| 祈り U |
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| メイはそっと息をついた。 美しいアンヘル族の親友は、それを見落としはしなかった。 「退屈させてしまいましたか?」 申し訳なさそうに言うシルフィスに、あわてたようにメイは首を振った。 「全然! ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって」 シルフィスを誘ったのはメイである。 買い物とお茶。 本当はディアーナも誘ったのだが、出がけにセイリオスに見つかって止められてしまったのだ。 「せっかくの休暇使わせたのに、ごめんね〜」 「いいんですよ」 シルフィスはにっこりと微笑む。どうせシルフィス自身、休暇を持て余していた所だった。メイに誘われなければ、騎士団宿舎で自主練習でもしているつもりだったのだ。 「姫も一緒でしたら、もっと楽しかったでしょうね」 「うん」 メイはレオニスと暮らすようになってから、遊ぶと言えば、メンバーはいつもシルフィスかディアーナ、そして両方一緒かだった。 たまにセイリオスやシオン、キールたちの所にも顔を出しに行くことはあるが、こんなふうに一緒にどこかに遊びに出るということはない。 レオニスが休暇の時はもちろん彼と過ごすわけだが、まさか仕事中のレオニス執務室に1日中入り浸るわけにもいかなかった。 シルフィスにしても数少ない親しい友人であるメイと外出することは、楽しい時間でもあった。 結果、シルフィスの休暇の日はメイと過ごす日が多くなる。 目の前のお互いのカップが空になってから、シルフィスは言った。 「出ましょうか?」 「うん。そだね」 メイは頷いて立ち上がる。 「広場の方に行ってみようか」 言いながら、喫茶店を出た。 道に面した店を覗きながら、メイとシルフィスは広場の方へ向かう。 シルフィスは楽しげに話すメイの様子を見、安心した。 先ほど喫茶店で、一瞬メイが元気がないと感じたのは自分の気のせいだったようだ。 広場につくと、家族連れやカップルでにぎわっていた。 天気が良いせいだろう。これほど快晴なのは久しぶりだ。 「いいですね、こういうの」 シルフィスは、傍らを走る抜けた元気な子どもたちを見送りながら微笑んだ。 メイは少し悲しげに、うん、と頷いた。 メイは今幸せだった。けれど、きっとこの人たちも幸せに違いない。 幸せでいたいのは誰でも同じだ。 一人の幸福とたくさんの人の幸福なら・・・・・・。 「どっちが大切か、決まってるよね・・・」 「メイ?」 「え? ああ、何でもない!」 メイは明るく首を振った。 ぐじぐじと悩むのは、自分らしくない。 もし自分が原因なら、そうと分かった時にまた考えればいいのだ。 メイはふと目にとまった、噴水の向こうにできた人だかりの方へ駆け出した。 「ね、シルフィス、行ってみようよ!」 「あ、え、ええ」 半ばひっぱられるようにして、シルフィスもメイの後を追う。 メイとシルフィスがその人だかりの中を縫っていこうとした時、さあっと人の壁が割れた。 メイは驚いたが、さらに集まっている人たちの自分に向ける目に足を凍らせる。 不穏な空気を読み取って、シルフィスはすっとメイを自分の背にかばった。 「何なのですか」 「その娘が、厄災の原因だ」 人垣の中心にいた男が、指さした。その目は、シルフィスを通り越してメイへと向けられていた。 シルフィスはムッとする。 「何を馬鹿なことを!」 「真実だ。私は魔導士にして占術士でもある。その娘をそのままにしておくと、さらなる破滅がこの世界を覆うだろう!」 胸を切り裂く言葉。 まだはっきりと自分がそうだと決まったわけではない。しかし自分ではないと否定することもメイはできなかった。メイ自身、分からなかったからだ。 「私は確かに見たのだ、破滅の中心にその娘を―」 「黙れ!」 シルフィスが、男の言葉を切り捨てる。 メイは耐え切れず、踵を返すと来た方向に駆け出した。 |