああ、腹が減った・・・。


『どぉぉして、おっなかっが、へっるのっかな?
〜〜〜 以下略 〜〜〜
おっなかっと、せっなかっが、くっつくよ♪』


などという歌詞が含まれる童謡が、今、俺の頭にエンドレスで鳴り響いている。
この歌詞・・・俺の今現在の腹具合をバッチリ表現している。感動的なほどにな。
子供の頃、初めて聞いた時は感動どころか、

『腹と背がくっつく?
・・・バカか。
内臓があるだろうが!
くっつけるなら、中身を挽肉にでもして腹の底にでも固めんと無理だろう。
そんな器用な芸当のできる人間がいるものか!
そんなことできるのは、ミイラくらいのもんだろうな。
・・・・いや待て。
アレは内臓を取り除くから基本的に空腹なんぞ感じんだろう、それに死人だから飯はいらんな。』

などと、子供とは到底思えんグロイことを言って、せせら笑っていたものだ。
だが、オトナになってからその意味を実感するとはな。
皮肉なもんだ・・・・。



うーーむ、ここまで冷静な思考が維持できなくなってきたとは、俺もヤキがまわったか?
などと怒涛の一日を思い返しつつ、俺はリナと歯茎も痙攣しそうなほど甘い新婚生活を送るであろう新居にリナと共に一歩を進めた。
家に入るなり、リナは香茶を入れると台所に消え、俺は披露困憊の体を居間のソファになだれ込ませた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・。」


そして盛大に漏れるため息。
自分のため息の深さに、呆れかえってしまうな。
空腹如きで呆けるとは、我ながら情け無い。
昔の――1ヶ月間飲まず食わずでも尚、『クール』を保ちつづけていた俺は何処に?ってなものだ。
・・・まあ、日頃から『クール』をモットーにしているから、何も知らん奴には、ただ人生の苦悩に咽ぶ哀愁漂う姿に見えるだろうってのが救いだな・・。


などと自分を慰めていた時、ふと、脇にある鏡に目が止まった。
その鏡には当然のコトながら、俺が映っている。

力なく肩を落とした姿。
疲労感丸出しな目の色。
その目の下の妖しく目立つクマがこれまた・・・

!!?ク、クマ?!

って、これが俺か!!!??
ま、ままま、まるで、人生に疲れ果てた中年オヤジのようじゃないか。
新婚ホヤホヤだというのに!!
ああ、なんという哀れな姿。
鏡に映る俺は哀愁に満ち満ちている。

と、瞬間、脳裏に昼間俺の目を釘付けにさせた華麗なウエディングドレスを纏ったリナの姿が浮び、その彼女の声が鳴り響いた。


『食事はすっごーーーーく、重要なのよっっ!!
生物にはエネル源が必要なの!!
だからゼルもカッコつけてないで食べなさいよっ!!
折角、こんなにたっくさんv用意してくれたんだから。それに食べないと倒れてしまうわよ!!』


ああ、その言葉・・・・今なら・・・今なら身をもって理解できるぞ、リナ。
今、俺は思い知らされている。
俺の腹に走る、チクチクとした痛みが証明だ。
リナ・・お前の言う事は正しかった・・・
だがしかし・・・空腹にしては鳩尾辺りがやけに痛むぞ。
この辺りは胃だが・・・まさか・・・・胃酸が大放出されてるんじゃ・・・神経性胃潰瘍か?!
ふーーむ。
披露宴でのストレスは10年分くらいのものだったから・・・・
・・・いや!!違う、違うぞ!!
この苦痛は潰瘍なんかとは違う!
違うとはっきり言える!
いや、言わねばならん!!!
なぜならば!


結婚式当日。
それもウレシハズカシな『初夜』(←ここがポイントだ)を目の前にして、神経性胃潰瘍で病院送り―――


なんてことになったら、今まで据え膳食わずにいた俺の努力は水の泡・・・ではなくて、リナ本人はともかく、他のヤツラになんと言われるか(-_-;)
そうとも!この痛みは空腹のせいだ、絶対に!!

・・・ということで、今の俺は絶対に!!何がナンでも飢餓状態に突入している―――ということにさせてもらおう。
限界を遥かに超えた飢餓の所為で『腹のムシ』も泣けん状態になってきたようだしな。

ああ、こんな時は『クールな魔剣士』とゆー、自分のモットーが恨めしい。これさえなければ―――ただの腹痛だったなら、こっそり薬を飲んでノープロブレムに変換!!
そして、俺のモットーを貫く!!

とゆー完璧なる構図に持ち込めただろうし、披露宴の貴重な食い物をガウリイの餌付けに使われても鼻で笑って終わらせていただろうに・・・。
だが、現実(空腹)は――たとえ『クールな魔剣士』と言われる俺もしょせんは生物だからして、こんな人生最大の一大事に・・というか、こんな時だからこそ、兵糧攻めは余計にツライ。
こんなことなら・・・こんなことなら、『披露宴』で並べられたエネル源を口にしておけばよかった・・・。
宴にはそれはそれは、美味そうな食い物が鈴なりだったのに。
俺への苦難も鈴なりだったが。

そこで、俺はまたもや苦難鈴なりだった『披露宴』を思い返していた。


(続く 2007.2.24)


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