The knight's heart





You are my only princess.

You are my only fate.



My heart is your one.
I am the knight who defends you forever
.






      
 学校が終わり、帰宅する生徒たちが次々と校舎から出てくる。
 校門の外に、そんな彼女たち―ここは女子高なので―の姿を見ている一人の男子高校生の姿があった。校門の門柱に肩を預けている。
 その180センチは越えているだろうすらりとした長身は、遠目からでも目立った。
 たとえ人ごみであっても、すれ違う誰もが振り返るだろう秀麗な顔。しかし鋭い眉と口元、陽にやけた色が彼を軟弱には見せない。ハンサムの形容がこれほど似合う者は珍しいだろう。
 女生徒たちはある者は耳まで赤くなって顔を伏せ、あるいは思慕や同情の目でちらちらとその整った顔を盗み見ながら彼の傍らを通り過ぎていく。
「・・・煉君、今日も来てるね」
「・・・うん」
 ひそひそと、ささやきが漏れる。
 彼はそれが聞こえるのか聞こえないのか、全く表情を動かさなかった。
 彼の名は藤原煉(れん)。今年で17になった。
 いくつもの有名校からスカウトされたバスケットプレーヤーだが、その全てを断って地元の公立高校に通っている。その高校では、創立以来3人目の東大合格者になると、彼に期待を寄せていた。全国区の模試で必ずトップ100に入る彼ならば、それも現実的なことだった。さらにつけ加えると、すでに空手と剣道では有段者だ。
 眉目秀麗。文武両道。
 天から二物どころか三物も四物も与えられ、未来も明るく幸福なはずの彼だったが、その目は暗かった。
 3年前、彼の姉の芽衣が行方不明になったのだ。
 完璧に全てを兼ね備えたかのような煉だが、唯一彼には大きな欠点があった。極度の姉想いなのである。煉はそれを欠点と思わず、恥じる所も隠すつもりもなく公然と「芽衣が姉貴じゃなかったら、恋人にしている」と言っていたほどだった。
 そんな煉にとって、当然受けたショックは大きかった。
 寝食も忘れたように、心当たりの場所を駆けずり回った。芽衣に似た姿を見かけたと情報が入れば、どこへでも行った。
 捜して捜して、捜して・・・・・・。
 それでも、姉は見つからなかった。
 ・・・やがて、全てが何もなかったかのように回り始めた。生活は止まってはくれない。煉も芽衣の友人たちも、世間も、毎日を生きていかなくてはならないのだ。
 しかし変わってしまったこともある。
 煉は学校の帰り、必ずこの―姉が学校を出たであろう時間、ここで陽が落ちるまで待っているようになった。
 雨の日も、真冬の雪の中も、それこそ嵐の日も。毎日、帰らない芽衣を待っていた。それが2年近く続いている。
 ほとんどの者―大半は女性―はそれを同情の目で見ていたが、一部の者―その全部が男―は呆れと多少の嘲笑を向けていた。「まるで忠犬だな」、と。だが煉にとって、そんな程度の低い者たちの言うことは気にする価値さえないことだった。
 校舎を出てくる生徒の数は、まばらになっていく。
 そしてやがて途切れた。
 夕日が、煉の横顔を染めていた。
「・・・・・・・・・」
 今にも姉が現れるのではないかという祈りに似た期待は、やがて疲れを伴ったあきらめへと変化する。
 今日も芽衣は帰ってこなかった。
「・・・・・・クソッ」
 小さく毒づいて、煉は校門の門柱を殴りつけた。そのまま、顔を伏せる。門柱に押しつけられた拳が、小さく震えていた。
 煉は芽衣が自分から姿を消したとは絶対に思えなかった。煉は姉のことをよく分かっている。何があろうと自分に黙って姿を消すことはありえない。
 何かに巻き込まれたとしか考えられなかった。
 激しい後悔が、いつも煉の胸にあった。芽衣がいなくなった日、どうして自分は彼女を迎えに行かなかったのか。
 煉はその日、クラブの試合に出場していて地方に行っていたのだった。
 芽衣がその日行方不明になることを分かるわけもなく、どうしようもないことだったのだが、煉にはそう割り切ることはできなかった。
 芽衣は助けを求めたかもしれない。いや、きっと自分を呼んだに違いないのだ。
 なぜその時に、姉を助けてやれる場所にいなかったのか・・・!
「・・・・・・・芽衣」
 どこにいる?
 煉はぎゅっと眉を寄せると、空を仰いだ。
 今こうしている間にも、芽衣が辛い想いをしているのではないかと胸が痛む。彼女の身が心配で、頭がどうにかなりそうだった。雨に打たれているのではないか、寒さに震えているのではないか。酷い目にあってはいないか。・・・一人で泣いていないか。
 居場所が分かれば・・・・・・。
「・・・どこだろうと、俺が助けに行くのに・・・」
 キィン、と空気が震えた。
 激しい頭痛が煉を襲う。
「―なっ・・・」
 何だ、これは。
 煉の足からがくりと力が抜ける。煉は片膝を地面についた。
 目を開けていられないほどの、眩い光が煉を包んだ。

      




NEXT