Courtship〜求愛〜

 レオニスはじっと剣をみつめた。
 王と王妃より拝領した剣。華美な装飾を嫌うレオニスを思ってのことではないだろうか、それは見かけはごく質素なものだ。
 しかしその剣を持てば、多少目がきく者はそれがたぐいまれな名剣であることがわかるだろう。レオニスはこの剣をふるい、王国の幾多の敵を倒してきた。
「・・・・・・・・」
「レオニス・・・」
 背後からかけられた声に、レオニスは振り向いた。
 想いとは別に、毎日は進む。
 表面的には、いつも通りの朝だった。
 騎士団宿舎に向かうレオニスに、メイは上着を差し出す。
「どうかしたの?」
 メイの声に、かすかな不安の色がにじむ。以前ならば何とも思わないだろうことが、すぐに気になってしまう。不安の大きさに、過敏に反応してしまうメイをいたわるようにレオニスは優しく笑って見せる。
 静かにかぶりを振った。
「なんでもない」
 言って、手にしていた剣を腰に下げる。
 そして、メイから上着を受け取った。
「ありがとう」
「行ってらっしゃい」
 メイは、明るく笑って言った。それでも、レオニスには彼女の瞳に大きく揺れる不安や恐れが分かった。
 ある決意は、すでに固かった。そして今、そう決めたことを決して後悔しないだろうと強く思えた。
「行ってくる。・・・・・・メイ」
「え・・・」
 突然降りてきた静かな――だが、なぜかどこか強さを感じさせるキスに、メイは言葉を途切れさせる。
 そして、しっかりとした抱擁に、メイは戸惑った。
「レオニス・・・?」
「お前は何も心配しなくていい」
 レオニスの声は静かで、そして強かった。
 ゆっくりメイを離し、そして少し笑う。
「では、行ってくる」
「う、うん・・・」
 戸惑ったまま頷くメイを残して、レオニスは屋敷を出た。




 どうすればいいんだろう?
 どうすればいいんだろう。
 何度も何度も自分の中で繰り返した言葉。
 メイはそして、軽く頭を振った。
「ぐしぐし悩むのは、あたしの性分じゃなかったはずでしょ」
 明るく、言ってみようとする。
 けれどそれは成功したとは言えなかった。最後のほうが、かすれてしまう。
 メイは小さく息をつくと、ソファーに座った。
 今朝家を出るときのレオニスを想った。
 どこか、上手く言えないが様子が違っていた。
「レオニス・・・・・」
 呟いて、キュッと唇を噛んだ。その名を言っただけで、涙が出そうだった。
 いったい自分は、どうしたというんだろう。
 自分はこんなに泣き虫じゃなかったはずだ。
 メイはバッと立ち上がった。
「今日は、シオンのとこ行くつもりだったんだ」
 自分が災厄の原因ではないと出ているという希望はもうもてなかったが。
「何か、良い方法が見つかるかもしれないもんね」
 自分を励ますように、口に出して言う。
 そして、メイは自分の上着を着ると屋敷を出た。

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