それでいい。











          「お前、まだ起きてたのかよ。」

          いつまでも消えない明かりが気になって様子を見に来て見ると、

          テーブルに肘をついている里穂子がいた。

          「うん、ちょっとね。」

          「・・・橙次は。」

          そういえばさっきから姿が見えないので、聞いてみた。

          「飛行機の整備。しばらく会えなくなるから掃除しといてあげたいんだって。」

          「あいつの何がそうさせるんだ・・・?」

          「ほーんと好きよねー。これから風水の谷へ行くために梅千代おばあちゃんに飛行機預かって

           もらうんだからほっとけばいいのに。」

          「で、お前はそれを待ってんのかよ。」

          「・・・別に!眠くないからここにいるだけ。」

          「そーかい。さっさと寝ろよ、明かりついてっと気になるだろ。」

          「・・・うん。」






          


          「・・・やっぱり寝てんのか。」

          明かりが消える気配が無いのでもう一度のぞきに来た藍眺の目に、

          そのままテーブルの上に顔を伏せて眠っている里穂子が映る。

          「眠くないんじゃなかったのかよ・・・。」

          さっきここに来た時からそんなに経ってはいないが、橙次はまだ帰ってきてはいない。
          
          「・・・ちっ、何で俺がこんなこと・・・。」
          
          放っておこうと思ったがそれも出来ず、毛布を持ってきてそっとかけてやる。

          なんとなくイスに座って、なんとなくその寝顔を見る。

          すると、真っ黒になった橙次がやっとドアを開けて入ってきた。

          「お・・・!何やってんだ藍眺〜。まだ起きてたのか。」

          「お前こそ何やってたんだよこんな時間まで!」

          「待っててくれたのか藍眺くん!!」

          「じょおだんじゃねぇっ!!誰がてめぇなんか!!」

          「照れるなよォ。わかってんだぞ?」

          「何がだアホ!!・・・待ってたのはこいつだよ!」

          藍眺の言葉で、橙次は藍眺の横にいる里穂子に気づく。

          「里穂子・・・。あ〜あ〜、こんなとこで寝ちまってしょぉがねーなー。」

          「誰のためだ誰の!」

          「・・・藍眺。もしかして、やいてんのか?」

          「ばっ・・・!ばか言ってんじゃねぇよ!ねーだろそんなわけ!!」

          「よし!お前里穂子部屋まで連れてってやれ。」

          「なな何で俺が!」

          「藍眺。お前俺の妹に風邪引かせるつもりか?」

          「知るか!!だったらお前が連れてけよ!」

          「俺はあいにくヒンデンちゃんのお掃除で手が真っっっ黒だ!」

          橙次は意味無く自慢げに答えた。

          「ま、里穂子が風邪引かねぇようにわざわざ毛布をかけてやった奴が誰かは知らねぇが?」

          「・・・・っ!」

          容赦ない攻撃に何も言えなくなっている藍眺を後目に、風呂場へ向かいながら続ける。

          「そのうちその優し〜い奴が連れてってくれるだろー。」

          「・・・・・・っっ!!」

          ・・・ちっくしょおぉ・・・、あいつぶっ殺してやる。







          ベッドがひとつ置いてある殺風景なその部屋は窓が開いていて、気持ちのいい風が入ってくる。

          結局部屋まで連れてきてやった藍眺は、里穂子をゆっくりベッドの上に寝かせる。

          気が付いたら、ずっと見てた。

          お前ばっか。

          

          天空龍とか、帝国軍とか、親友の裏切りとか、何にも知らないような寝顔。


          
          「・・・・・・・・ぶす。」


          
          なんとなく顔を近づけるが、なんとなく気が向かなくなって、

          そのままコツンと額を寄せる。



          こいつは俺を受け止められるかな。

          この細い腕とか、体とか、全部で。




          一番大事なものが分かった時、何かが変わる。

          かっこわりぃけど、それでいい。

          これからたぶん、それが分かる。

          互いにそれが違ったとしても、

          分かっただけで、・・・それでいい。





                                                   <<<END>>>

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