determination

 レオニスはふと目を覚ました。
 傍らで眠るメイが、何かにうなされている。
 レオニスは、彼女を起こすべきかどうかためらった。だが、メイの唇が何かを求めるようにかすかに動いた時、レオニスは彼女に手を伸ばした。
 しかしその手がメイに触れられる前に、
「―っ!」
 がばり、とメイは起き上がった。
 息が上がっている。彼女の、レオニスにとってはどこまでも華奢に思える肩が、荒く上下していた。
 レオニスは、そんなメイの頭に手を伸ばした。髪を、慈しむように撫でる。
「メイ、どうした?」
「・・・・・・」
 レオニスを振り向いたメイの顔は、こわばっている。
 レオニスも身を起こした。幼い子どもにするように、彼女の額に自分の額をそっと寄せる。
「メイ? 悪い夢でも見たのか?」
「・・・・・・大丈夫」
「大丈夫という顔色ではないな」
 レオニスは言って、恋人を胸に抱き寄せた。
 肌から伝わる、微かな彼女の震え。
「? ・・・・・・震えているな」
 いったい、どうしたのか、と思う。
 たとえ悪い夢を見たのだとしても、メイの怯えようは異常だった。
 少し身を離すと、メイの顔をのぞき込む。
「レオニス・・・あたし」
 メイの言葉は揺れてとぎれる。
 レオニスはメイをせかそうとはしなかった。
 ただ、メイを見つめる。
 長い沈黙が流れた。
 何か思っていたらしいメイの横顔が、さっと青ざめる。
「メイ・・・」
 反応を返さないメイの肩を、レオニスは軽くゆすった。
「メイ!」
「あ・・・」
「顔色が悪いぞ」
「・・・怖い、夢見て」
 まだこわばったまま、だがメイはレオニスに笑って見せた。
「小さな子どもみたいだよねー」
「・・・どんな夢だ?」
 レオニスは笑わなかった。優しくメイの背中を撫でる。
 メイはにこっと笑った。
「あのね〜。大きな熊に追いかけられる夢!」
 レオニスは熊という言葉に一瞬あっけにとられた。
 だがすぐに優しい眼差しになると、メイを横にならせた。そのメイの肩にしっかりと腕をまわす。
「・・・・・・こうしているから、もう大丈夫だ。何も怖がることはないだろう」
「レオニス」
「わたしがお前を守ってやる。熊ぐらい敵ではないさ」
 言い慣れない冗談を口に、レオニスはもう片方の手でメイの髪を撫でた。
「まだ朝まで時間がある。・・・・・・もう一眠りするといい」
「うん。・・・ありがと。起こしちゃってごめんね」
「・・・かまわない」
 レオニスは静かに言った。
 レオニスが普段接している者たちに比べて、腕の中の娘はあまりにも小さく華奢だった。レオニスが力を込めれば、簡単に壊れてしまいそうだ。
 それをあらためて感じるこんな時、レオニスはどうしようもなく彼女が愛しくなる。強烈な庇護欲とでも言うのだろうか、そういうものが彼の胸に尽き上がるのだ。もちろんそれはメイ個人にだけ向けられるものであって、いくらか弱くとも他の女性に感じるわけではないのだが。
 レオニスはメイと一緒に暮らし始めてから、彼女の明るさや強さだけでなく、彼女が普段周りに気づかせない弱さも知るようになっていた。
 そしてレオニスはそんなメイの一面も含めて、彼女の全てを愛していた。 
 レオニスの胸に、メイはさらに深く顔を沈める。
 それに応えるように、レオニスは彼女をしっかりと抱き返した。

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