約束の地 |
君こそが私の 永遠の約束の地。 |
初めて会った時は、やっかいな子どもだと思った。 もちろん自分が子どもに好かれるタイプではないのは、重々承知していたが。 「はじめまして、エアリス」 似合わない笑顔をはりつけて、優しく少女にかがんだ。 返される拒絶の瞳に、自分としたことが一瞬ひるんだ。 鮮やかな碧の瞳。 美しい、だが人形のように無機質なものではない、生命の力に溢れる瞳。 少女は私を拒み続け、私も結局「優しいお兄さん」の仮面を早々に脱ぎ捨てた。 私は好むと好まざるとによらず、エアリスの監視の任のため、彼女のもとへたびたび通った。 初めて会った時は、まだ幼い少女だったのに。 春と夏と秋と冬。いくつものそれが巡るうち、彼女はいつの間にか一人の女性になっていった。 それでも、その瞳の純粋な力は失うことなく。 いつから彼女に惹かれていたのかは分からない。 神も何も信じてはいない私だったが、エアリスを見ていると、そういうものもあるいはあるかもしれないという錯覚が起こる。 エアリスを包む空気は優しい。この濁った世界で、彼女はなにものにもおかされ難く輝いていた。花も風も、動物も、エアリスを愛していた。それはまるで奇跡のようで。 ずっと見ていた。彼女を、ずっと見つめていた。 彼女の悲しみ、彼女の痛み、彼女の喜び、彼女の淡い恋・・・。 巡る季節、過ぎていく時間。 いつも、君を見ていた。 強さも弱さも。泣き顔も。怒った顔も。日だまりのような笑顔も。 ずっと、見てきた。 ・・・・・・ずっと、愛していた。 君は知らないが、君が私の名を呼ぶ時、君が私を見る時、うぶな少年のように胸の奥が震えた。 ・・・この、私が・・・。 「―約束の地、あなたたちが考えてるのと違うもの」 エアリスの声に、意識が覚醒する。 かすんで見える、彼女の後ろ姿。 「それに、わたし、協力なんてしないから。・・・どっちにしても神羅に勝ち目はなかったのよ」 「・・・きびしいな」 笑みが、漏れた。 「エアリス・・・らしい・・・言葉だ」 息が苦しい。 なぜか、苦笑が込み上げてくる。 死ぬのか。 私は、死ぬんだな・・・。 「泣いているのか」 クラウドの声。それに私は顔を上げた。 エアリスの肩が震えている。 「・・・ツォンはタークスで敵だけど、子どものころから知ってる。わたし、そういう人、少ないから。世界中、ほんの少ししかいない。わたしのこと、知ってる人・・・」 「・・・・・・」 「それに・・・」 エアリスは私に近寄った。 怒ったような、ひどく悲しいような、エアリスの表情。 「・・・・・・わたしには、優しい時もあった」 「君が、古代種だったからだ」 泣かないでくれ、エアリス。 私は、君がほんの少しも心を痛めてやるような人間ではない。 「・・・任務だった、それだけだ」 愛している。 愛しているよ、エアリス。 「君を、個人として、見たことは・・・一度もない・・・」 エアリスは私の言葉に、一瞬傷ついたように顔を曇らせた。 そのエアリスの肩を、クラウドが抱く。 私は目を閉ざした。 君を、愛している。 かろやかな彼女の心に、かすかなしこりにもなりたくなかった。ほんのわずかも、彼女を悲しませたくない。 それくらいなら、私など、忘れ去られるほうがよかった。 「・・・ツォン・・・」 声が聞こえた。 それは今かけられた声か、それとも過去の少女の声か分からない。 「私は・・・まだ、生きている・・・」 悲しみも苦しみも、彼女を避けていけばいい。 幸せになってほしい。 私は重いまぶたをむりやり開けた。 すぐそばのエアリスの姿を、暗い視界は捉えられない。 けれど、私には見えた。 エアリスの、花のような笑顔が。 ・・・・・・ああ。やはり、綺麗だ。 私は幸せなのだと思う。 もう何も考えなくていいのだ。 エアリスのことだけを、ただ彼女のことだけを想っていればいい。 君の夢を見よう。 私は、小さく笑った。身体が重かった。沈んでいきそうだ。だが、痛みは遠のいていく。 永遠に、君の夢を・・・。 エアリス。 ずっと見ていた。君だけを見ていた。 君が呼ぶ声が聞こえる。 本当は、初めて会った時から分かっていた。 君は私の、永遠の約束の地・・・・・・ |
END