calling


「アタシのこと・・・・・忘れないで・・・・」




「ミレーニアっ!!」




 どうして、言ってやらなかったんだろう。



 嘘でもいいから。

 あいつに、愛してるって。

 言ってやれなかったんだろう。









「リュード・・・・・・・」
 エレナの声が聞こえたけれど、俺はただ首を振ってみせるしかできなかった。
 スカイが、そんな俺の肩に羽ばたく。
「リュード! しっかりしろ!!」
「・・・・・・っ」
「ミレーニアの心を無駄にする気か!」
『リュード!』
 少し、強気な響き。
 ミレーニアの声が、蘇る。
 ・・・・ミレーニア・・・・。
「――生きろ! まだ、やらなくてはならないことが残ってるだろう!」
「――わかっ・・・てる」
 俺は、剣を握りなおした。
 生きぬかなければ。エレナを、皆を、守らなければ。
 足を、踏み出す。
 俺は走り出した。
 敵が、見える。
 敵の攻撃に、息を吐き、身体を沈める。
 腕をかいくぐり、懐につめる。
『リュードッ』
 記憶の中のミレーニアが、楽しげに、俺の名を呼ぶ。
 明るい笑顔。
『リュード』
 ふと見せた、悲しげな顔。
 いつも自由で、勝手で、わがままで。
 辟易するほど素直なようで、本当のところは素直じゃなくて。
 辛いときも平気な顔して。
 優しさを上手く現せなくて。
 誰にも気づかれないように、一人で肩を抱いてた。
「――やあッ」
 俺は気勢とともに、敵を切り捨てた。
 エレナたちを振り返り、その無事を確かめる。
『りゅーどー!』
 周りなんてお構いなしで、大きな声で駆け寄ってきた。
 いつもいつもいつも。
 鬱陶しいくらい、くっついて来て。
 うるさくて。
 どうしようもないほど。
「・・・・リュード・・・・・」
 エレナの様子で、俺はまだ自分が泣いているのに気づいた。
 剣を握る腕で、ぐい、と濡れている頬を拭う。
「――行こう」
 俺は言って、また進みだした。
『リュードッ』
 ミレーニアが、両手を広げて俺に笑う。
『大好き!!』
 ――言ってやればよかった。
 こんなに早く別れが来るのなら。
 好きだと、言ってやればよかった。
 もっと、優しくしてやればよかった。
 行く手の地面に、大きな段差ができていた。
 俺は先に飛び降りて、エレナを振り向いた。
 彼女の身体を抱え、ゆっくりと地に下ろす。
 敵の姿はない。
「走れるか?」
「ええ。大丈夫よ」
「よし。少し、走ろう」
 俺はエレナがついてこれるように速度をはかりながら、前へ走り出した。
 最期に、愛していると叫んでやればよかった。
 好きだと、叫んでやればよかった。
 たとえそれが、あいつの求めた感情と一緒ではなくても。
 それでも。
 それでも、そう声のかぎりに叫んでいれば、あいつの最期の一瞬を幸せにできたかもしれない。
「・・・・幸せそう、だったぞ」
 見透かされたようなその言葉に、俺はビクリとスカイを見た。
 静かに、スカイは俺を見ていた。
「――幸せそうに、微笑んでいた」
「泣いていたッ」
「――それでも、笑っていただろう? エレナを、お前を助けることができて」
「それでもッ、俺は・・・!」
 ――言ってやりたかったんだ。
 俺はスカイから目をそらし、行く手に目を戻した。
 俺は、硬く、拳を握り締めた。
 言いたかったんだ・・・・!
 俺が、言いたかったんだ。
 ミレーニア。
 お前に、愛していると。

 
 

『リュード〜!』




『ダイスキ!!』





分かってる。

聞こえてるよ、ミレーニア。



今も。

ちゃんと聞こえているよ。

END

BGM■blue rain 〜short ver〜/Copyright (C) LUNA

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